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『サルビアの花(後編)』 *独自設定あり *希少種虐待 四、 雷鳴が轟く。その音に反応したゆうかが目を覚ます。覚ましたつもりだった。起き上がることはおろか、満足に瞼を開けるこ ともできない。あんよからは冷たく無機質な感覚が伝わってくる。 (ゆうか……どうしちゃったのかしら……?) 未体験の感覚が。自らの意思で目を開くことのできない違和感が。ゆうかの心を徐々にすり減らして行く。ゆうかが唇を噛み 締めた。そのままの勢いで力強く重い瞼を開く。すぐに光は入って来なかった。体全体を動かすことができないので、視点だけ を動かして周囲の把握を試みる。それでも真っ暗で何も見えなかった。 雷光。 カーテンの隙間から差し込んだのであろう稲妻の閃光が一瞬だけゆうかの周りを照らした。 (ここは……どこ……?) 僅かの間に飛び込んできた情報では総合的な判断を下すことはできない。結局、ゆうかはここがどこかわからないままに再び 目を閉じた。目を開けているのも億劫なほどに疲弊しているのだろう。あんよを動かしてみようという気にすらならなかった。 その時、後方から何やら扉を開くような音が聞こえてきた。そちらの方に目を向けようとするが、一度閉じた瞼を開けるのは辛 い。何より体を動かすことができないのだから目を開けたとしても意味を成さないだろう。 足音が近づいてくる。動かぬ我が身を更に固くして警戒を示す。瞼を閉じているのではっきりとはわからないが、部屋に光が 満ちたのだろう。瞼の裏に広がる闇の世界が少しだけ白けた。他者の気配だけは感じることができる。しかし、それが誰かまで はわからない。 「起きろ」 軽く息を乱すゆうかに対して命令口調で声がかけられた。ゆうかはその声を覚えている。先ほどまで重く閉ざされていた瞼が 反射的に開いた。飛び込んでくる光に目が眩んだのか一瞬だけぎゅっと目を閉じ、恐る恐る目を開く。ゆうかの視界には男が映 し出されている。痛みを忘れたかのようにあんよを引きずるゆうか。男の元に駆け寄りたかった。しかし、その動きは見えない 何かによって遮られる。 「……っ? …………ぅ?」 「……透明な、箱だよ」 「ゆ……?」 ゆうかに言っても理解することはできないだろうと男も分かってはいたが、かける言葉が思いつかなかったのでつい口に出し てしまった。男の手には銅製のバッジが握られている。男はゆうかの目の前にどっかりと腰を下ろした。溜め息気味に一呼吸置 く。そして、ゆうかに見せつけるように銅バッジを載せた掌を差し出した。小刻みに震えながらもゆうかがその銅バッジを注視 する。小首を傾げるような動作。男はそのゆうかの仕草に苛立ちを覚えた。 「これが何かわかるか?」 「ゆうか……しら、ないわ……」 男と時間を共にすることで気持ちが少しずつ回復しているのか、口調が徐々に安定してきた。男は静かな、押し殺したような 声でゆうかに説明を始めた。 「これはな。 銅バッジと言って、人間に飼われているゆっくりがつける物だ」 「ばっじ……、さん?」 「そうだ。 ……この銅バッジの持ち主が分かるか?」 「…………」 顔を左右に振る。男がゆうかに悟られないように拳を握りしめた。男が冷ややかな口調で続ける。 「思い出せ。 お前が街関わったゆっくりなんて何匹かしかいないだろう」 “お前”。そう呼ばれてから初めてゆうかは男の雰囲気がいつも違うことに気がついた。しかし、思い出すことはできない。 思い出せるのは最後に自分を襲った強い衝撃だけだ。そこから映像が巻き戻されるかのように少し前のシーンを捉えた。足。そ れがゆうかの目の前に凄まじい速度で迫る。一直線に歩いてくる誰か。 (……だれ……か? ……お、にぃ……さん……?) 不意に顔の中心に激痛が走った。思わず身を捩る。それから冷汗がだらだらと流れ落ちた。呼吸が速くなっていく。男が座り 込んでいた場所。そこに何があったか。れいむの残骸だ。れいむはゆうかの育てたサルビアを引き千切った。 「れい……む……?」 男が唇を噛み締める。ゆうかはそれでもまだ男の変貌の理由には気がついていないようだ。 「あいつは……れいむはな。 僕の飼いゆっくりだ」 「かい……ゆっくり? なんなの……? それは……」 ゆうかがピンと来ないのも無理は無い。ゆうかは元々自然の中で暮らしていた生粋の野生ゆである。街や人間の事は野良とし て生きた数カ月で理解することができても、バッジや飼いゆの事など知る由もなかった。男が淡々と言葉をつなぐ。 「飼いゆっくり、って言うのはな。 人間と一緒に、人間の家で暮らすゆっくりの事だ」 「にんげんさんと……いっしょに……? あの、れいむが……?」 「そうだ。 僕と一緒に暮らしていたれいむ。 僕にとっては大切な存在だった」 「おにいさんの……たいせつな……れいむ?」 「でも、もう、そのれいむはいない」 「…………っ」 「殺されたんだ。 ゆうか。 お前にな」 男の刺すような視線がゆうかを射抜く。ゆうかの顔が青ざめていった。一時的に失くしていた記憶が完全に蘇る。ゆうかはれ いむを殺したのだ。サルビアを荒らされたから。一つ一つ糸がほどけていくように、男の意図するところが見えてくる。ゆうか はサルビアを永遠にゆっくりさせたれいむを殺して制裁した。男はれいむを永遠にゆっくりさせたゆうかを制裁しようとしてい る。その方法は想像に難くない。利口なゆうかだからこそ、いち早く気付いてしまった。これがそこらのゆっくりであれば、痛 めつけられ尽くして初めて何かに気付くかどうかのレベルであろう。 「少し、昔話を聞かせてやるよ」 固唾を飲むゆうか。男はゆっくりと自分の身の上話を始めた。 「僕はゆっくりを苛め殺して遊ぶのが趣味だった。 我ながら酷い趣味だと思う。 毎日毎日ゆっくりを潰したよ。 わざわざ ペットショップで安いゆっくりを買ってでも潰していた。 お前らみたいな貧弱で無力な連中が泣き叫ぶ顔を見るのが楽しくて 仕方がなかったんだ。 いろんなことをした。 殴ったり、蹴ったり、床に叩きつけられたり。 目玉を抉ったり、舌を引きち ぎったり、髪の毛を一本残らずむしり取ったり、火で炙ったり、切ったり、刺したり……。 ゆっくりを苦しめる事だけを考え て生きてた。 どう思う? 頭のネジが二、三本……いや、そもそもネジ穴すら無いんじゃないかと思わないかい? 僕は、ゆ っくりを何匹潰してきたか分からない。 いちいち数えるような事はしなかったからね。 僕にとってゆっくりの命なんて本当 に価値のない物だったんだ。 何匹、何十匹潰れて死んでも……それを嘆くのは結局後から潰されて死ぬ残りの連中だけだ。 どうせ全部潰れて死ぬんだから、悲しい思いをするゆっくりなんていない。 ゆっくりの死に心を痛める奴なんてこの世にいな いんだ。 それぐらい、お前らゆっくりは脆くて儚い。 いてもいなくても誰も困らない、無意味な連中なんだよ」 男が何を言っているのかゆうかは半分も理解することができない。 「……じゃあ、どうして……あのれいむといっしょにくらしていたの……?」 「あのれいむはな。 僕が最後に殺したゆっくりの子供なんだ」 「……どういう、こと?」 「道路に飛び出してきた野良のれいむを僕は原付で轢き殺してしまった。 その野良れいむの頭には茎が伸びていてね。 まだ ピンポン玉にも満たないくらいの赤ゆがぶら下がっていた。 親の野良れいむは即死。 弾き飛ばされた野良れいむの茎は電柱 に勢いよく叩きつけられた。 そのとき、三匹実っていた赤ゆのうちの二匹が潰れて死んだ。 残りの一匹はその時の衝撃で茎 から離れて生まれた」 男は時折目を細めては掌を額に当て少し息苦しそうに続けた。 「最初の挨拶を返してくれるはずの親も姉妹もこの世にいない。 それに気付いた赤ゆはぴーぴー泣き出した。それからようや く親である野良れいむと姉妹が死んでる事に気づいたんだ。 赤ゆは僕に助けを求めてきた。 こんなちっこい体で、何度も何 度も頭を下げたんだ。 親と、姉妹の命を奪ったのが……僕だという事も知らずに。 罪悪感があったのかも知れないな。 僕 は既に死んでいる野良れいむと茎に実ったまま潰れた二匹の赤ゆ、それから生き残った赤ゆを連れてここに帰ってきた。 そこ で、僕はその赤ゆにどうやっても母親と姉妹を助けてあげることはできないと伝えた。 そして、その原因が僕であるという事 も。 そうしたら、その赤ゆは泣きながら僕に“それでもお母さんとお姉ちゃんたちを助けようとしてくれてありがとう”とだ け言った。 何故か僕はその赤ゆだけは潰すことができなかったんだ。 多分、僕はその赤ゆを尊敬したんだと思う」 「にんげんさんが……? ゆっくりを……そんけい、するの……?」 「……僕が家族をゆっくりに殺されたら……。 きっと僕は目に映る全てのゆっくりを殺して回ったと思う。 裏を返せば、赤 ゆは僕を殺したいぐらい憎んだとしても仕方のないことだったはずだ。 いや、実際僕が憎くてたまらなかっただろうな。 そ んな相手に対して、ガキのくせに……いや、そもそも、ゆっくりのくせに全てを受け入れ許して……“ありがとう”なんて言え る奴は……ほとんどいないはずさ。 少なくとも僕には言えない。 気がついたら僕はその赤ゆと一緒に暮らし始めていた。 いつのまにか餌を与えていたんだ。 小さな口を動かしてもそもそと食べる姿を見て、僕は生まれて初めてゆっくりが可愛いと 思った」 真顔で話し続ける男。それを神妙な顔で聞き続けるゆうか。一人と一匹の間に重苦しい空気が漂う。 「僕は赤ゆ……、れいむにバッジ試験を受けさせようとした。 でも、生粋の野良である赤れいむに試験を受ける資格は無かっ た。 バッジ試験担当者には、室内飼いをすれば飼いゆっくりとして何の問題もないと説明を受けた。 それでも僕はれいむに バッジを与えてやりたかったんだ。 銅バッジの有無。 それはそのまま、そのゆっくりがこの世界で生きる価値があるかない かに通じる。 僕は、れいむがこの世界で生きる価値を与えてやりたかった。 笑えるだろ? 僕は今でもれいむ以外のゆっく りが生きる意味なんてないと思ってる。 ゆうか。 お前だって例外じゃない」 ゆうかがびくっとその身を震わせた。上目遣いで男を見上げる。 「……必死で頼み込んでれいむは特別に試験を受けさせてもらった。 ……その試験にれいむは合格したんだ。 ようやく、僕 はれいむに生きる価値を与えてやることができた。 分かるか……? お前がサルビアを死に物狂いで育てたように……僕はれ いむを育ててきたんだ」 ゆうかが歯をカチカチと鳴らし始めた。言わんとすることは既に理解できている。サルビアを千切られた時の自分自身の激昂 を思い出す。その時の自分と同じ感覚を男は覚えているのだろう。 その憎悪の対象はゆうかに向けられていた。 自分よりも 遥かに強い人間である男が、壮絶なまでの怒りを剥き出しにしているのだ。 「ゆうか。 僕はお前を殺す。 絶対に殺してやる」 「お、おにいさ……」 「その呼び方はやめてくれ。 虫唾が走る。 僕をそう呼んでいいのは、お前が殺した僕のれいむだけだ」 「お、おにいさん……。 ゆうかは……」 「ゆっくりと関わるのはお前を最後にしようと思う」 「おねがい……っ! ゆうかのはなしも……っ」 透明な箱に凄まじい衝撃が走った。その中にいるゆうかにまでその振動が伝わる。ゆうかの目の前にあるのは男の握り拳だっ た。男が透明な箱に正拳を撃ち込んだのだ。強化ガラスに触れている部分から細く血液が垂れる。ぶるぶると震える男の血管の 浮き出た腕に恐怖を覚えるゆうか。ガタガタ震えながらも決して涙を流そうとはしない。目尻に涙をいっぱいに溜めながら唇を 噛み締めていた。 「……お前の話? ……れいむを交えてなら聞いてやらない事もないけど……お前一匹の言い分なんて、聞くつもりはないよ」 「れ、れいむは……っ!!」 「うるさい。 お前如きがれいむを語るな。 反吐が出る」 「ゆぐ……っ!!」 男の言うことは正論だった。ゆうかの弁解は意味を成さない。死人に口なし。ゆうかの言葉に対して、もう一匹の当事者であ るれいむの意見は聞くことができないのだ。今更ゆうかの話を聞いてやる必要はない。既に男にとってゆうかは憎悪の対象とし か映っていなかった。無言のまま男がその場を去る。部屋の電気を消すとゆうかの視界は再び闇に染まった。恐怖と悲しみと寂 しさ、不安と焦燥感が入り混じりゆうかの心を蝕む。 「おにいさん……っ! おにいさん!! …………おにぃ……さん……」 ゆうかの口から発せられた言葉が闇に溶けて消える。誰にも届くことのない声を絞り出すように呟く。 「…………ゆうかは、あきらめないわ…………。 いつか……おにいさんもゆうかのおはなしをきいてくれるはずよ……っ!」 涙声。男に向けられた言葉ではない。ゆうか自身に向けた言葉でもない。ゆうかは既に確信していた。恐らく男はゆうかが何 を言っても聞いてはくれないだろう。それが怖くて怖くて堪らなかった。 朝方まで激しい雨が降り続いた。アスファルトに叩きつけられる機関銃のような雨音。落雷のたびに爆音が唸りを上げた。眠 りにつくことができなかったゆうかは、一晩中その音を聞きながら過ごしていたのだ。音と光が唯一、自分の存在を確認する手 段であったような気がする。音も光も届かぬ世界であればゆうかは虚無の彼方で打ちひしがれていただろう。 不意にゆうかの牢獄の扉が開く。ずりずりとあんよを動かして音の方向に顔を向けた。隣の部屋の光が一条暗闇に刺し込む。 その同一線上に男がいた。 「お……にぃさ……っ」 わずか一夜にして精神をすり減らしてしまったゆうかが消えてしまいそうな声を男にかける。男は無言のままだ。無言のまま、 ゆうかの入った透明な箱の前にやってきた。透明な箱の蓋に手をかける。 (……え?) その蓋が開けられた。ゆうかは一瞬だけ呆気に取られたような顔をした。飛び跳ねることはできないため、箱の中から脱出す ることは不可能であるがそれでも一条の光が刺したような錯覚を起こしたのだ。しかし、男の行動はゆうかの繊細な心を再び強 く打ち付ける。 「や……やめて! くさくてゆっくりできないわ……っ!!」 男はゆうかの入った透明な箱に生ゴミを投げ入れた。真っ当な餌を与えるつもりは無い。それでも餓死させてしまうわけには いかないので昨日までに溜まった生ゴミをゆうかの餌代わりにしたのだ。生ゴミとは言ってもそんなに日が経っているわけでは ない。野菜の切れっぱしや魚の骨など、まだ食材が何であるかを把握することは十分にできる。だが、ゆうかに対して男がただ 一言目の前の生ゴミを“食べろ”と言われたときは思わず目眩がした。 「この……くさいのを……たべろ、っていうの?!」 当然プライドが許さない。舌が肥えているわけでもないゆっくりにとって、生ゴミを食べることはそれほど苦になることはな かった。しかし、ゆうかは違う。目の前に置かれた臭い物に対して口をつけることはどうしてもできなかった。雑草とそれにつ いた水滴。それさえあれば良いのにそれすらも許されないと言うのだろうか。男はゆうかの言葉に対して何一つ返事を返さずに 部屋を出て行った。 透明な箱の中でゆうかは生ゴミの悪臭に顔をしかめながら箱の隅に身を寄せていた。呼吸をするのも困難である。息を吸い込 むたびに生ゴミの悪臭が体内に入ってくるのだ。街に下りてきても野生と変わらぬ暮らしを送ってきたゆうかにとってそれは未 だかつて嗅いだことのない匂いだった。もしも、ゆうかが多くの野良ゆっくり同様ゴミ箱を漁って生きていたのならば、それほ ど苦に思うこともなかったかも知れない。他の野良ゆと一線を隔てた生活をしていたからこそ、この仕打ちは耐え難いものであ ったと言える。 希少種として優遇され、気位の高いゆうかがコンポストにされた例はどれくらいあるだろうか。ゆうかは生ゴミをずっと睨み 続けていた。気持ち悪さに冷汗が流れてくる。それはゆうかの体力を更に奪って行った。激しく降り続く雨の音だけがゆうかに とっての気晴らしである。無音の空間であれば気が狂ってしまいそうだった。 その日一日。ゆうかは透明な箱の中で生ゴミと過ごした。感覚も麻痺してきているのか、箱の中に生ゴミを入れられた直後に 比べれば気分の悪さは薄れてきている。しかし、既に次の問題がゆうかを襲っていた。空腹である。なまじ食料に困るような生 活を送っていなかっただけに、食事を一日抜かれるということは想像を絶する苦痛であった。せめて水でもあれば話が違うのだ ろうが箱の中にあるのは残飯のみ。この生ゴミにも若干の水分が含まれているだろう。しかし、それを口に入れることはできな かった。どうしてもできなかった。 (こんなの……たべものなんかじゃないわ……っ) 思考を巡らすことにも疲弊してきた。乾いた喉と舌がゆうかを更に追い詰めて行く。泣き叫んだり暴れまわったりしない分だ け中身の消費は抑えられてはいるが、それが限界を迎えるのも時間の問題だろう。再び陽が落ち、部屋が闇に呑まれてもゆうか は強く目を閉じ悪臭と空腹に耐えていた。眠りにつこうと思っても空腹がそれを許さない。何度も何度も吐きそうになった。し かし、この状態で中身を吐いてしまうことは死期を早めるのと同義だ。箱の中の湿気も徐々にゆうかを蝕み始めていた。 季節は梅雨だ。雨は数日の間降り続くだろう。場合によってはゆうかにカビが生えてもおかしくない。そうなればますますゆ っくりできなくなってしまう。真夜中になってもゆうかは固く口を閉ざしていた。虚脱感と疲労感が全身を襲っているにも関わ らずどうしても眠ることができない。乾き切った口をパクパクと開いたり閉じたりを繰り返した。額のあたりが痛かった。目の 奥にも違和感を感じ始める。疲労と空腹による影響がゆうかの体に現れ始めたのだ。 (……おに……さ……。 たすけ……て……。 ゆ、うか……くるしい、わ……) 呼吸がおぼつかなくなってきた。ゆうかの中身が底を尽きようとしているのだろう。意識を失う手前まで陥っているゆうかに すがる物は何一つとしてなかった。無機質な透明の壁に乾いた舌を這わせる。味もしない。喉の渇きも癒されない。ゆうかはガ タガタと震え始めた。梅雨の湿気に一日中晒された生ゴミは少しずつ腐り始めている。ゆうかがチラリと生ゴミの置いてある場 所を覗き見た。 (……なにか、たべないと……しんじゃう……) ずりずりとあんよを這わせた。暗闇の中、悪臭の源を頼りに移動する。あんよに嫌な感触を感じた。ぬめりを帯びた冷たい汁 のようなものがゆうかのあんよに付着したのだ。それだけで思わず吐きそうになってしまう。ゆうかはあんよを箱の床に懸命に こすりつけた。しかしガラスとあんよの間で腐った何かは広がるだけだ。思わず叫びそうになった。しかしそれだけの力も残さ れてはいない。 (…………っ!!!) ゆうかが生ゴミに舌を這わせた。舐め取ったぬめりを口の中に無理矢理誘導する。口の中で咀嚼をしようとする前に形の崩れ た生ゴミがゆうかの舌一杯に広がった。瞬間、おぞましい味がゆうかの口の中を襲った。冷や汗がだらだらと流れる。涙目にな った。体内から中身が逆流しようと暴れ回っている。ゆうかの本能が告げているのだ。これを飲み込んではいけないと。それで も飲み込まなければゆうかは死んでしまう。それも本能で理解しているため、ゆうかはそれを無理矢理喉の奥に流し込んだ。そ れもつかの間、ゆうかは中身の蜂蜜と一緒に生ごみを吐き出してしまった。 「……ゅげぇ……、ぅ……ぇ……」 一度口の中に広がったぬるぬるした不快な液体と味が記憶から離れない。その味を思い出しては喉の奥から中身が溢れてきた。 「ゆ゛っ、ゆ゛っ、ゆ゛っ……」 ゆうかの表情が崩れて行く。少しでも体内から腐臭を逃そうと伸ばした舌がだらりと垂れていた。涎を垂らすほどの水分はな い。ゆうかが目を閉じる。それから気が狂ったかのように生ゴミを口の中に次々と入れた。ぐちゃぐちゃと嫌な感触が舌の上を 這いずりまわる。何度も何度も吐きそうになった。気持ちが悪い。意識せずとも体がぶるぶると震えていた。涙が両の頬をボロ ボロと伝う。生ゴミを飲み込むたびにゆうかの中の何かが音を立てて崩れて行った。歯をカチカチと鳴らしながら“食事”を終 えたゆうかが呟く。 「……ふしあわせ……」 ゆうか自身の吐き出した息さえも腐臭を帯びていた。それが嫌で嫌で堪らない。ゆうかは泣いた。真っ暗闇の中で、誰にも見 られることなく涙を流し続けた。あまりの不快感で嗚咽を漏らす度にそのまま中身を吐きそうになってしまう。苦しかった。そ れでもゆうかは生きるために生ゴミを口の中に入れていく。ゆうかの口周りに腐ってドロドロになった食べ物の残骸が付着して いく。それを舐め取るのも苦行であった。緑色の前髪に魚の皮がこびりついている。それが視界に入るのが辛かった。顔を箱の 壁に押し付けて何度も何度も顔を振った。 何度も何度も唾を吐いた。それでも舌に絡まる粘性の液は離れない。ゆうかの視線が虚ろになっていく。暗闇の舞台。その中 央で悪臭と踊らされる。永遠とも言える観客なき輪舞にゆうかの心は憔悴しきっていた。心が蝕まれていく。声をかける相手も 触れる相手もいない絶望。奪われたわけでもないのに閉ざされた視界に心を枯らす。確実に、少しずつ。ゆうかの心は朽ち始め ていた。ゆうかは孤高ではあっても孤独ではなかった。自分の傍には常に草花が揺れていたのだ。他のゆっくりにそれらは餌と しか映らないであろうが、ゆうかにとっては大切な友であり家族である。男と透明な箱に監禁され、ゆうかは初めて孤独という 名の恐怖を味わうことになったのだ。枯れ果てたと思っていた涙があふれ出す。 生きるためだ。生き残る、ただそれだけのため。ゆうかがぐちゃぐちゃという音を立てながら目の前の生ゴミを口に運んだ。 舌の裏側に。歯と歯の間に。喉の奥に。腐りかけた食材が悪臭を伴いまとわりつく。緋色の瞳が濁っていった。涙で滲んでいる わけではない。ゆうかは自ら、自分という型枠を壊したのだ。 コンポストとしての日々はそれからも続いた。男が部屋に入ってきてもゆうかはそちらに視線を向けようとしない。惨めな姿 を見られたくなかった。相手は想い人だ。生ゴミまみれの唇を。汁まみれの顔を。絶対に、絶対に見られたくない。透明な箱の 中でゆうかの後ろ姿だけが小刻みに震えていた。男もゆうかの顔を覗き込もうとはしない。箱の中。ゆうかから少し離れた位置 に新しい生ゴミを放り込む事を繰り返す。男はゆうかに選択肢を与えていたのだ。自らの意思で腐りかけた食材を食らうこと。 それが男がゆうかに課した贖罪の一つである。男はゆうかという存在をゆうか自身に否定させてやりたかった。自分がいかに価 値のない存在であるかをその身に刻み込んでやりたかったのだ。れいむを殺しておいて、れいむを語ろうなどというふざけた存 在そのものを消し去ってしまいたかった。しかし、それではれいむの味わった苦痛を与えてやることはできない。男の心は憎悪 に支配されていたのだ。 雨は強弱をつけながらなおも降り続いていた。陽の光は久しく見ていない。多湿の環境に放り込まれた生ゴミが痛んでいくの は早かった。男はわざと生ゴミを腐らせてから透明な箱の中に供給していたのである。もはや形を成さないゲル状の“何か”を 口に入れたときは身も凍る思いがした。舌の上で溶けて広がる異臭とぬめりを帯びた食感。それを口の中まで吐き出した自分の 中身と一緒に飲み込む苦行。その姿と表情にかつての利発的な面影はない。 「……むーしゃ、むーしゃ、しあわせー…………」 いつしかゆうかは壊れたレコードのように生ゴミを口に入れてはこの言葉を呟いた。そこに表情はない。ストレスのせいか張 りを失ったゆうかの肌は完全に死ぬ間際の野良ゆのそれである。色褪せた瞳は宙に向けられ虚空を彷徨っていた。 何日かぶりに厚い雲から太陽が顔を覗かせた。カーテン越しに入ってくる淡い光がうっすらと部屋の中を照らし出す。思えば ゆうかはこの部屋の中を初めて見たのかも知れない。視線だけを動かしながら疲れ切った表情で辺りを見回した。ゆうかの視界 に最初に入ってきたのは小さな小屋である。ゆうかに読むことはできなかったが、小屋の“表札”にはれいむという文字が書か れていた。それから少し浅めの餌皿。高い戸棚の上には開封済みのゆっくりフードが乗っている。なんとなく理解することがで きた。ここはれいむの部屋なのだろう。 ゆうかが辛そうに目を閉じた。そして想いを馳せる。ここであの時のれいむはどれだけ幸せな時を過ごしたのだろう。外敵に も自然にも襲われることなく、あの優しい男と一人と一匹で。どれほど長い時間を過ごしたのだろうか。床に転がる陰陽玉のぬ いぐるみの周囲ではしゃぐれいむとそれを見守る男の幻覚が視界をよぎる。ゆうかが激しく顔を横に振りその幻覚を払う。その とき隣の部屋から声が聞こえてきた。 男の声なのか。他の誰かの声なのか。それさえも分からないほどにか細い声がゆうかの監禁された部屋まで届く。どうやら男 以外にもう一人、この家の中にいるようだ。男は会話をしているようである。ゆうかはますます孤独の寂しさに苛まれた。自分 以外の相手とはちゃんと話をしてくれるのだ。たったそれだけの事実が重く重くゆうかの壊れかけた心にのし掛かる。今すぐこ の場を逃げ出したかった。悲しくて悲しくて仕方がないのだ。 自分に向けてはくれない笑顔を。 自分にかけてはくれない言葉を。 男と会話をしている誰かには当たり前のように繰り返しているのだ。その相手が自分ではないことにゆうかはただひたすらに 涙した。 (ゆうかも……ゆうかも、おにいさんといっしょに、おはなししたい……) サルビア畑での男との思い出がまるで走馬燈のように蘇る。男は思い出の中でしか微笑まない。あんなに優しい言葉をかけて くれたのに。あんなに慰めてくれたのに。逢いたくて逢いたくてたまらなかったのに。それなのに、全てが音を立てて壊れてし まった。流れ落ちる涙が透明な箱に小さな小さな水たまりを作っていく。声を押し殺して泣いた。大きな声で泣いたとしても、 男は駆け寄ってきてはくれないだろう。それならばいっそ。誰にも悟られずに静かに泣き崩れたい。そんな思いを巡らせるうち に隣の部屋から男ともう一人の声が聞こえなくなった。ゆうかの心が雀の涙ほど晴れる。大好きな男の声。それでも自分に向け られたものでないのであれば、聞こえないほうが幸せであると言える。 「……ん……、……ぁ……」 再び隣の部屋から声が聞こえてきた。ゆうかが落胆の表情を浮かべる。一言も隣の声を聞くまいと目を強く閉じるゆうか。そ の声は先ほどとは少し様子の違うものだった。互いの声のテンポが合わない。男以外のもう一人の声のみがうっすらと聞こえて くるだけである。 「……?」 ゆうかが閉ざされた扉の向こう側に神経を集中させる。切ない吐息。甘い睦言。それが何を意味しているか、ゆうかには理解 することができない。時折少し高い声が小さく響く。押し殺したようなくぐもった声。 (なに……かしら……。 ゆっくりできないわ……) 男の声ともう一人の声。二つの声が混じり合って溶ける。溶け入った甘美な声はゆうかの元まで届いた。隣の部屋で行われて いるであろう秘め事の光景を思い描くことはできないはずなのに、ゆうかの心には不快感だけが渦巻いていた。折り重なる二つ の声を聞いているのが辛くて堪らない。自然と涙が溢れ出す。妖艶な声が強弱を繰り返しゆうかの元へと届く。ゆうかにはなぜ 自分が涙を流しているのかさえも分からなかった。 (おねがい……やめて……。 いや……) 誰へともなく向けられる懇願。その願いを受け入れる者は誰もいない。強く目を閉じる。唇を噛み締める。どうして今、雨が 降っていないのだろうかと天を呪った。聞きたくない声をかき消してくれるであろう雨は今日に限って降らない。 陽の光が入っても入らなくても。 雨が降っても降らなくても。 男の声が聞こえても聞こえなくても。 ゆっくりすることなどもうできないのだと、ゆうかは悟った。ゆうかは、既に自分という存在を見失っていたのだ。 六、 叩きつける雨。その凄まじい音のせいで男が扉を開けたことも、箱に近寄って来たことにも気づかなかった。不意に透明な箱 が持ち上げられる。その中で眠っていたゆうかは床をごろごろと転がり食べ残していた生ゴミへ顔から突っ込んだ。ゆうかの顔 中を腐った野菜の汁が垂れる。突然の出来事に混乱気味のゆうかだがそれでも言葉を発することができない。いつの頃からかゆ うかはほとんど喋らなくなってしまった。男はゆうかを透明な箱に入れたまま隣の部屋へと移動していく。蛍光灯に照らされた 部屋のあまりの眩しさに目が眩みそうになった。男がテーブルの上に透明な箱を置く。その中でゆうかは覇気を失った顔できょ ろきょろと周囲を見渡していた。不意に透明な箱の蓋が開けられる。逃げだそうと思えば逃げ出せたはずだ。極度の疲労とスト レスがそれを許さなかった。 ゆうかは静かに目を伏せ男と視線を合わせようとしない。ボロ雑巾のような自分の醜い姿を見せたくなかった。今の自分には 男と視線を合わせる資格もない。憔悴しきっているにも関わらず、男を目の前にするとゆうかの想いがくすぶられる。本来なら 気にしなくてもいいはずのことまで気にしてしまう。 「……ゆうか」 「…………ッ!!」 男に声をかけられた。緋色の瞳を点にして男を睨みつけるように見上げる。少しだけ開いた口が塞がらない。その表情はゆう からしからぬ、愛らしい……少し間抜けなものだった。男が箱の中に手を入れる。ゆうかは夢を見ているのではないかと我が事 を疑った。男の掌が両頬に触れる。それだけでゆうかの両の瞳からぽろぽろと涙が溢れ始めた。そのまま抱き締めて欲しかった。 いや、我儘は言わない。少しの間だけでもこのまま自分に触れていて欲しかった。しかし、素直になることはできない。 「やめて……おにいさんっ! ゆうかはきたないから、さわったらだめよ……っ!」 生ゴミまみれの顔をぐしゃぐしゃにして、泣きながら必死に言葉を紡ぐ。その訴えは本音半分、嘘半分。男はゆうかの訴えを 聞き入れなかった。そのまま、台所へと足を運ぶ。ゆうかは嗚咽混じりで必死に平静を保とうとしている。ゆうかは冷たい床の 上に載せられた。 「……ゆ?」 男の大きな手がゆうかの緑色の髪の毛に触れた。そのまま左手を下ろす。カチリという音が聞こえた。それから男は両手でゆ うかの頭を押さえた。もともと疲労困憊のゆうかである。抵抗することは叶わない。また、抵抗する必要もなかった。男の手に 触れてもらえるというこ…… 「ゆ゛う゛ぅ゛ぅ゛ッ??!!!」 思考が飛ぶ。思わず目を見開いた。あんよが押し付けられている冷たい床がどんどん熱くなってきているのだ。最初は温かい と感じていたぬくもりが突如としてゆうかのあんよに牙を剥いた。サラダ油も敷かれていない冷たい床……フライパンの上でゆ うかが顔をぶんぶんと振って抵抗を試みる。 「ゆ゛あ゛っ……ッ! あ゛づぃ……ッ!!! だずげで!!! おにぃ゛ざんっ!!!! あ……あ゛あ゛あ゛あ゛っ!!!!」 幸せは一転。地獄へと変貌した。ジュウジュウと音を立てながらゆうかのあんよが焼き焦がされていく。ゆうかは気が狂いそ うなほどに暴れ叫んだ。どんなに冷静であっても、どんなに自分を律することができても。自分の体の一部を生きながらにして 焼かれるという苦痛は想像を絶するものだ。どんな生き物でもあっても耐えることはできないだろう。ゆうかの流した涙や涎が フライパンに触れるたびに蒸発していく。ゆうかの絶叫は瀑布の如く振り続く雨音に混じり部屋の中に長らく響いた。 「が……ひっ…………ゆ゛……ぎぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ッ!!!!!」 歯を食いしばり苦悶の表情を浮かべる姿に希少種としての品格はなかった。男がこれまで遊びでいたぶり殺してきたゆっくり たちと何一つ大差ない。炭化し始めたゆうかのあんよからは黒い煙が数条に渡り上がっている。フライパンに触れていた緑色の 髪の一部がちりぢりになって焼け焦げている。ゆうかのあんよを中心とした底部は全てフライパンで焼き尽くされてしまった。 「……痛いか?」 「ゆ゛っ、ゆ゛っ、ゆ゛っ、ゆ゛っ…………」 「れいむも同じ思いをしたんだ」 「…………っ」 「お前はれいむを動けなくした。 だから足を焼いてやった。 お前はもう一生動けない」 「あ……っ……、あぁああぁああ……っ」 あんよを動かそうとすると激痛が走る。フライパンにこびりついた焼け焦げたあんよがそこから離れようとしないのだ。無理 に動かそうとすれば皮が引き裂かれてしまう。ピクリとも動かすことのできないあんよを見てゆうかが顔面蒼白になって涙を流 した。 「ゆうかの……あんよさん……おねがい、うごいて……っ!!」 決して好きではない自分のあんよ。他のゆっくりよりも速く動くことはできず、獲物を使えるのにも一苦労だ。まだゆうかが 幼かった頃は狩りが上手くいかなくて何度も一人で泣いた。ゆうかは自分のあんよの遅さに少なからずコンプレックスを抱いて いたのだ。だからこそ、速く走るどころか一歩たりとも動く事ができないにも関わらず悠然と佇む色とりどりの花はゆうかに尊 敬の念を抱かせた。花を見ていると自分の悩みが詰まらない事なんだと言い聞かせることができた。 「ゆぁぁ……っ!!! いやあぁぁぁぁぁぁっ!!!!」 もう二度と。自分の意思で動くことはできない。大好きな花に駆け寄ることも、大好きな花の世話をすることもできない。そ れだけではなかった。炭化してガサガサと崩れ落ちるあんよの醜いこと。この醜いあんよを晒して生きることはプライドの高い ゆうかにとって死に値する屈辱だ。 ゆうかには飾りがない。あるいは、ゆうかにとってはプライドこそが命の次に大事な“お飾り”と言えるかも分からない。 「ゆ゛ぎゃああっ?!」 不意にあんよに走る激痛。視線を下に向ける。ゆうかのあんよをフライパンから無理矢理引き剥がそうとする道具が映った。 男がフライ返しを使ってゆうかのあんよとフライパンの間に押し込んでいるのだ。力任せに差し込むため、ゆうかのあんよの皮 がブチブチという音を立ててところどころ裂けていく。体内を抉るような痛みにゆうかは中身の蜂蜜をぱたぱたと吐き出した。 「ゆっ……ゆ、ゆ゛があ゛あ゛ッ!!!」 呼吸を整える暇もない。ついにゆうかは炭化したあんよの一部を引き千切られる形でフライパンから離れる事に成功した。前 髪を掴まれたゆうかがブラブラと揺れる。半分意識を失いかけていた。コンロに火をつける。男はゆうかの顔面をその火の中に 入れた。 「ぎゃああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!!!!」 再び絶叫が上がる。空中で顔面を炙られているにも関わらず身動きはおろか抵抗すらできない。ただひたすらに無防備なゆう かの顔が焼かれていく。目や口を開くと炎がその中に侵入して更なる苦痛を与えた。そのうちゆうかは言葉を発さなくなってし まった。頃合いと見た男がゆうかを炎から離す。コンロの火を止めると、ゆうかをテーブルの上に仰向けに寝かせた。そこには 顔中が炭化寸前のゆうかの姿があった。唇は焼けただれ、歯茎が浮き出している。水分を失った舌。瞼の一部も焼け落ち、目玉 の一部が皮から覗いている。恐ろしい形相だった。あんよ焼きと顔面焼きを受けたこのゆっくりをゆうか種だと判別できる者は いないかも知れない。 「俺はれいむの死に目に逢えなかった。 お前が、れいむをれいむだと分からなくなるまで踏みつけて殺したから。 だから、 俺もお前がお前だと分からないようにしてやった」 「かひっ……こひゅっ……」 切れ切れの呼吸。ゆうかは既に死を覚悟していた。このまま男に殺される。永遠にゆっくりさせられる。それでも、この痛み と苦しみから解放させてもらえるのならば願いの範疇である。もはや涙も流れなかった。引きつったような表情のままでゆうか が痙攣を起こしている。無表情の男の顔だけが視界に入った。 「…………ッ!!」 それから男の右手が視界に移る。その手には菜箸が握られていた。ゆうかは、もう悪い予感しかしないのか焼け焦げた顔でガ タガタ震えている。涙が感情の表現の仕方を忘れたゆうかの顔を流れ落ちていく。泣くことも叶わなかった。命乞いの言葉すら 思いつかなかった。ゆうかの視線と男の持つ菜箸が同一線上に重なる。目の前にその残酷なまでの一点が迫る事に怯えたゆうか が微かに顔を横に振る。ゆうかの右目に菜箸の先端が触れた。ゆうかが体全体をビクンと震わせる。そのままグリグリと眼球の 中心へと菜箸がねじ込まれた。 「ゆ゛っぎぃぃあぁぁ!!!」 「まだ叫ぶ元気残ってるじゃないか。 お前はれいむから光を奪った。 だから俺もお前から光を奪ってやる」 「あ゛ぁ゛あ゛ぁぁあ゛あ……ッ!!! ああぁ……い゛あ゛あ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!!」 ぶちゅぶちゅとゆうかの目玉から蜂蜜混じりの液体が噴き出す。深々と差し込まれた菜箸を何度も何度も回転させた。その度 にゆうかが歯をガリガリとこすり合わせてボタボタト涎を垂らした。寒気がする。もはや歯をカチカチと打ち鳴らすことさえで きなかった。痛みと恐怖と絶望と。様々な思いと想いが交錯しゆうかの体と心の奥の奥をバラバラに破壊していく。ぐちゃぐち ゃにかき混ぜられたゆうかの右目が形を成さない状態で涙と共に頬を垂れた。どうしてだろうか。ゆうかには理解できてしまう。 ゆうかの目玉はあと一つ、残っているのだ。また先ほどと同じ激痛がこれから自分を襲うと思うと怖くて怖くて堪らなかった。 「ゆ゛ぎゃああああああああ!!!!」 男は身動きの取れないゆうかの左目に何度も何度も菜箸を突き立てた。何回かに一回の割合で手元が狂うのかゆうかの顔を菜 箸が突き破る。既にゆうかの世界はその光を閉ざしていた。それに気付いているのか、気づいていないのか、男は狂ったように ゆうかに菜箸を突き立てた。ゆうかの顔面の至るところに穴が開き、そこから蜂蜜が漏れ出す。 ゆうかはぐったりとして動く気配がない。男もゆうかをテーブルの上に放置し離れて行ってしまった。 (おにぃ……さん……どうして…………ゆうかのおはなしを、きいて……くれないの……? ゆう、か……は。 おに……さ、 に……さるびあ……さんをみて、ほしかった……だけ、なのに……) ゆうかの眼球のあった場所から涙がぽろぽろとこぼれ続けた。これだけ泣いても涙は枯れないのだろうか。抉り出された二つ の目玉の残骸がテーブルの上に転がる。 (ゆうか……しぬ、のかしら……。 しぬ、のよね……。 おにいさんに……“すき”っていいたかったな……。 おねぇさん に……さるびあさんを……みせ、て……あげ、たか……) 口の中に柔らかい物が入れられた。ゆうかが一瞬だけ反応を示す。ゆうかには見えないがゆうかの目の前には男が立っていた。 男が持っている物をゆうかの口に少しずつ入れて行く。それから一言、呟いた。 「……食え」 「………………」 少しずつ。動かすことさえ億劫なはずの口を動かす。ゆうかにとって、男の言う事は絶対だった。従う必要などないはずなの に、自ら張り巡らせた呪縛に捕えられ逃れられない。もそもそ、もそもそと乾いた舌の上で与えられた食事を咀嚼する。柔らか なそれはゆうかの口の中に甘い世界を描き出した。 「むーしゃ、むーしゃ……しあわせー……」 飲み込む。少しだけ元気が湧いてきた気がした。男は更にゆうかの口の中に粒のような物を流しこんだ。ゆうかがそれも口の 中に入れて行く。 「美味いか?」 「……おい、し……。 おにいさ……ありが、とう……」 「そうか。 美味いか」 「…………?」 「れいむは、お前が育てたサルビアを食べようとしたから、殺されたんだっけか……?」 「なに……を……」 「れいむはな。 僕にサルビアを取って来てくれようとしていたんだ」 「……どう、いう……」 「僕はサルビアの花が好きでね。 れいむもその事を知っていた。 僕とれいむはお前が育てたサルビアを散歩の途中に見てい るのが好きだった。 少しずつ花を咲かせていくのを見て、お前が頑張っているんだなということもわかった。 雨が続いたか らな……。 僕とれいむの散歩の時間は少しずつ減って行った。 れいむは僕に“サルビアの花をプレゼントしてあげる”と言 っていたんだ。 れいむはサルビアをお前が育てたなんてことは知らない。 僕はれいむと一緒にお前の元にサルビアを分けて 貰いに行くつもりだった。 でも、れいむは一匹だけで家を飛び出してしまった。 僕の監督不行き届きだと罵ってくれても構 わない。 僕はれいむから目を離してしまった。 しばらくれいむを探して……」 「………………」 「サルビア畑に行ってしまったなら、お前と喧嘩をしているかも知れないと思っていた。 それが、な……。 まさか、殺され るなんてことになるとは……一体誰が想像できるッ?! お前らゆっくりの間では同族殺しは禁忌じゃなかったのかッ?!」 「おねがい……っ!! ゆうかの、はなしも……ッ!!!」 「さっきお前に食べさせてやったもの……なんだかわかるか?」 「……え?」 真っ暗闇の世界でゆうかがピタリとその動きを止めた。男はゆうかの崩れた顔にギリギリまで自分の顔を近づけて囁いた。 「お前が育てたサルビアだよ。 “むーしゃ、むーしゃ、しあわせー”って言いながら食べたのは、お前が育てたサルビアなん だよ」 「ゆ……? ゆゆ…………?」 ゆうかが小刻みに震え始める。それからゆうかは何かを言おうとした。男はそれを遮るようにゆうかを床に叩きつけて執拗に 踏みつけた。ゆうかの顔がぐしゃぐしゃに潰れて行く。中身の蜂蜜が何度も何度も飛び出した。男はゆうかを滅茶苦茶に踏みつ けながら涙を流す。 ゆうかの残骸を見つめながら男が呟いた。 「……お前を……れいむと一緒に飼ってやろうと思ってた……」 床にばら撒かれた粒と袋。袋には“サルビアの種”と明記されている。男がゆうかに与えたサルビアの種は、男がゆうかに渡 そうとしていたものだった。男が立ちあがり窓へと歩み寄る。閉め切られたカーテンを開く。雨は小雨になっていた。そこには まだ種を植えていない小さな花壇が作られている。小さな如雨露。小さな園芸用のスコップ。それぞれ二つずつ。 「…………。 もう、ゆっくりには関わらない…………」 男がゆうかの亡骸を花壇に埋めた。れいむのリボンも花壇に埋めている。男が部屋へと戻りカーテンを閉める。静かだった。 昨夜から降り続いた激しい雨が上がり、遠くの空に虹をかけている。 七、 「僕との結婚のこと……考えてくれたかい?」 ムードも何もあったものではない街のレストラン。その隅の席に向かい合わせで座っている男と女。男は真剣な目つきで女に 質問をした。女が目を伏せる。男が膝の上に置いていた拳をにぎりしめた。それから一呼吸置いて女が静かに語り出す。 「あなたから……初めてサルビアの花をプレゼントしてもらった時、私は有頂天だったわ」 「……どういうことだい?」 「赤いサルビアの花言葉……」 「花言葉?」 「そう。 赤いサルビアの花言葉はね。 “あなたの事ばかり想う”」 男が気恥ずかしさのあまりに思わず目を逸らした。女は慌てた様子の男を見てクスリと笑う。 「だからね。 私、一人で勘違いして小躍りして……。 あなたが意味深な態度であの花を私にプレゼントするものだからもの すごく期待しちゃった」 「……はは」 「それからあなたに告白されて……付き合い始めて。 もし、あなたからプロポーズされたら私も花を渡して答えようと思って た」 「それは……つまり……」 テーブルの一点を見つめて黙っていた男が顔を上げる。 女が座席に置いていた紙袋の中に片手を突っ込む。男は女の行動の一つ一つを目で追っては鼓動が速くなっていくの を感じた。慈しむような目つきで取り出したそれをそっとテーブルの上に置く。 「…………サルビア……?」 幅広の葉が美しく巡り長めの茎が背筋を伸ばしている。その先端に咲き誇る花の色は青。情熱的な赤いサルビアとは対照的に 青いサルビアは涼しげに佇んでいるかのようだ。まるで高貴な深窓の姫君でも見ているかのような錯覚に男はしばし目を奪われ ていた。女が嬉しそうに微笑む。 「……綺麗でしょう?」 「ああ。 僕は赤いサルビアしか見たことがなかったから……」 女が再び青いサルビアを手にとり、花を唇に当てた。それから顔を真っ赤にして男に差し向ける。男がそれを手にした。 「青いサルビアの花言葉は……」 「…………」 「“永遠にあなたのもの”」 時間が止まったかのように見つめ合う二人。どちらからともなく目を逸らし窓へと視線を移す。雨が降っていた。飲まずに放 置していたアイスコーヒーのコップが汗をかいている。 女は遠くを見つめていた。 (ゆうか……早くあなたに会いたいな……私があげたサルビアの種……。 ゆうかならきっと満開にできるはずだものね) 外ではすすり泣くかのような静かな雨がいつまでも降り続いていた。 いつまでも。 いつまでも降り続いていた。 おわり 日常起こりうるゆっくりたちの悲劇をこよなく愛する余白あきでした。
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『限りなく透明に近いはこ』 5KB 虐待 観察 赤ゆ 透明な箱 思いつきと勢いだけで… んあー。こういうのは絵でやったほうが向いてるのかもだなあ ・小ネタです ・赤まりさです ・虐待です ・直接手は出しません 『限りなく透明に近いはこ』 よちよちと歩いていく赤まりさ。 不意に、その歩みが止まる。 あんよに力はこもっているが、体がそれ以上前に進まないようだ。 赤まりさは顔面に圧迫感を感じていた。 あんよに力を込めれば込めるほど、それは強まる。 まるで『かべ』さんに顔を押しつけているみたいだった。 「じゅーり……? じゅーり……っ?」 なぜ、どれだけ進んでも風景に変化がないのか。 そう不思議に思いながらも、赤まりさはあんよを動かし続ける。 前方からかかる不思議な力に抗おうと、あんよにさらに力を込める。 赤まりさは自分がまったく前に進んでいないことに、まったく気付いていない。 とうとう疲れて、あんよを止めてしまう。 「ゆぅぅぅぅ! い、いじわるしないでね!」 赤まりさは怒りを感じていた。罵倒しようとした。 だが自分が何に怒りを感じているのか、わからない。 自分の言った「いじわる」とはなんのことなのかも、わからない。 誰がそれをしているのかも。 「まりしゃ、ぷきゅーするよ?!」 返事など、ない。 「ぷっきゅぅぅぅぅぅぅー!!」 赤まりさのぷくーに怯えるものも、あざ笑うものも、いない。 ぷくーを無視するものも、ぷくーに気付かないものすら、いない。 今そこにあるのは、小さな饅頭が口に空気をためて頬を膨らませている、という現象だけ。 赤まりさはぷくーをやめた。 「…………」 呆けた顔をしている。 赤まりさは、自分がなぜぷくーをしたのかわからなかった。 これが、もし『石』や『水』といった形として認識できるものであれば、違ったであろう。 ゆっくりは生命の無い物質に対しても、生命あるものに対するのとと同じように 慈しみ、語りかけ、そして時に怒りをぶつける。 だが、今は何もないのだ。 ただ 『なんだか前に進めない』 という理解不能な現象があるだけ。 誰もいないのに、その“いじわる”を誰がしているのか。 そもそもそれは“いじわる”なのか。 “いじわる”でないのならば、なぜ前に進めないのか。 赤まりさの頭脳が持つ論理構造では、それ以上、思考することすらできない。 「……ゆっ」 たっぷり10分かけて、ようやく赤まりさの瞳に意思の光が戻ってくる。 『誰が』も『何が』も『なぜ』もなく、理屈も理由もなく、 ただ進めないという事実のみが赤まりさの餡子に刻まれる。 だから次からは早かった。 向きを変えた赤まりさは別の方向へとあんよを進め、そこでも“進めない”ことを知り、 またさらに別の方向へと進んで“進めない”ことを知った。 そして、赤まりさはどこへも進めないことを知った。 「……………」 赤まりさはまた、呆ける。 赤まりさのあんよで端から端までおよそ1分ほどの広さ空間。 それだけが今の自分の全てで、世界の全てであること。 それが意味することを考えられなかった。 それはきっとあまりにも恐ろしいことだった。 誰もいない。何もない。どこへも行けない。 疑問をぶつける相手も、怒りをぶつける相手も、 疑問を抱く理由も怒りを抱く理由も何も一切見当たらない。 赤まりさにあるのは、ただ自分という存在だけ。 「………………ゆっ」 呆けた顔のまま、赤まりさは歩きはじめる。 唐突に世界から切り離された、まりさだけの世界の中を ただぐるぐるとくねくねと無意味に歩き続けた。 + 最終的に赤まりさは、滑らかであんよを傷付けるものもない地面であるにもかかわらず、 あんよが破けるほどに歩き続け、それでも歩こうともがき続け、 そして一言も……「もっとゆっくりしたかった」とも言わずに無言で事切れた。 「地味なのに……見てるこっちまで不安になってくるものがあるな……」 モニタで赤まりさが動かなくなるのを確認したあと、 俺は部屋の隅に設置した底の一辺が1メートル、高さ50cmほどの箱を開けた。 中では、モニタに映されていた赤まりさが 体の下半分から餡子のラインを長々と引いて突っ伏していた。 これは『おひとりさま』という名のゆ虐グッズだ。 その筋の人には評判の良いとある小さな会社が作ったもので、 一応は正式な商品ではなく実験作という扱いになる。 「思いつきで作ってみたけど場所取っちゃうし成功率低いんで没になりました! せっかくだから欲しいって方に抽選で3名様に『おひとり様』1号~3号をプレゼント!」 なんてざっくばらんな企画を公式サイトでやっていて、 つい好奇心で応募してみたら当たってしまって今こうして俺の手元にあるわけだ。 ちなみにこれは3号。多分、出来は一番良いのだろう。 構造はとてもシンプルで、 ゆっくりの目には大自然の風景に見える絵が内側にプリントされた外箱、 その内部を見るための小型カメラ、音声を拾うためのマイクは箱底面に仕込み済みで、 そしてこのグッズのキモである『限りなく透明に近いはこ』。 この『はこ』、なんでも屈折率とか加工法ががどうとかで、 人間でもうっかりすれば気付かず蹴っ飛ばしてしまうくらいの透明さなのだ。 こうして外箱のふたを開ける今も、言われなければそこにあるのがわからないくらいだ。 動画サイトでは「技術の無駄遣い」だとか言われまくり、 海外のサイトでも取り上げられて「また日本か」とか言われまくったほどの逸品である。 そんなものをわざわざ作った目的はただひとつ。 「ゆっくりが完全に認識不可能な“壁”を作ったらどうなるか」 それを確かめるためだった。 そのついでに、自分が狭いところにいると思わせないための箱を作ってみたところ、 おや意外にも……という結果になったのだという。 実行手順もとても簡単。 まず人間である自分の存在を悟られずにラムネなどで赤ゆを眠らせて拉致り、 外箱の中に安置して『限りなく透明に近いはこ』を被せる。 あとは赤ゆの思考がうまい具合に推移してくれるのを見てるだけ。 商品化しなかった原因である成功率は、だいたい6割くらいとのことだ。 地味だし、モニタ越しにしか見れないし、 その上これだけのためにスペースだいぶとるわで、 なるほど商品化できなかったのもうなずける。 だが、なんともいえない後味のする虐待だった。 「これ作ったひと、どういう性格してるのやら」 俺は赤まりさの死体を片付け、死臭消しスプレーを床面に吹き付けた。 これでまた使用するための準備は整った。 「さーて、お前もこんなふうに死んでくれるのかね」 今日はこのために10匹ほど野生の赤ゆを拉致ってきてある。 その中の一匹、健やかな寝顔を見せる赤れいむをつまみあげ、 俺は新たな期待とともに『限りなく透明に近いはこ』をセットするのだった。
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『限りなく透明に近いはこ』 5KB 虐待 観察 赤ゆ 透明な箱 思いつきと勢いだけで… んあー。こういうのは絵でやったほうが向いてるのかもだなあ ・小ネタです ・赤まりさです ・虐待です ・直接手は出しません 『限りなく透明に近いはこ』 よちよちと歩いていく赤まりさ。 不意に、その歩みが止まる。 あんよに力はこもっているが、体がそれ以上前に進まないようだ。 赤まりさは顔面に圧迫感を感じていた。 あんよに力を込めれば込めるほど、それは強まる。 まるで『かべ』さんに顔を押しつけているみたいだった。 「じゅーり……? じゅーり……っ?」 なぜ、どれだけ進んでも風景に変化がないのか。 そう不思議に思いながらも、赤まりさはあんよを動かし続ける。 前方からかかる不思議な力に抗おうと、あんよにさらに力を込める。 赤まりさは自分がまったく前に進んでいないことに、まったく気付いていない。 とうとう疲れて、あんよを止めてしまう。 「ゆぅぅぅぅ! い、いじわるしないでね!」 赤まりさは怒りを感じていた。罵倒しようとした。 だが自分が何に怒りを感じているのか、わからない。 自分の言った「いじわる」とはなんのことなのかも、わからない。 誰がそれをしているのかも。 「まりしゃ、ぷきゅーするよ?!」 返事など、ない。 「ぷっきゅぅぅぅぅぅぅー!!」 赤まりさのぷくーに怯えるものも、あざ笑うものも、いない。 ぷくーを無視するものも、ぷくーに気付かないものすら、いない。 今そこにあるのは、小さな饅頭が口に空気をためて頬を膨らませている、という現象だけ。 赤まりさはぷくーをやめた。 「…………」 呆けた顔をしている。 赤まりさは、自分がなぜぷくーをしたのかわからなかった。 これが、もし『石』や『水』といった形として認識できるものであれば、違ったであろう。 ゆっくりは生命の無い物質に対しても、生命あるものに対するのとと同じように 慈しみ、語りかけ、そして時に怒りをぶつける。 だが、今は何もないのだ。 ただ 『なんだか前に進めない』 という理解不能な現象があるだけ。 誰もいないのに、その“いじわる”を誰がしているのか。 そもそもそれは“いじわる”なのか。 “いじわる”でないのならば、なぜ前に進めないのか。 赤まりさの頭脳が持つ論理構造では、それ以上、思考することすらできない。 「……ゆっ」 たっぷり10分かけて、ようやく赤まりさの瞳に意思の光が戻ってくる。 『誰が』も『何が』も『なぜ』もなく、理屈も理由もなく、 ただ進めないという事実のみが赤まりさの餡子に刻まれる。 だから次からは早かった。 向きを変えた赤まりさは別の方向へとあんよを進め、そこでも“進めない”ことを知り、 またさらに別の方向へと進んで“進めない”ことを知った。 そして、赤まりさはどこへも進めないことを知った。 「……………」 赤まりさはまた、呆ける。 赤まりさのあんよで端から端までおよそ1分ほどの広さ空間。 それだけが今の自分の全てで、世界の全てであること。 それが意味することを考えられなかった。 それはきっとあまりにも恐ろしいことだった。 誰もいない。何もない。どこへも行けない。 疑問をぶつける相手も、怒りをぶつける相手も、 疑問を抱く理由も怒りを抱く理由も何も一切見当たらない。 赤まりさにあるのは、ただ自分という存在だけ。 「………………ゆっ」 呆けた顔のまま、赤まりさは歩きはじめる。 唐突に世界から切り離された、まりさだけの世界の中を ただぐるぐるとくねくねと無意味に歩き続けた。 + 最終的に赤まりさは、滑らかであんよを傷付けるものもない地面であるにもかかわらず、 あんよが破けるほどに歩き続け、それでも歩こうともがき続け、 そして一言も……「もっとゆっくりしたかった」とも言わずに無言で事切れた。 「地味なのに……見てるこっちまで不安になってくるものがあるな……」 モニタで赤まりさが動かなくなるのを確認したあと、 俺は部屋の隅に設置した底の一辺が1メートル、高さ50cmほどの箱を開けた。 中では、モニタに映されていた赤まりさが 体の下半分から餡子のラインを長々と引いて突っ伏していた。 これは『おひとりさま』という名のゆ虐グッズだ。 その筋の人には評判の良いとある小さな会社が作ったもので、 一応は正式な商品ではなく実験作という扱いになる。 「思いつきで作ってみたけど場所取っちゃうし成功率低いんで没になりました! せっかくだから欲しいって方に抽選で3名様に『おひとり様』1号~3号をプレゼント!」 なんてざっくばらんな企画を公式サイトでやっていて、 つい好奇心で応募してみたら当たってしまって今こうして俺の手元にあるわけだ。 ちなみにこれは3号。多分、出来は一番良いのだろう。 構造はとてもシンプルで、 ゆっくりの目には大自然の風景に見える絵が内側にプリントされた外箱、 その内部を見るための小型カメラ、音声を拾うためのマイクは箱底面に仕込み済みで、 そしてこのグッズのキモである『限りなく透明に近いはこ』。 この『はこ』、なんでも屈折率とか加工法ががどうとかで、 人間でもうっかりすれば気付かず蹴っ飛ばしてしまうくらいの透明さなのだ。 こうして外箱のふたを開ける今も、言われなければそこにあるのがわからないくらいだ。 動画サイトでは「技術の無駄遣い」だとか言われまくり、 海外のサイトでも取り上げられて「また日本か」とか言われまくったほどの逸品である。 そんなものをわざわざ作った目的はただひとつ。 「ゆっくりが完全に認識不可能な“壁”を作ったらどうなるか」 それを確かめるためだった。 そのついでに、自分が狭いところにいると思わせないための箱を作ってみたところ、 おや意外にも……という結果になったのだという。 実行手順もとても簡単。 まず人間である自分の存在を悟られずにラムネなどで赤ゆを眠らせて拉致り、 外箱の中に安置して『限りなく透明に近いはこ』を被せる。 あとは赤ゆの思考がうまい具合に推移してくれるのを見てるだけ。 商品化しなかった原因である成功率は、だいたい6割くらいとのことだ。 地味だし、モニタ越しにしか見れないし、 その上これだけのためにスペースだいぶとるわで、 なるほど商品化できなかったのもうなずける。 だが、なんともいえない後味のする虐待だった。 「これ作ったひと、どういう性格してるのやら」 俺は赤まりさの死体を片付け、死臭消しスプレーを床面に吹き付けた。 これでまた使用するための準備は整った。 「さーて、お前もこんなふうに死んでくれるのかね」 今日はこのために10匹ほど野生の赤ゆを拉致ってきてある。 その中の一匹、健やかな寝顔を見せる赤れいむをつまみあげ、 俺は新たな期待とともに『限りなく透明に近いはこ』をセットするのだった。
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静かな夜。生暖かい風が森の木々をざわつかせた。夜空を漂う雲が今宵の月を見え隠れさせる。 中規模程度の森の端に沿って小さな県道が走っていた。二車線すらない細い道。そこを二条の光が移動していく。運搬用のトラックだ。 舗装はされているものの、ところどころ穴が開いていたりするせいで走行中のトラックがガタガタと揺れる。 トラックのエンジン音で何も聞こえないが、コンテナの中にはすすり泣くたくさんのゆっくりたちがいた。 月明かりに照らされたコンテナの側面には黒塗りのペンキで「虹浦町保健所」との文字が見える。 積載されているのは、町で捕まえられた野良ゆっくりたちだ。或いは捨てられた飼いゆっくりたち。 「ゆっくりぃ……ゆっくりぃ……」 「おきゃーしゃん……、きょわいよぉ……しゅーりしゅーりしちぇぇ……」 「どぉして……こんなことにぃ……」 虹浦町には野良ゆっくり回収ボックスというゴミ箱があった。 その中に押し込められていた野良ゆっくりたちは、自分たちをそこから出してくれた保健所の職員に対して泣きながら感謝したのだ。しかしまた、今度は大きな箱の中。 野良ゆっくりたちは自分たちの境遇を嘆き悲しんだ。 生まれた時から野良ゆっくりで、町で静かに暮らしていただけだと言うのに人間たちは皆、自分たちを捕まえる。 どんなに謝っても、何も悪い事をしていないと主張しても聞き入れて貰えない。それどころか、その場で潰されてしまう仲間たちもいた。 しかし、どれだけ己の不遇を呪おうとも、それをどうにかする力は雀の涙ほども持ち合わせていない。 性質の悪い事に、野良ゆっくりたち自身もそれを十分に理解しているせいで尚の事救いが無いと言えた。 「ねぇ……これから、ありすたちはどうなるの……?」 「むきゅー……わからないわ」 トラックの中で交わされる会話。こんなやり取りがコンテナの中で延々繰り返されていた。 (れいむは……しってるよ) コンテナの一番奥。隅っこで壁に頬を押し付けていた一匹のれいむが心の中で呟く。 そのれいむは同乗している野良ゆっくりと比べて小奇麗な身なりをしていた。黒い髪にはまだ艶があり、顔にも泥や埃が付着していない。 (れいむたちは、きっと……“かこうじょ”につれていかれるんだよ……) ゆっくり視点で見ればなかなかの美ゆっくりであるれいむだったが、それに対して声を掛けるようなゆっくりは一匹としていなかった。 れいむの赤いリボン。それが半分近く破られている。それだけで、周囲のゆっくりにとってれいむはとてつもなく惨めな姿に映っているのだ。 泥にまみれ、生ゴミの匂いが纏わりつき、目玉を片方失っていても尚、れいむの姿を見て嘲笑するゆっくりたちがいる。 「おお、あわれあわれ……」 「ゆぷぷ……あれじゃ、こいびとさんもみつからないんだぜ」 そんなゆっくりたちの誹謗中傷はどこ吹く風と言った様子で、れいむが静かに目を細めた。 (おにいさん……れいむのこと、きらいになっちゃったの……?) 飼いゆっくりだったれいむは、ある日突然捨てられた。 れいむは虹浦町に住んでいたわけではない。そこから三十キロ近くも離れた虹黒町で、飼い主と幸せな生活を送っていたのだ。 目を閉じればすぐに思い浮かべることのできる「お父さん」と「お母さん」と「お兄さん」。みんな、とてもれいむを可愛がっていた。 それなのに、幸せな生活はいきなり終わりを告げたのである。 必死に知りたくもないことを教えられて、叩かれたり蹴られたりしながら死ぬような思いで取得した銅バッジ。加工所の事もその時に得た知識だ。 そんな大事な銅バッジを命よりも大切なリボンごと破られて毟り取られた。何がなんだかわからなかった。涙も出なかった。ただ、ただ呆けている事しかできなかった。 それから、れいむは車に乗せられた。いつも「家族みんな」でお出かけするのに使っていた自家用車。 れいむは少しだけ安心した。バッジがなくても一緒にいてもらえるのだと。 家族は河川敷に車を止めるとれいむを堤防の下に向けて転がした。草の上をころころと転がるのが気持ち良かった。何度もこうやって遊んでもらっていたのだ。 だから、今日もたくさん遊んでもらえると思い込んでいた。 しかし、いつまで経っても堤防の下に家族はやって来ない。 れいむはずっと待っていた。日向ぼっこをしたり、草を食べたり、虫を追いかけたりしながら暇をつぶしていた。 それから数時間。 夕日が山の向こうに沈んで行くのを見ながら、ようやくれいむは気付いたのである。 ――自分は、捨てられたのだ…… と。 れいむはペットショップで虐待と言っても過言ではない程の学習を強要させられた。 自分のしたいことは何一つさせてもらえず、毎日毎日ゆっくりできない日々を強いられ、泣きながら眠りにつく日々。 そうまでして頑張って、ようやく与えられた幸せも呆気なく失ってしまった。 自分に幸せを与えたのも人間ならば、それを奪ったのもまた人間だった。 れいむは必死になって考えた。 ――自分にとっての生きる意味とは何なのだろうか。自分の価値とは何なのか。 無論、そんな高尚な言葉を使って物事を深く考えていたわけではないが、餡子脳でれいむなりにそのニュアンスに近しい事を考えていたのである。 だから。 これから行くことになるであろう“加工所”で殺される前に……どうしても、知りたいのだ。 どうしても……。 そして、願わくば……自分が今日まで生きてきた理由を誰でもいいから自分に教えてほしかった。 一、 某日。早朝。 夜中のうちに搬入された野良ゆっくりたちとれいむは殺風景な白い部屋の中に入れられた。 緊張と空腹で疲弊しきった野良ゆっくりたちは、部屋の隅っこで一塊になって震えている。 れいむはその輪の中に入れてもらえなかった。もう片方の隅っこで一匹俯くれいむ。飾りのあるなしの隔たりは余りにも大きいものだった。 それから、コツーン……コツーン……という足音が扉の向こう側から聞こえてきた。 一斉に身構える野良ゆっくりたち。互いの頬を更に強く押し付け合った。成体ゆっくり、子ゆ、赤ゆ問わず泣きながら震えている。 ここがどういう場所かはわからずとも、何か嫌な予感だけはひしひしと感じているのだろう。 不意に部屋の扉が開く。 臆病な赤ゆが一匹、「ゆぴぃ?!」と飛び上がった。 一斉に部屋の中に入ってきた人間に目を向ける野良ゆっくりたち。れいむも、久しぶりに見た人間をぼんやりと眺めていた。 「多いな……。まったく、潰しても捨てても勝手に生えてくるゴミとか本当にタチが悪い……」 白衣を着た加工所職員が面倒臭そうに、用紙が挟まれたバインダーを取り出して、連れてこられたゴミの数を種別ごとに記入していく。 「ま、まりさたちは……」 「あ?」 「まりさたちは、かってにはえてこないのぜ……っ! ごみんさんでもないのぜっ!」 「だから何だ?」 「あ……あやまるのぜっ! ひどいことをいうにんげんさんは……あやま……ゆひぃぃぃぃ?!!」 生意気な口を利いたまりさに向けて一直線に歩み寄る職員。すぐにまりさのお下げを掴んで宙釣りにした。 お下げが千切れようとしているのか、ミチミチ……という不快な音が聞こえる。まりさは身を捩らせて苦痛に泣き叫んでいた。 そのまりさを床に向けて思い切り叩きつける。 まりさの顔面が床に激突した瞬間、まるで水風船が勢いよく弾けるように中身の餡子を四方八方にぶち撒けて爆散した。 飛び散った餡子が目を丸くして微動だにできない野良ゆっくりたちの顔にべちゃべちゃとかかっていく。 静まり返る部屋の中。 職員の声だけがやたらと大きく聞こえる。 「ゴミだし、勝手に生えてくるよ……。お前ら、ゆっくりなんていくらでもな……。ったく、数字が変わっちまったじゃねぇか」 まりさ種の項目に書いてあった数字を消しゴムで消して、消した数字から一匹減らした数字を新たに書く。 「どぼ……じで、ごんな゛ごど……」 「おい、そこのゆっくり」 「ゆ゛ッ!?」 潰される、と思ったのだろう。目をぎゅっと閉じて顔を下に向ける野良ゆっくりの一匹。 「喋るな。ゴミは喋らない」 「~~~~っ」 分かりました、と言うように口を真一文字に結んで額を地面に何度も打ち付ける。 一連のやり取りを見た野良ゆっくりたちはぼろぼろと涙を流しながら、小刻みに震えていた。泣き叫びたい気持ちを必死に抑える。声を出したら殺されるのだ。 職員は用紙に記入したちぇんとぱちゅりーの数字を鉛筆の後ろでコツコツと叩きながら溜め息をついた。 「チョコと生クリームが不足気味だったんだがな……」 それぞれ二、三匹ずつしかいないちぇんとぱちゅりーをじろりと睨み付ける職員。 それから近くにいた薄汚いれいむを思いっきり蹴り飛ばして壁にぶつけた。壁と濃厚なちゅっちゅをしたれいむが、「ゆ゛っ、ゆ゛っ」呻きながら痙攣を起こす。 「大して需要のない餡子は毎回、毎回、馬鹿みたいに持って来られるってのによ……」 職員が部屋を出て行く。 ガタガタと震える野良ゆっくりたち。どれ一匹として声を上げようとしない。ただ、ぽろぽろと涙を流すのみ。 しばらくして職員が別の男をつれて部屋に帰ってきた。 その男が大きな袋の中にちぇんとぱちゅりーを掴んで投げ込む。ちぇんとぱちゅりーであれば、成体、子などのサイズは関係ないらしい。 「むきゅぅぅぅぅん!! いや、いやよっ! たすけてちょうだいっ!!」 「わからないよーー!! こわいんだねぇぇ!!」 袋の中からちぇんとぱちゅりーの悲鳴が聞こえてくる。野良ゆっくりたちは皆、一様に俯いたまま歯をカチカチと鳴らしていた。 そんな残りの野良ゆっくりたちには目もくれずに部屋を出て行く男。ちぇんとぱちゅりーの悲鳴がだんだんと遠くなっていき、最後には何も聞こえなくなった。 しばらくして今度は別の男が部屋に入ってきた。今度は泣き叫ぶありすを手当たり次第に袋の中へと投げ込んでいく。 「とりあえず、ホワイトチョコはまだいいかな……。残りは全部、ミキサーにかけてゆっくりフードにするか……」 職員の言葉の意味がわからない野良ゆっくりたちは「ゆ? ゆゆ?」と互いの顔を見合わせている。 それから、職員が思い出したように呟いた。 「れみりゃにやる生餌を忘れてたな。何匹か持って行くとするか……」 “れみりゃ”という単語に何匹かの野良ゆっくりが反応する。それだけで目にじんわりと涙を浮かべるモノもいた。 職員が入り口の扉とは別の扉に手をかけてそれをゆっくりと開けると、すぐに中の電気をつけた。 そこは殺風景な小さな部屋。その中央には焼却炉を彷彿とさせるような機械が設置してある。 それを見た途端、一匹のありすがカタカタ震えて涙を流した。 「いや……ゆっくりできない……」 ありすの消え入るような声を聞いて、周りの野良ゆっくりたちがありすと同じ視点へと移動する。 そして。 「ゆ、ゆ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ッ!!!」 「ゆ゛ぎぃぃぃ……っ! ゆっぐ……でぎ、な……っ、あ゛……ぁあ゛ぁ゛っ!!!」 その機械から放たれる強烈な死臭。人間には決して感知できないにも関わらず、鼻を持たないゆっくりたちはこの“ゆっくりできない臭い”を激しく嫌悪する。 それはフェロモンの一種であるとする研究者もいれば、残留思念の様なものであるとする研究者もいた。 理屈はともかく、目の前の機械から放たれる死臭に野良ゆっくりたちは、まるでおぞましい悪霊でも見ているかのように全身を震わせた。 職員が慣れた手つきで機械の中央付近にある小窓のようなものを開く。それに合わせてよりいっそう強くなる野良ゆっくりたちの悲鳴。 全ての赤ゆは漏れなくしーしーを漏らしていた。目はどこを見ているのかわからない。或いは、宙を漂うゆっくりの亡霊でも見えているのだろうか。 そこから始まる淡々とした作業。 職員は、れいむの揉み上げを、まりさのお下げを、ありすの髪を乱暴に引っ掴んで次々と機械の中に放り込んでいった。 「ゆぎゃあぁぁ!! だじで!! だじでぇ!! お゛う゛ぢがえ゛る゛う゛ぅ゛ぅ゛ッ!!!」 「い゛や゛だぁ゛ぁ゛ぁ゛ッ!! じに゛だぐない゛ぃ゛ぃ゛!! れ゛い゛む゛、もっどゆっぐりじでたい゛よ゛ぉ゛ぉ゛!!」 外観に比べて機械の内側は狭い造りになっていた。 どうやら内部は中身を刳り抜かれた円柱のような形になっていて、その中心に巨大な柱が立っているようだ。 後から後から野良ゆっくりが放り込まれるものだから、内部はだんだんとすし詰めのような状況に変化してきている。 そんな時、一匹のありすの頬に鋭い痛みが走った。 「いた゛ぃぃ!! ありすの゛どがい゛はな゛お゛がお゛がぁぁぁ!!!」 「つ゛ぶれ゛る゛……どいで、ね……どいでねっ!! れ゛い゛む゛、あんよ゛が……い゛だいよ゛ぉ゛っ!!!」 柱。床。壁。その三カ所には巨大な刃が取り付けられていた。それらは全て内側を向いており、その三カ所に密着している野良ゆっくりたちの皮を切ろうとしているのだ。 加工所特製の巨大なジューサーミキサー。いや。ゆっくりミキサーとでも言うべきだろうか。 ここで挽き肉ならぬ挽き饅頭にされた野良ゆっくりたちは様々な製造工程を経て、固形のゆっくりフードへと生まれ変わる。 職員の動きを見ながら、れみりゃの生餌用に選ばれた五匹の野良ゆっくりは怯えていた。 その中には元・飼いゆっくりのれいむの姿も見える。 職員がおもむろに機械のスイッチをオンにした。 「ゆ?」 「ゆかが……ゆっくり、うごきはじめたよ……?」 真っ暗で何も見えないが床が回転し始めているは理解できた。そして、少しずつ両側の壁が内側に向けて迫ってくる。 「え゛ぎゅぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ッ?!! れ゛い゛む゛……づぶれ゛ぶりゅあ゛ぁ゛ぁ゛ッ?!!」 柱と壁の中央付近にいた野良ゆっくりたちが同胞たちによって押し潰されて絶命した。 柱や壁に頬がくっついていた野良ゆっくりたちは、鋭利な刃が少しずつ体内へ潜り込んでくるという恐ろしい感触に、この世の物とは思えない叫び声を上げている。 やがて、中央の柱が時計周りに。周囲の壁が反時計周りに回転し始めた。その回転速度が徐々に上がっていく。 そこからはもう何が何だかわからなかった。 皮が千切れ飛んだ。流出した中身がまるで命を得たかのように所狭しと暴れ回る。弾け飛ぶ目玉。涙か、しーしーか、涎か……とにかく大量の液体。 それらが全てが一つになって、また滅茶苦茶に引っ掻き回されていく。 ほとんどゲル状にまで変質してしまった大量の野良ゆっくりたちの成れの果てが、ミキサーの中で無言のままダンスを踊り続けていた。 回り、飛び、くっついては離れてを繰り返し、また勢いよく爆ぜる。 野良ゆっくりたちの絶叫は轟音に掻き消され、流した涙はどれのものとも分からぬ皮や中身によって埋め立てられる。 機械は程なくして停止した。もう、何も聞こえない。不気味なまでの静寂。 外側からは見えないが、体をぐちゃぐちゃに引き裂かれて中身を全て流出させてしまった野良ゆっくりたちが、ペースト状になって機械の底に溜まっていた。 死ぬ最後の最後まで足掻き苦しんだのだろう。新たな死臭が生かされた命に語りかけてくる。 気丈に仲間たちの最期を見つめていたれいむも、中身を吐き出しそうになるのを必死に抑えながら無言で泣き続けている。 その傍らでまりさは白目を剥いて気を失っていた。 「お前らは全部れみりゃに食わせる。良かったな。今、死んだ連中より少しだけ長く生きることができて。……ゆっくりすることができて、か?」 「ゆひっ……ゆひぃ……」 顔を横にふるふると振って厭だ嫌だイヤだと必死にアピールする野良ゆっくりたち。 どれだけ泣かれても、叫ばれても、嫌がられても、それで職員の気持ちが揺らぐ事はないのだ。職員歴十五年。十五年も職員はこうしてゆっくりを殺し続けてきた。 「ゴミの言葉に耳を貸すほど優しくないんだよ、俺は」 振り返らずに言葉だけ発する。今度は倉庫の扉を開けてそこから約一メートル四方のアクリルケースを取り出した。それを備え付けてあった台車に載せる。 職員が野良ゆっくりたちに近づくと、それだけで数匹がしーしーを漏らした。自分たちが何をされるか分からないのが恐ろしくてたまらないのだろう。 逃げようとするがあんよが動かない。それどころか何も考えることさえできなかった。 れいむも職員に訊きたいことがあったが訊くことができないでいた。喋っただけで殺されるかも知れない。それがれいむの言葉を詰まらせる。 どれもが何かを言いたそうだった。しかし、何を言うでもなく一匹ずつアクリルケースの中に入れられていく。 もちろん、れいむもその中に入れられた。 ガラガラと音を立てて進む台車の上は、コンテナの中ほど乗り心地は悪くなかったが、生きた心地がしなかった。 二、 台車に載せられたれいむたちは、職員によって開けられた扉の向こう側へと進み、新たなフロアへとやってきた。 「んっほぉぉぉ!!! まりさの……まむ、ま……ずっぎ……もう、い゛や゛……ずっぎり゛じだぐ……ゆぅぅ……ず、ずっぎり……じぢゃ……」 「ゆぎゃぁぁ!! あでぃずぅぅ!!! もうやべでぇぇ!! までぃざ、もう゛、ちびちゃんうみ゛だぐな゛ぃぃ……ゆぁぁ……す、すっぎ……」 「「ずっぎりぃぃ!!!」」 こんなやり取りがフロア全体から聞こえてくる。 れいむたちは自分たちの目を疑った。 台車に載せられたものと同じようなアクリルケースがフロア全体に敷き詰められている。 アクリルケースは二匹につき一箱となっているようで、傍から見れば透明のロッカーか、或いはカプセルホテルを彷彿とさせた。 「ゆああぁぁ……まだ、ぢびぢゃんがうばれぢゃう゛ぅぅぅ」 「まりさぁ……ごべんなざい、ごべんなさいぃぃい!! ありず、からだがいう゛ごどをぎいでくれ゛ないの゛ぉぉ……」 先程、すっきりー!を行っていたまりさの額からにょきにょきと茎が生えて、そこに赤まりさと赤ありすが実る。 まりさはうつ伏せのような姿勢でアクリルケースの一番手前に固定されているようだった。しかも、尻はありすに向けて突き出すような形になっている。 茎は、アクリルケースに開けられた小さな穴から外側に向かって伸びていた。まりさの額はその小さな穴に合わせて固定されているようだ。 「ちびちゃん……っ!! ゆぐぅ……ひっく、がわいい゛よぅ……ゆっぐりでぎる゛よぉ……」 泣きながら笑うまりさ。 れいむたちにはまりさのこの行動が理解できなかった。 あんなに可愛いちびちゃんを見て、どうして涙を流す必要があるのかと。この地獄でも新しい命を芽吹かせることができる。素晴らしいことではないのだろうか。 不意にどこからともなく、やはり白衣を着た男性職員が現れる。 まりさはその男性職員の姿を見て、顔をぐしゃぐしゃにしながら力の限りに叫び声を上げた。 「お゛でがい゛じばずぅ゛ぅ゛ぅ゛!!!! ぢびぢゃんをごろざな゛い゛でぐだざい゛ぃ゛い゛ぃぃぃい!!!」 「――――!?」 台車の上でれいむたちが驚愕の表情に変わる。 まりさを後ろから犯し続けていたありすも、ぼろぼろと涙を流していた。先ほどの興奮が未だに醒めぬのか、頬を染め、舌を垂らし、虚ろな瞳で男性職員を見つめている。 「ゆんやぁぁ! おきゃーしゃん、にんげんしゃんが、こっちにくりゅよぅ! たしゅけちぇにぇ!!」 「ぢびぢゃん……ごべんね……ごべんねぇ……」 「お、おきゃーしゃ……?! なにをやっちぇりゅにょ?! はやきゅ、にげちぇにぇ!」 「ときゃいはじゃにゃいわぁぁ! ありしゅたち、ゆっくちできにゃえびゅぇッ?!!!!」 「う、うわあああぁぁぁぁ!!!」 赤ゆは、茎からぶら下がっているだけの存在だ。 自分で身を守ることはおろか、動くことすらできない。母親ゆっくりが動かなければ、その場から離れられないのだ。 だから、赤ありすは呆気なく潰されて死んだ。僅か十秒弱の命。ただ、親指と人差し指で挟まれて潰されただけ。生まれてきて自分の身に起きたのは、たったのそれだけ。 初めての挨拶もできず、食べることも、笑うことも、眠りにつくこともできずに、赤ありすは死んだ。 同じ茎に実っていたもう一匹の赤ありすも同様にして殺された。 茎に残った二匹の赤まりさが絶句してガタガタ震えている。茎に実ったばかりでどこにそんな水分があるのかと問うほどに、涙としーしーを無様に垂れ流していた。 「い゛や゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!! あ゛でぃずのどがいはな゛ちびぢゃんがあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」 「何回目だよ、その反応。いい加減慣れろよ。うるせぇ糞ゆっくりが」 「ひどいよ゛ぅ……ひどずぎる゛よ゛ぉ……。ちびちゃん、なんに゛も、じでな……わる゛い゛ごどだげじゃなぐで……な゛ん゛に゛も゛じでな゛い゛のにぃぃぃ!!!」 まりさがぎゅっと瞼を閉じて全身を震わせながら泣く。 ありすはうわ言のように「ごめんね、ごめんね」と繰り返していた。 ここは、食用ゆっくりの養殖部屋。このアクリルケースの中に入れられた二匹一組のゆっくりは、赤ゆ製造機だ。 アクリルケース内の床はスイッチ一つで小刻みに振動し、中に入ったゆっくりをあっと言う間に発情させる。 まりさ同様の姿勢で固定された各種ゆっくりの後ろには常にありすが入れられており、興奮状態になったありすがもう一匹を犯して子供を作るという仕組みだ。 良く見れば“受け側”のゆっくりの頬には全てチューブが突き刺さっている。あのチューブから常に栄養が送られてくるため、何度すっきりー!しても疲れることがない。 結果、栄養不良で死ぬこともできず、毎日ひたすら望まぬすっきりー!を繰り返し、実った赤ゆは目の前で潰されるという凄惨な毎日を過ごす羽目になっているのだ。 まず、ここで実った赤ありすの九割が生まれると同時に潰される。 ありすは他のゆっくりよりも性欲が強いということで、常に“責め側”のポジションだ。すっきりー!を繰り返せば、赤ありすが溢れてしまうことになる。 だから、赤ありすは間引くのだ。そうすることによって、残ったありす種以外の赤ゆに多く栄養が行き渡る。つまり、成長速度が速くなるのだ。 もちろん、ありすを養殖するためのアクリルケースも存在しており、そこでは赤ありす以外の赤ゆが生まれてすぐに潰される。 日進月歩でゆっくりの研究は続いているが、未だに人工的なゆっくりの繁殖に成功した例はない。 だが、こうして一度に発情させて一度にすっきりー!させて、一度に赤ゆを実らせれば意外と採算は取れるものである。 アクリルケースの数は総数で三百箱を数えるほどだ。二匹ずつ赤ゆを養殖したとして、一日に六百匹もの赤ゆが“生産”されることになる。 大体、母親ゆっくりの額に茎が実ってから三時間ほどで栄養供給が安定してくるのか、赤ゆは「ゆぴぃ」と眠りにつく。 その頃合いを見計らって、母親ゆっくりから茎を引き抜き、それを今度は砂糖水の中に突っ込むのだ。 大量の茎が刺された砂糖水の入った容器を見ると、まるで生け花ならぬ生け赤ゆとでも表現できそうな様子だ。 「や゛べでぇ゛ぇ゛ぇ゛!!! れ゛い゛む゛のおぢびぢゃん、づれでいがない゛でぇぇぇぇぇ!!!!」 今度は別のゆっくりが悲痛な声を上げた。 先程、すっきりー!が終わったばかりのアクリルケース列とは、別の列から聞こえた絶叫である。 こちらの列の茎に実った赤ゆは三時間が経過して安定期に入ったのだろう。 数人の職員が手分けして茎を指で触ったり、赤ゆの頬をぷにぷにしたりして完全に安定しているかどうかを判別する。それは彼らの熟練した赤ゆの観察眼が成せる技だった。 「おきゃーしゃあぁぁん!!! たしゅけちぇぇぇぇ!!! れーみゅ、はにゃれちゃくにゃいよぉぉぉぉ!!!!」 「にんげんざん゛ん゛ん゛ん゛!!! お゛でがい゛じばずぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛!!! ゆっぐりじだごにぞだででみぜばずがら゛あ゛ぁ゛ああぁ゛!!!」 「育てなくていい。お前らはガキを造り続ければそれでいいんだよ」 「どぼじでぞんな゛ごどい゛う゛の゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛!?」 「こんなの育てて誰が得するっていうんだよ。お前らが馬鹿の一つ覚えみたいに“ゆっくりできる”とか言うだけじゃねーか」 「おいコラ新入り。いちいちゆっくりの話を聞くんじゃない。そんなことより一本でも多く茎を抜け」 「す、すいませんっ」 こうやって新人はたまにゆっくりの言葉に反応してしまう。 しかし、ゆっくりを生き物だとは決して思ってはいけない。ここにいるのは赤ゆを造るためだけの道具なのだ。 メンテナンスは週に一回行われている。とは言っても、二匹の後頭部に注射器を突き刺してオレンジジュースを流し込むだけの簡単な作業ではあるが。 一本、また一本……と茎が引き抜かれるたびに母親ゆっくりが絶叫を上げる。 ワンパターンな反応。いい加減慣れろと言われても慣れるわけがないだろう。 無理矢理子供を作らされ、生まれた傍から半分が潰されて、三時間後には茎ごとどこかに連れていかれる。 「ゆ、ゆひっ、ゆふへ……ぱ、ぱぱぱ、ぱ、ぴ、ぷ、ぺ、ぽーーーーーー!!!」 「う、うわぁぁぁ!! まりさ! まりさ! しっかりしてよぉぉぉ!!!!」 中にはこうして発狂してしまうゆっくりも当然ながらいた。それを見つけた職員がすぐに内線で別の部署と連絡を取る。 「はい。三十六番のまりさ、発狂しました。こちらで処分しておきますので替えのまりさを用意してください」 それから気が狂ったまりさは職員によってあっと言う間に処分され、替わりに別のまりさがすぐにアクリルケースの中に入れられた。 こちらの列の茎の回収が全て終わったのだろう。 職員の一人がスイッチを押して、床を小刻みに振動させる。そこから始まる醜悪な性の営み。 無数のゆっくりの喘ぎ声と、互いの皮がぶつかり合う乾いた音がフロア全体に響き渡る。 そして、そこかしこから「すっきりー!」という絶望に染まった絶頂から漏れ出す歓喜の声が上がり始めた。 「も゛う゛……ずっぎり、じだぐない゛……。ぢびぢゃん……う゛み゛だぐ、な゛い゛……ゆぐっ、ひっく……」 泣こうが喚こうが、ゆっくりたちは子供を作り続ける。眠ることすら許されず、ただひたすらに。 れいむたちは台車の上で泣いていた。こんな理不尽は話があるものか、と悲しみに打ち震えていた。 そんなれいむたちに、台車を押し始めた職員が優しく語りかける。 「な? お前らは勝手に生えてくるだろ?」 生えては引き抜かれを繰り返す赤ゆの実った茎を横目で見ながら、ゆっくりたちは言葉を失って俯いた。 しかし、れいむだけはぽそりと呟いた。 「かってには、はえてこないよ……」 「あ?」 「あのはこのなかにいる、ゆっくりたちががんばってるから……っ! かけがえのないちびちゃんたちがうまれるんだよっ!!! そんないいかたしないでねっ!!!」 「れ、れいむ……」 泣きながら叫ぶれいむを見ながら、台車に載せられたゆっくりたちが涙を流す。 職員はそんなゆっくりたちのくだらない茶番に声を出して笑った。それに対してれいむが威嚇を始める。この地獄のど真ん中で泣きながら頬を膨らませた。 「かけがえのない命があんなにポンポン生まれるわけねーだろ。饅頭の癖に命がどうとか夢見てんじゃねぇよ」 それっきり、れいむは黙りこくってしまった。何を言っても自分たちの言葉は通らない。それを理解して、また何か反論しようという気にはならなかった。 無情にも繰り返される母親ゆっくりと赤ゆの絶叫を後方に聞きながら、れいむたちはようやくこの場所から次のフロアへと移動をさせられた。 三、 台車に載せられたまま、加工所の更に奥へと入っていく。 透明な壁で仕切られた長大な部屋を分断する中央の廊下部分を進む職員と野良ゆっくり一同。 周囲を見渡した野良ゆっくりたちが再び息を呑む。 「あ゛づい゛よ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ッ!!!」 「あ゛ん゛よ゛が……ゆ゛っぐり゛でぎな゛ぃよ゛ぉ゛ぉお゛おおぉ゛!!!!」 壁からゆっくりが五匹ずつ一列に整列した状態で下ろされる。それぞれの頭は金属製のアームで挟まれ身動きができないようになっていた。 下ろされた先は黒い鉄板。鉄板はゆっくりたちのあんよを焼くためのものだ。あんよは、機械的に十五秒間ずつ高熱で一気に焼き上げられる。 垂れ流される涙としーしーがジュワジュワと音を立て蒸発していくのを見れば、あの鉄板がいかに高温であるかが理解できるだろう。 鉄板の上でゆっくりたちは自分たちの顔の皮が引き千切れるのではないかと思うほどに、身を捩らせていた。しかし、それ以上の動きは頭のアームが許さない。 まさか自分の顔を引き千切るわけにもいかないので、抵抗はすべて虚しく、最後には並んだ五匹が五匹ともあんよの機能を完全に喪失させられるのである。 この仕掛けは壁に六ヶ所設置されており、大体三十秒間隔で三十匹のゆっくりが同時にあんよを焼かれる仕組みとなっていた。 十五秒間が過ぎると、アームは再び放心状態……或いは完全に意識を失っているゆっくりたちをその傍らで流れているベルトコンベアへと移動させる。 無言のまま、ベルトコンベアの上を流れて行くあんよが炭化したゆっくりたち。 中には、あんよを徹底的に焼き上げられても必死に周囲の職員に助けを求めるゆっくりもいた。 「だずげでぐだざい゛ぃ゛ぃ゛!! あ゛ん゛よ゛がう゛ごがな゛い゛ん゛でずぅ゛ぅ゛ぅ゛!!! ばでぃざは、も゛っどゆ゛っぐり゛じだい゛んでず゛ぅ゛ぅ゛!!」 「お゛でーざんっ!! あ、あぁぁ゛っ!! お、お゛に゛ぃ゛ざん゛っ!! だずげ……む、むじじないでぇ゛え゛ぇ゛ええぇえ!!!」 もちろん、誰も耳を貸さない。雑音にいちいち答えてやるほどこの職場は暇な場所ではなかった。中には耳栓をつけて仕事をしている者もいる。 ベルトコンベアの先には分岐点があり、そこには二人の職員が立っていた。 れいむ種、まりさ種、ありす種、ぱちゅりー種、ちぇん種、みょん種。それぞれ専用のベルトコンベアが用意されているのだ。 職員は一緒くたにベルトコンベアに載せられたゆっくりたちをを種類ごとに分けていくために配置されている。 「あ゛でぃずのぎゅーでぃぐる゛ながみ゛のげざんがぁあぁっ!!!」 「までぃざのお゛ざげざんが、ぢぎれ゛る゛の゛ぜぇぇぇぇ!!!!」 丁寧に扱う必要はなかった。それぞれが髪を掴まれて別のベルトコンベアに載せられていく。 ゆっくりの状態など、この後関係なくなるのだ。とりあえずは“中身を仕分けできればそれでいい”のである。 それぞれの種族ごとに流されていくベルトコンベアの先にはトンネルのようなものがあった。そのトンネルの入り口には赤い光が見えた。 トンネルの中は暗い。この先に何があるか分からない。恐ろしくてたまらないのだろう。ベルトコンベアの上でちょろちょろとしーしーを漏らすゆっくり。 程なくしてそのトンネルの中に入っていく。赤い光にゆっくりが触れた瞬間、音を立てて機械が動き始めた。 「ゆひぃぃぃっ?!!」 勢いよくしーしーを前方に発射させる。動かぬあんよを呪いながら、顔の部分だけを少しでも後ろに後ろにと持っていくが無駄な抵抗だった。 「がひっ!??」 いきなり。頭頂部に何かが突き刺さったかと思えばそれがあんよを貫いて貫通した。 瞳孔が開く。全身から汗が噴き出すのを感じた。眩暈。吐き気。まるで脊髄にナイフが刺さったかのようような衝撃と虚脱感。 体全体が小刻みに震える。身を捩らせようとすることもできなかった。瞬きをするだけで全身に痛みが走る。 そして。 「ゆ゛べばあ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ッ??!!!」 貫通していた何かが体内で二つに分かれて一気に拡がった。突き刺さっていた底部が勢いよく引き裂かれ、顔を真っ二つにされる事でそのゆっくりは死んだ。 行き場を失った餡子がぼとぼととその真下に設置してあったトレイに落ちて行く。 他の場所でも同様に、カスタードや生クリームが次々とトレイに載せられていった。 このエリアは“ゆっくりの中身を抉り出して食用品として回収”していくための場所。だから、髪が千切れようがあんよが炭化していようが関係ないのである。 ベルトコンベアに載せられたゆっくりは、その中身にしか価値を見出されないのだ。いや、見出されるだけマシというものかも知れない。 「か、かわいそうなんだぜっ! みんな、いやがってるのぜっ!! やめてあげるのぜぇっ!!!」 先程のフロアでのれいむの勇気にほだされたのか、台車に載せられたまりさが涙ながらに叫んだ。 その声を聞いて、加工所内にいたゆっくりたちが同じように声を上げる。 「だずげでぇ゛ぇ゛ぇ゛!!! れ゛い゛む゛、い゛ぎでい゛だい゛よ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛!!!!」 「ゆっぐりじだいだげな゛のに゛ィィィイィィ!!!」 「ごんな゛じにがだはいや゛だぁ゛ぁ゛ぁ゛!!!! ずぎな゛ゆっぐりどい゛っじょに、え゛いえ゛ん゛にゆっぐりじだいよ゛ぉ゛ぉ゛!!!」 「どぼじでごんな゛ごどずる゛の゛ぉぉお゛ぉ゛!! み゛ん゛な゛、なんに゛も゛わる゛いごどじでないの゛にぃいぃぃ゛い゛いぃぃぃ!!!!!」 絶望の合唱。心の底から絞り出されるかのような強い懇願。 それでも、与えられるモノと言えば、焼かれて、貫かれて、引き千切られて。そんな苦痛と、決して穏やかであるとは言えない凄惨な“死”のみ。 このエリアで加工されるゆっくりは、全て加工所産のゆっくりである。ここで殺されるためだけに生まれてこさせられて、今日まで生かされてきただけの存在。 それ故に野良ゆっくりのような不衛生さは皆無だ。 今、れいむたちを載せた台車がある渡り廊下と生産ラインの部屋が完全に仕切られているのは安全衛生のためである。職員たちも白衣にマスク、帽子、滅菌手袋と完全装備だ。 阿鼻叫喚の地獄の中、台車が移動を始める。 「だずげでぇぇぇ!! れいむぅぅぅ!!! だずげでよぉぉぉ!!!」 ベルトコンベアを流れるゆっくりと目が合ったれいむが助けを求められた。しかし、どうすることもできない。 そのゆっくりはずっとれいむの事を見ていた。れいむも、目を逸らすことができなかった。 結局、お互いの姿が見えなくなるまで、二匹はずっと視線を合わせていた。 うなだれたままのれいむたちを載せた台車がすぐ隣のフロアへと移動する。 そこでもまた、甲高い悲鳴がれいむたちを迎えた。 「ゆんやあぁぁぁぁ!!! やじゃ、やじゃ、やじゃあぁぁぁぁ!!!!」 「やめちぇにぇっ!! やめちぇにぇっ!! ゆっくちできにゃいよぉぉぉぉ!!!!」 先程のフロアは、成体ゆっくりの食品加工を行う場所だった。対してこのフロアは、赤ゆっくりの食品製造場所だったのである。 このフロアには先ほどのベルトコンベアのようなものはないが、代わりに内部がホテルの厨房のような作りをしており、壁には無数の調理器具が掛かっていた。 室内は熱気に包まれており、ここで働く職員たちは額にうっすらと汗を浮かべている。 フロアの一画には巨大な鍋が設置してあった。傍らには大量の赤ゆが生きたまま入った透明なボウルが見える。その中の赤ゆたちは喉を枯らさんばかりの勢いで泣いていた。 おもむろに職員の一人がそこに近づく。その姿を見た赤ゆたちはボウルの中で一斉にしーしーを噴射した。ボウルが職員によって持ち上げられると、悲鳴は更に大きくなった。 れいむたちは台車の上からその様子を固唾を飲んで見守っていた。これから起こるであろう何かに対して嫌な予感だけが餡子脳裏をよぎる。 そして、その嫌な予感は見事に的中した。 巨大な鍋。 れいむたちからは見えないが、中には油の海が広がっており、それは十分すぎるほどに加熱されていた。そこに、ボウルの中の赤ゆがぼちゃぼちゃと放り込まれる。 「ゆ゛っぎゃああ゛あ゛あぁ゛ああ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁッ!!!????」 鼓膜を突き破らんばかりの勢いで、上げられる凄まじい絶叫。 台車に載せられていたありすは、おそろしーしーをぷしゃぁぁ……と漏らしていた。他のゆっくりも開いた口が塞がらない。頬に涙が伝う感触だけを感じていた。 ジュワアァァ……という音と共に、絶命した赤ゆたちが一匹、また一匹と油の海面に浮かんでくる。ぴくりとも動かない。既に死んでいるのだろう。 職員は皮がこんがりと狐色に揚げあがった赤ゆを一匹ずつ掬い、キッチンペーパーと新聞紙の敷かれた場所に並べて行った。 ここから様々な製造工程を経て、加工所産のお菓子として人気の高い“揚げ赤ゆ”が市場に並ぶ。 眩暈がするような凄惨な光景を見続けていた台車の上のれいむたちが虚ろな表情に変わっていった。 「だしちぇにぇっ!! しゃむいよぉぉぉ!!!! もうやじゃあ、れーみゅ、おうちかえりゅぅぅぅ!!!!」 れいむたちが声のした方向へと振り返る。 そこにはステンレス製の巨大な冷凍庫のようなものが置いてあった。これは、赤ゆを瞬間冷凍して、冷凍食品に加工するための機械である。 使い方は簡単で指定された数の赤ゆを内部に放り込み、スイッチを入れるだけ。 一瞬で凍結した赤ゆたちはそのまま物言わぬ冷凍饅頭となり、各家庭の電子レンジで再び目が覚めるのだ。目が覚めたところで、その先に未来はないのだが。 冷却作業が終わったのか、冷凍庫の扉が開けられる。凍りついた赤ゆたちを次々に回収していき、袋の中に詰める作業が始まった。 更に他の場所に目を向けると、今度は三匹ほどの赤ゆが生きたまま袋の中に入れられていた。 「くりゅぢぃよぉぉ!!!」 小さな袋の中で赤ゆたちがぎゅうぎゅう詰めにされている。その袋の口に掃除機のチューブのようなものが当てられていた。 職員がその掃除機のようなもののスイッチを入れる。 刹那、袋は一瞬にして圧縮され、内部の赤ゆも苦悶の表情を浮かべたまま動かなくなった。赤ゆの真空パック、である。 滝のように涙を流し、涎を撒き散らして、しーしーを所構わず噴射しながら、赤ゆたちは泣きに泣き叫んでいた。 誰も助けてくれないことを呪いながら。自分たちの置かれた境遇を呪いながら。 自分たちをこの世に産み落とした母親ゆっくりを呪いながら。 「さっき生まれたガキ共も、半分はここで死ぬんだよ」 「…………」 「ここで死ななかった連中も、大人になってから食べ物に加工される。……あぁ、さっき見せたな。あんよを焼かれてたゆっくりがそれだよ」 「…………なんなの?」 「ん?」 「にんげんさんたちにとって、れいむたちゆっくりは……なんなの?」 れいむが職員と目を合わせないようにしながら、恐る恐る言葉を紡いだ。台車の上のゆっくりたちは、完全に意気消沈してしまっており、無言のまま動く気配がない。 職員はれいむの問いかけに、「クク」と喉を鳴らして嗤った。 「さっきも言っただろ。勝手に生えてくるゴミだよ。お前らは」 「…………あんまりだよ…………」 「あんまり? 失礼なヤツだな、お前は。生きてるうちは何の役にも立たないお前らに俺たち加工所職員は価値を与えてやってるんだぜ?」 れいむの揉み上げがぴくん、と動いた。 悲しみを通り越して、沸々と怒りが湧き上がっていく。あまりにも理不尽な物言いに、れいむはこの人間が憎らしくてたまらなくなった。 「お前らゆっくりはな。死んでからやっと世の中の役に立てるんだ。路地裏で野垂れ死ぬ連中よりも、よっぽど生きた意味があると思わないか?」 「れいむたちが、いきるいみは、れいむたちがさがすよ……。にんげんさんたちにみつけてもらうものじゃないよ」 「そう言ってお前らゆっくりは何をする? せいぜい、ゴミを漁って街を汚し、死んでも誰も片づけないからやはりゴミが生まれるだけじゃないか」 「……ゆぐぅ……っ!!」 「さ、行くぞ。これから、お前らに生まれてきた意味を与えてやる」 そう言いながら職員は台車を押し始めた。台車は更に奥へとやってきたようだ。 職員が陽気な声で呟く。 「終点だよ」 部屋の中は真っ暗だった。れいむたちがアクリルケースの中で不安そうにきょろきょろと周囲の様子を伺う。 そして。 「うー☆ うー☆」 台車の上のゆっくりたちが一斉にしーしーをぶちまけた。 四、 職員が部屋の電気をつけるとそこには四匹のれみりゃがいた。どれも張り付いたような笑顔のまま、自由気ままに空を飛び回っている。 れみりゃたちは「うっうー☆」と言いながら、職員の下へと集まってきた。 その様子を見てれいむたちがアクリルケースの中で目を丸くする。 自分たちと同じようにれみりゃも人間が怖いはずだ。そう思っていた。 しかしどうだろうか。れみりゃは地面にあんよをつけて職員の足に頬を摺り寄せている。しゃがみ込んだ職員はれみりゃの頭を優しく撫でた。 ここはゆっくりの加工所。 この部屋に連れて来られるまで、ゴミ同然に弄ばれる数多の命を見てきた。どれ一匹、慈悲の言葉をかけられることなくただ淡々と潰されていた同胞たちの姿。 それなのになぜ。何故、目の前のれみりゃは人間を恐れず、また人間はれみりゃに対してこうも好意的なのだろうか。少しも理解が追い付かない。 「どうして、れみりゃも自分たちと同じゆっくりなのに、こんなにも扱いが違うのかっていうような顔をしてるな」 職員の言葉にれいむたちの表情が変わる。自分たちの考えていたことをピタリと言い当てられて戸惑っているようだった。 「体で教えてやるよ」 そう言ってアクリルケースの上に手を伸ばす職員。 ありすの金髪が乱暴に鷲掴みされて持ち上げられた。あんよをくねらせながら悲鳴を上げるありす。漏れ出たしーしーが滴のように床へポタポタと落ちていた。 「い、や……。と、とかいはじゃ……」 「そら、れみりゃども! 餌だぞ!」 ありすの言葉には一瞬たりとも耳を貸さずに右手に持っていたありすをれみりゃたちの中に放り込んだ。 顔面から床に叩きつけられたありすが、二度、三度とバウンドしてようやくその動きを止める。そして、ありすが泣きながら顔を上げようとしたその時だった。 「ゆ゛ぎゃあ゛ぁ゛!! い゛だい゛ぃぃい゛ぃ゛!!!」 四匹のれみりゃが一斉にありすに飛び掛かる。その鋭い牙がありすの皮に突き立てられて、あっという間に引き裂かれていく。カスタードが弾けるように宙を舞った。 ぶちぶちと引き千切られる髪の毛。カチューシャはとっくに毟り取られて近くに放り捨てられていた。 舌を絡めるような艶めかしいキス……ではなく、れみりゃがありすの舌に噛み付いてそれを引き抜きながら租借していく。 ありすは瞳孔を開き切ったまま、その目尻からカスタード混じりの涙をぼろぼろと流していた。 れみりゃがありすの唇を剥ぎ取る。そのまま、ありすの口を横に側頭部付近まで引き裂いた。 もはや、吐き出されているのか、漏れ出しているのか、それすらも分からないほどにありすの体内から流出していくカスタード。 「かひーーーっ、こひゅっ……ひっ、ひゅー、ひゅっ、……ッ!!!」 声は出せない。ありすの口は完全に破壊され、音を発することができなくなっていた。 目はずっと台車の上に載せられたアクリルケースに向けられている。助けを求めているのだろう。求めているつもりなのだろう。 ありすは、その二つの目玉をれみりゃに抉り出されて食べられるまで、アクリルケースを見つめていた。 それから激しい痙攣を起こし始めるありす。やがてその痙攣は止まり、今度はれみりゃがありすの体内を貪ることで残された皮が生き物のように蠢く。 「ゆげろぉぉぉッ!?? ゆ゛ぉ゛え゛ぇ゛ぇ゛ッ!!!」 「う、うわあぁぁぁ!!! あ゛でぃずがあ゛ぁ゛ぁ゛!!!!」 目の前で繰り広げられる残酷で凄惨な弱肉強食の現実に、アクリルケース内のゆっくりたちは嫌悪感から中身を吐き出したり、叫び声を上げたりした。 ありすの残骸の上で羽をぱたつかせるれみりゃが嬉しそうにアクリルケースを眺めている。 その中のゆっくりたちは歯をカチカチと鳴らして震えていた。 今、ありすがれみりゃに捕食されるまでどれくらいの時間があっただろうか。短い時間ではないということだけは、どのゆっくりにも理解できた。 痛いのか。熱いのか。苦しいのか。泣きたくなるのか。中身を吐くのか。動けなくなるのか。 わからない。 “死”の感覚はわからない。今際の際にならねばわからない“死”の感覚にゆっくりたちは怯えた。恐怖であんよを動かすことができない。 「にんげんさんのいう、れいむたちがうまれてきたいみをおしえてくれる、っていうのはこういうことなの……?」 れいむが呟いた。れいむは震えていなかった。“死”を覚悟して受け入れたのだろう。穏やかな表情でアクリルケースの中から職員を見上げていた。 「ああ、そうだよ」 職員が平然と答えながらアクリルケース内のゆっくりを次々とれみりゃたちの元へ放り投げた。 れいむは動かない。綺麗な放物線を描いて、床に叩きつけられ、それかられみりゃたちに食い散らかせる仲間を見ながら、なおも職員に質問を続けた。 「にんげんさんたちのごはんになるか、れみりゃたちのごはんになるか……。れいむたちは、そのどっちかにしかなれないの?」 「何かになれるだけマシだろう」 「じゃあ、どうして、れみりゃは……れいむたちとおなじゆっくりなのに、にんげんさんにごはんさんをたべさせてもらえるの?」 「れみりゃは、お前らみたいなゴミを無償で食べてくれるからな。例えるなら、お前らが害虫でれみりゃは益虫なんだよ。……ああ、わからないか」 ぐちゃぐちゃに引き千切られていく、かつてゆっくりだった物。 れいむはそれをぼんやりと眺めていた。 あんなぐちゃぐちゃの姿になるまでは、ゆっくりしようと一生懸命頑張っていたのだろう。 必死になって食糧を探してゴミを漁り、死に物狂いでおうちを作って街の景観を損なわせたのだ。 れいむは一つの答えにたどり着いた。 (れいむ、ゆっくりりかいしたよ……) れみりゃたちがアクリルケースの中のれいむに向けて「うー☆」と合唱を始める。れいむを食料として欲しているのだろう。 (れいむたちみたいなゆっくりがいきようとすることが……にんげんさんたちにめいわくをかけちゃうんだね……) れいむのあんよが宙に浮いた。片方の揉み上げを掴まれ宙釣りにされる。 (……だから、にんげんさんたちにとって、れいむたちはいきてちゃいけないんだ……) 放り投げられたれいむがれみりゃによって滅茶苦茶に食い荒らされていく。 生きる意味などなかった。この世界で自分たちが生きて行くことの価値は見出せない。どこに行っても疎まれる。 それをゆっくりと理解した。釈然としない気持ちはあったけれども、それを覆すような力も知識も何もない。 れいむの存在した証が……体が、少しずつ失われていく。 薄れゆく意識の中でれいむは静かに呟いた。 ――れいむ、うまれてきてごめんね 選択肢 投票 しあわせー! (55) それなりー (5) つぎにきたいするよ! (0) 名前 コメント すべてのコメントを見る 余白あきさん -- (名無しさん) 2017-11-04 18 46 58
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『存在価値』 38KB 虐待 調理 野良ゆ 赤ゆ 捕食種 加工場 現代 以下:余白 『存在価値』 序、 静かな夜。生暖かい風が森の木々をざわつかせた。夜空を漂う雲が今宵の月を見え隠れさせる。 中規模程度の森の端に沿って小さな県道が走っていた。二車線すらない細い道。そこを二条の光が移動していく。運搬用のトラックだ。 舗装はされているものの、ところどころ穴が開いていたりするせいで走行中のトラックがガタガタと揺れる。 トラックのエンジン音で何も聞こえないが、コンテナの中にはすすり泣くたくさんのゆっくりたちがいた。 月明かりに照らされたコンテナの側面には黒塗りのペンキで「虹浦町保健所」との文字が見える。 積載されているのは、町で捕まえられた野良ゆっくりたちだ。或いは捨てられた飼いゆっくりたち。 「ゆっくりぃ……ゆっくりぃ……」 「おきゃーしゃん……、きょわいよぉ……しゅーりしゅーりしちぇぇ……」 「どぉして……こんなことにぃ……」 虹浦町には野良ゆっくり回収ボックスというゴミ箱があった。 その中に押し込められていた野良ゆっくりたちは、自分たちをそこから出してくれた保健所の職員に対して泣きながら感謝したのだ。しかしまた、今度は大きな箱の中。 野良ゆっくりたちは自分たちの境遇を嘆き悲しんだ。 生まれた時から野良ゆっくりで、町で静かに暮らしていただけだと言うのに人間たちは皆、自分たちを捕まえる。 どんなに謝っても、何も悪い事をしていないと主張しても聞き入れて貰えない。それどころか、その場で潰されてしまう仲間たちもいた。 しかし、どれだけ己の不遇を呪おうとも、それをどうにかする力は雀の涙ほども持ち合わせていない。 性質の悪い事に、野良ゆっくりたち自身もそれを十分に理解しているせいで尚の事救いが無いと言えた。 「ねぇ……これから、ありすたちはどうなるの……?」 「むきゅー……わからないわ」 トラックの中で交わされる会話。こんなやり取りがコンテナの中で延々繰り返されていた。 (れいむは……しってるよ) コンテナの一番奥。隅っこで壁に頬を押し付けていた一匹のれいむが心の中で呟く。 そのれいむは同乗している野良ゆっくりと比べて小奇麗な身なりをしていた。黒い髪にはまだ艶があり、顔にも泥や埃が付着していない。 (れいむたちは、きっと……“かこうじょ”につれていかれるんだよ……) ゆっくり視点で見ればなかなかの美ゆっくりであるれいむだったが、それに対して声を掛けるようなゆっくりは一匹としていなかった。 れいむの赤いリボン。それが半分近く破られている。それだけで、周囲のゆっくりにとってれいむはとてつもなく惨めな姿に映っているのだ。 泥にまみれ、生ゴミの匂いが纏わりつき、目玉を片方失っていても尚、れいむの姿を見て嘲笑するゆっくりたちがいる。 「おお、あわれあわれ……」 「ゆぷぷ……あれじゃ、こいびとさんもみつからないんだぜ」 そんなゆっくりたちの誹謗中傷はどこ吹く風と言った様子で、れいむが静かに目を細めた。 (おにいさん……れいむのこと、きらいになっちゃったの……?) 飼いゆっくりだったれいむは、ある日突然捨てられた。 れいむは虹浦町に住んでいたわけではない。そこから三十キロ近くも離れた虹黒町で、飼い主と幸せな生活を送っていたのだ。 目を閉じればすぐに思い浮かべることのできる「お父さん」と「お母さん」と「お兄さん」。みんな、とてもれいむを可愛がっていた。 それなのに、幸せな生活はいきなり終わりを告げたのである。 必死に知りたくもないことを教えられて、叩かれたり蹴られたりしながら死ぬような思いで取得した銅バッジ。加工所の事もその時に得た知識だ。 そんな大事な銅バッジを命よりも大切なリボンごと破られて毟り取られた。何がなんだかわからなかった。涙も出なかった。ただ、ただ呆けている事しかできなかった。 それから、れいむは車に乗せられた。いつも「家族みんな」でお出かけするのに使っていた自家用車。 れいむは少しだけ安心した。バッジがなくても一緒にいてもらえるのだと。 家族は河川敷に車を止めるとれいむを堤防の下に向けて転がした。草の上をころころと転がるのが気持ち良かった。何度もこうやって遊んでもらっていたのだ。 だから、今日もたくさん遊んでもらえると思い込んでいた。 しかし、いつまで経っても堤防の下に家族はやって来ない。 れいむはずっと待っていた。日向ぼっこをしたり、草を食べたり、虫を追いかけたりしながら暇をつぶしていた。 それから数時間。 夕日が山の向こうに沈んで行くのを見ながら、ようやくれいむは気付いたのである。 ――自分は、捨てられたのだ…… と。 れいむはペットショップで虐待と言っても過言ではない程の学習を強要させられた。 自分のしたいことは何一つさせてもらえず、毎日毎日ゆっくりできない日々を強いられ、泣きながら眠りにつく日々。 そうまでして頑張って、ようやく与えられた幸せも呆気なく失ってしまった。 自分に幸せを与えたのも人間ならば、それを奪ったのもまた人間だった。 れいむは必死になって考えた。 ――自分にとっての生きる意味とは何なのだろうか。自分の価値とは何なのか。 無論、そんな高尚な言葉を使って物事を深く考えていたわけではないが、餡子脳でれいむなりにそのニュアンスに近しい事を考えていたのである。 だから。 これから行くことになるであろう“加工所”で殺される前に……どうしても、知りたいのだ。 どうしても……。 そして、願わくば……自分が今日まで生きてきた理由を誰でもいいから自分に教えてほしかった。 一、 某日。早朝。 夜中のうちに搬入された野良ゆっくりたちとれいむは殺風景な白い部屋の中に入れられた。 緊張と空腹で疲弊しきった野良ゆっくりたちは、部屋の隅っこで一塊になって震えている。 れいむはその輪の中に入れてもらえなかった。もう片方の隅っこで一匹俯くれいむ。飾りのあるなしの隔たりは余りにも大きいものだった。 それから、コツーン……コツーン……という足音が扉の向こう側から聞こえてきた。 一斉に身構える野良ゆっくりたち。互いの頬を更に強く押し付け合った。成体ゆっくり、子ゆ、赤ゆ問わず泣きながら震えている。 ここがどういう場所かはわからずとも、何か嫌な予感だけはひしひしと感じているのだろう。 不意に部屋の扉が開く。 臆病な赤ゆが一匹、「ゆぴぃ?!」と飛び上がった。 一斉に部屋の中に入ってきた人間に目を向ける野良ゆっくりたち。れいむも、久しぶりに見た人間をぼんやりと眺めていた。 「多いな……。まったく、潰しても捨てても勝手に生えてくるゴミとか本当にタチが悪い……」 白衣を着た加工所職員が面倒臭そうに、用紙が挟まれたバインダーを取り出して、連れてこられたゴミの数を種別ごとに記入していく。 「ま、まりさたちは……」 「あ?」 「まりさたちは、かってにはえてこないのぜ……っ! ごみんさんでもないのぜっ!」 「だから何だ?」 「あ……あやまるのぜっ! ひどいことをいうにんげんさんは……あやま……ゆひぃぃぃぃ?!!」 生意気な口を利いたまりさに向けて一直線に歩み寄る職員。すぐにまりさのお下げを掴んで宙釣りにした。 お下げが千切れようとしているのか、ミチミチ……という不快な音が聞こえる。まりさは身を捩らせて苦痛に泣き叫んでいた。 そのまりさを床に向けて思い切り叩きつける。 まりさの顔面が床に激突した瞬間、まるで水風船が勢いよく弾けるように中身の餡子を四方八方にぶち撒けて爆散した。 飛び散った餡子が目を丸くして微動だにできない野良ゆっくりたちの顔にべちゃべちゃとかかっていく。 静まり返る部屋の中。 職員の声だけがやたらと大きく聞こえる。 「ゴミだし、勝手に生えてくるよ……。お前ら、ゆっくりなんていくらでもな……。ったく、数字が変わっちまったじゃねぇか」 まりさ種の項目に書いてあった数字を消しゴムで消して、消した数字から一匹減らした数字を新たに書く。 「どぼ……じで、ごんな゛ごど……」 「おい、そこのゆっくり」 「ゆ゛ッ!?」 潰される、と思ったのだろう。目をぎゅっと閉じて顔を下に向ける野良ゆっくりの一匹。 「喋るな。ゴミは喋らない」 「~~~~っ」 分かりました、と言うように口を真一文字に結んで額を地面に何度も打ち付ける。 一連のやり取りを見た野良ゆっくりたちはぼろぼろと涙を流しながら、小刻みに震えていた。泣き叫びたい気持ちを必死に抑える。声を出したら殺されるのだ。 職員は用紙に記入したちぇんとぱちゅりーの数字を鉛筆の後ろでコツコツと叩きながら溜め息をついた。 「チョコと生クリームが不足気味だったんだがな……」 それぞれ二、三匹ずつしかいないちぇんとぱちゅりーをじろりと睨み付ける職員。 それから近くにいた薄汚いれいむを思いっきり蹴り飛ばして壁にぶつけた。壁と濃厚なちゅっちゅをしたれいむが、「ゆ゛っ、ゆ゛っ」呻きながら痙攣を起こす。 「大して需要のない餡子は毎回、毎回、馬鹿みたいに持って来られるってのによ……」 職員が部屋を出て行く。 ガタガタと震える野良ゆっくりたち。どれ一匹として声を上げようとしない。ただ、ぽろぽろと涙を流すのみ。 しばらくして職員が別の男をつれて部屋に帰ってきた。 その男が大きな袋の中にちぇんとぱちゅりーを掴んで投げ込む。ちぇんとぱちゅりーであれば、成体、子などのサイズは関係ないらしい。 「むきゅぅぅぅぅん!! いや、いやよっ! たすけてちょうだいっ!!」 「わからないよーー!! こわいんだねぇぇ!!」 袋の中からちぇんとぱちゅりーの悲鳴が聞こえてくる。野良ゆっくりたちは皆、一様に俯いたまま歯をカチカチと鳴らしていた。 そんな残りの野良ゆっくりたちには目もくれずに部屋を出て行く男。ちぇんとぱちゅりーの悲鳴がだんだんと遠くなっていき、最後には何も聞こえなくなった。 しばらくして今度は別の男が部屋に入ってきた。今度は泣き叫ぶありすを手当たり次第に袋の中へと投げ込んでいく。 「とりあえず、ホワイトチョコはまだいいかな……。残りは全部、ミキサーにかけてゆっくりフードにするか……」 職員の言葉の意味がわからない野良ゆっくりたちは「ゆ? ゆゆ?」と互いの顔を見合わせている。 それから、職員が思い出したように呟いた。 「れみりゃにやる生餌を忘れてたな。何匹か持って行くとするか……」 “れみりゃ”という単語に何匹かの野良ゆっくりが反応する。それだけで目にじんわりと涙を浮かべるモノもいた。 職員が入り口の扉とは別の扉に手をかけてそれをゆっくりと開けると、すぐに中の電気をつけた。 そこは殺風景な小さな部屋。その中央には焼却炉を彷彿とさせるような機械が設置してある。 それを見た途端、一匹のありすがカタカタ震えて涙を流した。 「いや……ゆっくりできない……」 ありすの消え入るような声を聞いて、周りの野良ゆっくりたちがありすと同じ視点へと移動する。 そして。 「ゆ、ゆ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ッ!!!」 「ゆ゛ぎぃぃぃ……っ! ゆっぐ……でぎ、な……っ、あ゛……ぁあ゛ぁ゛っ!!!」 その機械から放たれる強烈な死臭。人間には決して感知できないにも関わらず、鼻を持たないゆっくりたちはこの“ゆっくりできない臭い”を激しく嫌悪する。 それはフェロモンの一種であるとする研究者もいれば、残留思念の様なものであるとする研究者もいた。 理屈はともかく、目の前の機械から放たれる死臭に野良ゆっくりたちは、まるでおぞましい悪霊でも見ているかのように全身を震わせた。 職員が慣れた手つきで機械の中央付近にある小窓のようなものを開く。それに合わせてよりいっそう強くなる野良ゆっくりたちの悲鳴。 全ての赤ゆは漏れなくしーしーを漏らしていた。目はどこを見ているのかわからない。或いは、宙を漂うゆっくりの亡霊でも見えているのだろうか。 そこから始まる淡々とした作業。 職員は、れいむの揉み上げを、まりさのお下げを、ありすの髪を乱暴に引っ掴んで次々と機械の中に放り込んでいった。 「ゆぎゃあぁぁ!! だじで!! だじでぇ!! お゛う゛ぢがえ゛る゛う゛ぅ゛ぅ゛ッ!!!」 「い゛や゛だぁ゛ぁ゛ぁ゛ッ!! じに゛だぐない゛ぃ゛ぃ゛!! れ゛い゛む゛、もっどゆっぐりじでたい゛よ゛ぉ゛ぉ゛!!」 外観に比べて機械の内側は狭い造りになっていた。 どうやら内部は中身を刳り抜かれた円柱のような形になっていて、その中心に巨大な柱が立っているようだ。 後から後から野良ゆっくりが放り込まれるものだから、内部はだんだんとすし詰めのような状況に変化してきている。 そんな時、一匹のありすの頬に鋭い痛みが走った。 「いた゛ぃぃ!! ありすの゛どがい゛はな゛お゛がお゛がぁぁぁ!!!」 「つ゛ぶれ゛る゛……どいで、ね……どいでねっ!! れ゛い゛む゛、あんよ゛が……い゛だいよ゛ぉ゛っ!!!」 柱。床。壁。その三カ所には巨大な刃が取り付けられていた。それらは全て内側を向いており、その三カ所に密着している野良ゆっくりたちの皮を切ろうとしているのだ。 加工所特製の巨大なジューサーミキサー。いや。ゆっくりミキサーとでも言うべきだろうか。 ここで挽き肉ならぬ挽き饅頭にされた野良ゆっくりたちは様々な製造工程を経て、固形のゆっくりフードへと生まれ変わる。 職員の動きを見ながら、れみりゃの生餌用に選ばれた五匹の野良ゆっくりは怯えていた。 その中には元・飼いゆっくりのれいむの姿も見える。 職員がおもむろに機械のスイッチをオンにした。 「ゆ?」 「ゆかが……ゆっくり、うごきはじめたよ……?」 真っ暗で何も見えないが床が回転し始めているは理解できた。そして、少しずつ両側の壁が内側に向けて迫ってくる。 「え゛ぎゅぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ッ?!! れ゛い゛む゛……づぶれ゛ぶりゅあ゛ぁ゛ぁ゛ッ?!!」 柱と壁の中央付近にいた野良ゆっくりたちが同胞たちによって押し潰されて絶命した。 柱や壁に頬がくっついていた野良ゆっくりたちは、鋭利な刃が少しずつ体内へ潜り込んでくるという恐ろしい感触に、この世の物とは思えない叫び声を上げている。 やがて、中央の柱が時計周りに。周囲の壁が反時計周りに回転し始めた。その回転速度が徐々に上がっていく。 そこからはもう何が何だかわからなかった。 皮が千切れ飛んだ。流出した中身がまるで命を得たかのように所狭しと暴れ回る。弾け飛ぶ目玉。涙か、しーしーか、涎か……とにかく大量の液体。 それらが全てが一つになって、また滅茶苦茶に引っ掻き回されていく。 ほとんどゲル状にまで変質してしまった大量の野良ゆっくりたちの成れの果てが、ミキサーの中で無言のままダンスを踊り続けていた。 回り、飛び、くっついては離れてを繰り返し、また勢いよく爆ぜる。 野良ゆっくりたちの絶叫は轟音に掻き消され、流した涙はどれのものとも分からぬ皮や中身によって埋め立てられる。 機械は程なくして停止した。もう、何も聞こえない。不気味なまでの静寂。 外側からは見えないが、体をぐちゃぐちゃに引き裂かれて中身を全て流出させてしまった野良ゆっくりたちが、ペースト状になって機械の底に溜まっていた。 死ぬ最後の最後まで足掻き苦しんだのだろう。新たな死臭が生かされた命に語りかけてくる。 気丈に仲間たちの最期を見つめていたれいむも、中身を吐き出しそうになるのを必死に抑えながら無言で泣き続けている。 その傍らでまりさは白目を剥いて気を失っていた。 「お前らは全部れみりゃに食わせる。良かったな。今、死んだ連中より少しだけ長く生きることができて。……ゆっくりすることができて、か?」 「ゆひっ……ゆひぃ……」 顔を横にふるふると振って厭だ嫌だイヤだと必死にアピールする野良ゆっくりたち。 どれだけ泣かれても、叫ばれても、嫌がられても、それで職員の気持ちが揺らぐ事はないのだ。職員歴十五年。十五年も職員はこうしてゆっくりを殺し続けてきた。 「ゴミの言葉に耳を貸すほど優しくないんだよ、俺は」 振り返らずに言葉だけ発する。今度は倉庫の扉を開けてそこから約一メートル四方のアクリルケースを取り出した。それを備え付けてあった台車に載せる。 職員が野良ゆっくりたちに近づくと、それだけで数匹がしーしーを漏らした。自分たちが何をされるか分からないのが恐ろしくてたまらないのだろう。 逃げようとするがあんよが動かない。それどころか何も考えることさえできなかった。 れいむも職員に訊きたいことがあったが訊くことができないでいた。喋っただけで殺されるかも知れない。それがれいむの言葉を詰まらせる。 どれもが何かを言いたそうだった。しかし、何を言うでもなく一匹ずつアクリルケースの中に入れられていく。 もちろん、れいむもその中に入れられた。 ガラガラと音を立てて進む台車の上は、コンテナの中ほど乗り心地は悪くなかったが、生きた心地がしなかった。 二、 台車に載せられたれいむたちは、職員によって開けられた扉の向こう側へと進み、新たなフロアへとやってきた。 「んっほぉぉぉ!!! まりさの……まむ、ま……ずっぎ……もう、い゛や゛……ずっぎり゛じだぐ……ゆぅぅ……ず、ずっぎり……じぢゃ……」 「ゆぎゃぁぁ!! あでぃずぅぅ!!! もうやべでぇぇ!! までぃざ、もう゛、ちびちゃんうみ゛だぐな゛ぃぃ……ゆぁぁ……す、すっぎ……」 「「ずっぎりぃぃ!!!」」 こんなやり取りがフロア全体から聞こえてくる。 れいむたちは自分たちの目を疑った。 台車に載せられたものと同じようなアクリルケースがフロア全体に敷き詰められている。 アクリルケースは二匹につき一箱となっているようで、傍から見れば透明のロッカーか、或いはカプセルホテルを彷彿とさせた。 「ゆああぁぁ……まだ、ぢびぢゃんがうばれぢゃう゛ぅぅぅ」 「まりさぁ……ごべんなざい、ごべんなさいぃぃい!! ありず、からだがいう゛ごどをぎいでくれ゛ないの゛ぉぉ……」 先程、すっきりー!を行っていたまりさの額からにょきにょきと茎が生えて、そこに赤まりさと赤ありすが実る。 まりさはうつ伏せのような姿勢でアクリルケースの一番手前に固定されているようだった。しかも、尻はありすに向けて突き出すような形になっている。 茎は、アクリルケースに開けられた小さな穴から外側に向かって伸びていた。まりさの額はその小さな穴に合わせて固定されているようだ。 「ちびちゃん……っ!! ゆぐぅ……ひっく、がわいい゛よぅ……ゆっぐりでぎる゛よぉ……」 泣きながら笑うまりさ。 れいむたちにはまりさのこの行動が理解できなかった。 あんなに可愛いちびちゃんを見て、どうして涙を流す必要があるのかと。この地獄でも新しい命を芽吹かせることができる。素晴らしいことではないのだろうか。 不意にどこからともなく、やはり白衣を着た男性職員が現れる。 まりさはその男性職員の姿を見て、顔をぐしゃぐしゃにしながら力の限りに叫び声を上げた。 「お゛でがい゛じばずぅ゛ぅ゛ぅ゛!!!! ぢびぢゃんをごろざな゛い゛でぐだざい゛ぃ゛い゛ぃぃぃい!!!」 「――――!?」 台車の上でれいむたちが驚愕の表情に変わる。 まりさを後ろから犯し続けていたありすも、ぼろぼろと涙を流していた。先ほどの興奮が未だに醒めぬのか、頬を染め、舌を垂らし、虚ろな瞳で男性職員を見つめている。 「ゆんやぁぁ! おきゃーしゃん、にんげんしゃんが、こっちにくりゅよぅ! たしゅけちぇにぇ!!」 「ぢびぢゃん……ごべんね……ごべんねぇ……」 「お、おきゃーしゃ……?! なにをやっちぇりゅにょ?! はやきゅ、にげちぇにぇ!」 「ときゃいはじゃにゃいわぁぁ! ありしゅたち、ゆっくちできにゃえびゅぇッ?!!!!」 「う、うわあああぁぁぁぁ!!!」 赤ゆは、茎からぶら下がっているだけの存在だ。 自分で身を守ることはおろか、動くことすらできない。母親ゆっくりが動かなければ、その場から離れられないのだ。 だから、赤ありすは呆気なく潰されて死んだ。僅か十秒弱の命。ただ、親指と人差し指で挟まれて潰されただけ。生まれてきて自分の身に起きたのは、たったのそれだけ。 初めての挨拶もできず、食べることも、笑うことも、眠りにつくこともできずに、赤ありすは死んだ。 同じ茎に実っていたもう一匹の赤ありすも同様にして殺された。 茎に残った二匹の赤まりさが絶句してガタガタ震えている。茎に実ったばかりでどこにそんな水分があるのかと問うほどに、涙としーしーを無様に垂れ流していた。 「い゛や゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!! あ゛でぃずのどがいはな゛ちびぢゃんがあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」 「何回目だよ、その反応。いい加減慣れろよ。うるせぇ糞ゆっくりが」 「ひどいよ゛ぅ……ひどずぎる゛よ゛ぉ……。ちびちゃん、なんに゛も、じでな……わる゛い゛ごどだげじゃなぐで……な゛ん゛に゛も゛じでな゛い゛のにぃぃぃ!!!」 まりさがぎゅっと瞼を閉じて全身を震わせながら泣く。 ありすはうわ言のように「ごめんね、ごめんね」と繰り返していた。 ここは、食用ゆっくりの養殖部屋。このアクリルケースの中に入れられた二匹一組のゆっくりは、赤ゆ製造機だ。 アクリルケース内の床はスイッチ一つで小刻みに振動し、中に入ったゆっくりをあっと言う間に発情させる。 まりさ同様の姿勢で固定された各種ゆっくりの後ろには常にありすが入れられており、興奮状態になったありすがもう一匹を犯して子供を作るという仕組みだ。 良く見れば“受け側”のゆっくりの頬には全てチューブが突き刺さっている。あのチューブから常に栄養が送られてくるため、何度すっきりー!しても疲れることがない。 結果、栄養不良で死ぬこともできず、毎日ひたすら望まぬすっきりー!を繰り返し、実った赤ゆは目の前で潰されるという凄惨な毎日を過ごす羽目になっているのだ。 まず、ここで実った赤ありすの九割が生まれると同時に潰される。 ありすは他のゆっくりよりも性欲が強いということで、常に“責め側”のポジションだ。すっきりー!を繰り返せば、赤ありすが溢れてしまうことになる。 だから、赤ありすは間引くのだ。そうすることによって、残ったありす種以外の赤ゆに多く栄養が行き渡る。つまり、成長速度が速くなるのだ。 もちろん、ありすを養殖するためのアクリルケースも存在しており、そこでは赤ありす以外の赤ゆが生まれてすぐに潰される。 日進月歩でゆっくりの研究は続いているが、未だに人工的なゆっくりの繁殖に成功した例はない。 だが、こうして一度に発情させて一度にすっきりー!させて、一度に赤ゆを実らせれば意外と採算は取れるものである。 アクリルケースの数は総数で三百箱を数えるほどだ。二匹ずつ赤ゆを養殖したとして、一日に六百匹もの赤ゆが“生産”されることになる。 大体、母親ゆっくりの額に茎が実ってから三時間ほどで栄養供給が安定してくるのか、赤ゆは「ゆぴぃ」と眠りにつく。 その頃合いを見計らって、母親ゆっくりから茎を引き抜き、それを今度は砂糖水の中に突っ込むのだ。 大量の茎が刺された砂糖水の入った容器を見ると、まるで生け花ならぬ生け赤ゆとでも表現できそうな様子だ。 「や゛べでぇ゛ぇ゛ぇ゛!!! れ゛い゛む゛のおぢびぢゃん、づれでいがない゛でぇぇぇぇぇ!!!!」 今度は別のゆっくりが悲痛な声を上げた。 先程、すっきりー!が終わったばかりのアクリルケース列とは、別の列から聞こえた絶叫である。 こちらの列の茎に実った赤ゆは三時間が経過して安定期に入ったのだろう。 数人の職員が手分けして茎を指で触ったり、赤ゆの頬をぷにぷにしたりして完全に安定しているかどうかを判別する。それは彼らの熟練した赤ゆの観察眼が成せる技だった。 「おきゃーしゃあぁぁん!!! たしゅけちぇぇぇぇ!!! れーみゅ、はにゃれちゃくにゃいよぉぉぉぉ!!!!」 「にんげんざん゛ん゛ん゛ん゛!!! お゛でがい゛じばずぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛!!! ゆっぐりじだごにぞだででみぜばずがら゛あ゛ぁ゛ああぁ゛!!!」 「育てなくていい。お前らはガキを造り続ければそれでいいんだよ」 「どぼじでぞんな゛ごどい゛う゛の゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛!?」 「こんなの育てて誰が得するっていうんだよ。お前らが馬鹿の一つ覚えみたいに“ゆっくりできる”とか言うだけじゃねーか」 「おいコラ新入り。いちいちゆっくりの話を聞くんじゃない。そんなことより一本でも多く茎を抜け」 「す、すいませんっ」 こうやって新人はたまにゆっくりの言葉に反応してしまう。 しかし、ゆっくりを生き物だとは決して思ってはいけない。ここにいるのは赤ゆを造るためだけの道具なのだ。 メンテナンスは週に一回行われている。とは言っても、二匹の後頭部に注射器を突き刺してオレンジジュースを流し込むだけの簡単な作業ではあるが。 一本、また一本……と茎が引き抜かれるたびに母親ゆっくりが絶叫を上げる。 ワンパターンな反応。いい加減慣れろと言われても慣れるわけがないだろう。 無理矢理子供を作らされ、生まれた傍から半分が潰されて、三時間後には茎ごとどこかに連れていかれる。 「ゆ、ゆひっ、ゆふへ……ぱ、ぱぱぱ、ぱ、ぴ、ぷ、ぺ、ぽーーーーーー!!!」 「う、うわぁぁぁ!! まりさ! まりさ! しっかりしてよぉぉぉ!!!!」 中にはこうして発狂してしまうゆっくりも当然ながらいた。それを見つけた職員がすぐに内線で別の部署と連絡を取る。 「はい。三十六番のまりさ、発狂しました。こちらで処分しておきますので替えのまりさを用意してください」 それから気が狂ったまりさは職員によってあっと言う間に処分され、替わりに別のまりさがすぐにアクリルケースの中に入れられた。 こちらの列の茎の回収が全て終わったのだろう。 職員の一人がスイッチを押して、床を小刻みに振動させる。そこから始まる醜悪な性の営み。 無数のゆっくりの喘ぎ声と、互いの皮がぶつかり合う乾いた音がフロア全体に響き渡る。 そして、そこかしこから「すっきりー!」という絶望に染まった絶頂から漏れ出す歓喜の声が上がり始めた。 「も゛う゛……ずっぎり、じだぐない゛……。ぢびぢゃん……う゛み゛だぐ、な゛い゛……ゆぐっ、ひっく……」 泣こうが喚こうが、ゆっくりたちは子供を作り続ける。眠ることすら許されず、ただひたすらに。 れいむたちは台車の上で泣いていた。こんな理不尽は話があるものか、と悲しみに打ち震えていた。 そんなれいむたちに、台車を押し始めた職員が優しく語りかける。 「な? お前らは勝手に生えてくるだろ?」 生えては引き抜かれを繰り返す赤ゆの実った茎を横目で見ながら、ゆっくりたちは言葉を失って俯いた。 しかし、れいむだけはぽそりと呟いた。 「かってには、はえてこないよ……」 「あ?」 「あのはこのなかにいる、ゆっくりたちががんばってるから……っ! かけがえのないちびちゃんたちがうまれるんだよっ!!! そんないいかたしないでねっ!!!」 「れ、れいむ……」 泣きながら叫ぶれいむを見ながら、台車に載せられたゆっくりたちが涙を流す。 職員はそんなゆっくりたちのくだらない茶番に声を出して笑った。それに対してれいむが威嚇を始める。この地獄のど真ん中で泣きながら頬を膨らませた。 「かけがえのない命があんなにポンポン生まれるわけねーだろ。饅頭の癖に命がどうとか夢見てんじゃねぇよ」 それっきり、れいむは黙りこくってしまった。何を言っても自分たちの言葉は通らない。それを理解して、また何か反論しようという気にはならなかった。 無情にも繰り返される母親ゆっくりと赤ゆの絶叫を後方に聞きながら、れいむたちはようやくこの場所から次のフロアへと移動をさせられた。 三、 台車に載せられたまま、加工所の更に奥へと入っていく。 透明な壁で仕切られた長大な部屋を分断する中央の廊下部分を進む職員と野良ゆっくり一同。 周囲を見渡した野良ゆっくりたちが再び息を呑む。 「あ゛づい゛よ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ッ!!!」 「あ゛ん゛よ゛が……ゆ゛っぐり゛でぎな゛ぃよ゛ぉ゛ぉお゛おおぉ゛!!!!」 壁からゆっくりが五匹ずつ一列に整列した状態で下ろされる。それぞれの頭は金属製のアームで挟まれ身動きができないようになっていた。 下ろされた先は黒い鉄板。鉄板はゆっくりたちのあんよを焼くためのものだ。あんよは、機械的に十五秒間ずつ高熱で一気に焼き上げられる。 垂れ流される涙としーしーがジュワジュワと音を立て蒸発していくのを見れば、あの鉄板がいかに高温であるかが理解できるだろう。 鉄板の上でゆっくりたちは自分たちの顔の皮が引き千切れるのではないかと思うほどに、身を捩らせていた。しかし、それ以上の動きは頭のアームが許さない。 まさか自分の顔を引き千切るわけにもいかないので、抵抗はすべて虚しく、最後には並んだ五匹が五匹ともあんよの機能を完全に喪失させられるのである。 この仕掛けは壁に六ヶ所設置されており、大体三十秒間隔で三十匹のゆっくりが同時にあんよを焼かれる仕組みとなっていた。 十五秒間が過ぎると、アームは再び放心状態……或いは完全に意識を失っているゆっくりたちをその傍らで流れているベルトコンベアへと移動させる。 無言のまま、ベルトコンベアの上を流れて行くあんよが炭化したゆっくりたち。 中には、あんよを徹底的に焼き上げられても必死に周囲の職員に助けを求めるゆっくりもいた。 「だずげでぐだざい゛ぃ゛ぃ゛!! あ゛ん゛よ゛がう゛ごがな゛い゛ん゛でずぅ゛ぅ゛ぅ゛!!! ばでぃざは、も゛っどゆ゛っぐり゛じだい゛んでず゛ぅ゛ぅ゛!!」 「お゛でーざんっ!! あ、あぁぁ゛っ!! お、お゛に゛ぃ゛ざん゛っ!! だずげ……む、むじじないでぇ゛え゛ぇ゛ええぇえ!!!」 もちろん、誰も耳を貸さない。雑音にいちいち答えてやるほどこの職場は暇な場所ではなかった。中には耳栓をつけて仕事をしている者もいる。 ベルトコンベアの先には分岐点があり、そこには二人の職員が立っていた。 れいむ種、まりさ種、ありす種、ぱちゅりー種、ちぇん種、みょん種。それぞれ専用のベルトコンベアが用意されているのだ。 職員は一緒くたにベルトコンベアに載せられたゆっくりたちをを種類ごとに分けていくために配置されている。 「あ゛でぃずのぎゅーでぃぐる゛ながみ゛のげざんがぁあぁっ!!!」 「までぃざのお゛ざげざんが、ぢぎれ゛る゛の゛ぜぇぇぇぇ!!!!」 丁寧に扱う必要はなかった。それぞれが髪を掴まれて別のベルトコンベアに載せられていく。 ゆっくりの状態など、この後関係なくなるのだ。とりあえずは“中身を仕分けできればそれでいい”のである。 それぞれの種族ごとに流されていくベルトコンベアの先にはトンネルのようなものがあった。そのトンネルの入り口には赤い光が見えた。 トンネルの中は暗い。この先に何があるか分からない。恐ろしくてたまらないのだろう。ベルトコンベアの上でちょろちょろとしーしーを漏らすゆっくり。 程なくしてそのトンネルの中に入っていく。赤い光にゆっくりが触れた瞬間、音を立てて機械が動き始めた。 「ゆひぃぃぃっ?!!」 勢いよくしーしーを前方に発射させる。動かぬあんよを呪いながら、顔の部分だけを少しでも後ろに後ろにと持っていくが無駄な抵抗だった。 「がひっ!??」 いきなり。頭頂部に何かが突き刺さったかと思えばそれがあんよを貫いて貫通した。 瞳孔が開く。全身から汗が噴き出すのを感じた。眩暈。吐き気。まるで脊髄にナイフが刺さったかのようような衝撃と虚脱感。 体全体が小刻みに震える。身を捩らせようとすることもできなかった。瞬きをするだけで全身に痛みが走る。 そして。 「ゆ゛べばあ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ッ??!!!」 貫通していた何かが体内で二つに分かれて一気に拡がった。突き刺さっていた底部が勢いよく引き裂かれ、顔を真っ二つにされる事でそのゆっくりは死んだ。 行き場を失った餡子がぼとぼととその真下に設置してあったトレイに落ちて行く。 他の場所でも同様に、カスタードや生クリームが次々とトレイに載せられていった。 このエリアは“ゆっくりの中身を抉り出して食用品として回収”していくための場所。だから、髪が千切れようがあんよが炭化していようが関係ないのである。 ベルトコンベアに載せられたゆっくりは、その中身にしか価値を見出されないのだ。いや、見出されるだけマシというものかも知れない。 「か、かわいそうなんだぜっ! みんな、いやがってるのぜっ!! やめてあげるのぜぇっ!!!」 先程のフロアでのれいむの勇気にほだされたのか、台車に載せられたまりさが涙ながらに叫んだ。 その声を聞いて、加工所内にいたゆっくりたちが同じように声を上げる。 「だずげでぇ゛ぇ゛ぇ゛!!! れ゛い゛む゛、い゛ぎでい゛だい゛よ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛!!!!」 「ゆっぐりじだいだげな゛のに゛ィィィイィィ!!!」 「ごんな゛じにがだはいや゛だぁ゛ぁ゛ぁ゛!!!! ずぎな゛ゆっぐりどい゛っじょに、え゛いえ゛ん゛にゆっぐりじだいよ゛ぉ゛ぉ゛!!!」 「どぼじでごんな゛ごどずる゛の゛ぉぉお゛ぉ゛!! み゛ん゛な゛、なんに゛も゛わる゛いごどじでないの゛にぃいぃぃ゛い゛いぃぃぃ!!!!!」 絶望の合唱。心の底から絞り出されるかのような強い懇願。 それでも、与えられるモノと言えば、焼かれて、貫かれて、引き千切られて。そんな苦痛と、決して穏やかであるとは言えない凄惨な“死”のみ。 このエリアで加工されるゆっくりは、全て加工所産のゆっくりである。ここで殺されるためだけに生まれてこさせられて、今日まで生かされてきただけの存在。 それ故に野良ゆっくりのような不衛生さは皆無だ。 今、れいむたちを載せた台車がある渡り廊下と生産ラインの部屋が完全に仕切られているのは安全衛生のためである。職員たちも白衣にマスク、帽子、滅菌手袋と完全装備だ。 阿鼻叫喚の地獄の中、台車が移動を始める。 「だずげでぇぇぇ!! れいむぅぅぅ!!! だずげでよぉぉぉ!!!」 ベルトコンベアを流れるゆっくりと目が合ったれいむが助けを求められた。しかし、どうすることもできない。 そのゆっくりはずっとれいむの事を見ていた。れいむも、目を逸らすことができなかった。 結局、お互いの姿が見えなくなるまで、二匹はずっと視線を合わせていた。 うなだれたままのれいむたちを載せた台車がすぐ隣のフロアへと移動する。 そこでもまた、甲高い悲鳴がれいむたちを迎えた。 「ゆんやあぁぁぁぁ!!! やじゃ、やじゃ、やじゃあぁぁぁぁ!!!!」 「やめちぇにぇっ!! やめちぇにぇっ!! ゆっくちできにゃいよぉぉぉぉ!!!!」 先程のフロアは、成体ゆっくりの食品加工を行う場所だった。対してこのフロアは、赤ゆっくりの食品製造場所だったのである。 このフロアには先ほどのベルトコンベアのようなものはないが、代わりに内部がホテルの厨房のような作りをしており、壁には無数の調理器具が掛かっていた。 室内は熱気に包まれており、ここで働く職員たちは額にうっすらと汗を浮かべている。 フロアの一画には巨大な鍋が設置してあった。傍らには大量の赤ゆが生きたまま入った透明なボウルが見える。その中の赤ゆたちは喉を枯らさんばかりの勢いで泣いていた。 おもむろに職員の一人がそこに近づく。その姿を見た赤ゆたちはボウルの中で一斉にしーしーを噴射した。ボウルが職員によって持ち上げられると、悲鳴は更に大きくなった。 れいむたちは台車の上からその様子を固唾を飲んで見守っていた。これから起こるであろう何かに対して嫌な予感だけが餡子脳裏をよぎる。 そして、その嫌な予感は見事に的中した。 巨大な鍋。 れいむたちからは見えないが、中には油の海が広がっており、それは十分すぎるほどに加熱されていた。そこに、ボウルの中の赤ゆがぼちゃぼちゃと放り込まれる。 「ゆ゛っぎゃああ゛あ゛あぁ゛ああ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁッ!!!????」 鼓膜を突き破らんばかりの勢いで、上げられる凄まじい絶叫。 台車に載せられていたありすは、おそろしーしーをぷしゃぁぁ……と漏らしていた。他のゆっくりも開いた口が塞がらない。頬に涙が伝う感触だけを感じていた。 ジュワアァァ……という音と共に、絶命した赤ゆたちが一匹、また一匹と油の海面に浮かんでくる。ぴくりとも動かない。既に死んでいるのだろう。 職員は皮がこんがりと狐色に揚げあがった赤ゆを一匹ずつ掬い、キッチンペーパーと新聞紙の敷かれた場所に並べて行った。 ここから様々な製造工程を経て、加工所産のお菓子として人気の高い“揚げ赤ゆ”が市場に並ぶ。 眩暈がするような凄惨な光景を見続けていた台車の上のれいむたちが虚ろな表情に変わっていった。 「だしちぇにぇっ!! しゃむいよぉぉぉ!!!! もうやじゃあ、れーみゅ、おうちかえりゅぅぅぅ!!!!」 れいむたちが声のした方向へと振り返る。 そこにはステンレス製の巨大な冷凍庫のようなものが置いてあった。これは、赤ゆを瞬間冷凍して、冷凍食品に加工するための機械である。 使い方は簡単で指定された数の赤ゆを内部に放り込み、スイッチを入れるだけ。 一瞬で凍結した赤ゆたちはそのまま物言わぬ冷凍饅頭となり、各家庭の電子レンジで再び目が覚めるのだ。目が覚めたところで、その先に未来はないのだが。 冷却作業が終わったのか、冷凍庫の扉が開けられる。凍りついた赤ゆたちを次々に回収していき、袋の中に詰める作業が始まった。 更に他の場所に目を向けると、今度は三匹ほどの赤ゆが生きたまま袋の中に入れられていた。 「くりゅぢぃよぉぉ!!!」 小さな袋の中で赤ゆたちがぎゅうぎゅう詰めにされている。その袋の口に掃除機のチューブのようなものが当てられていた。 職員がその掃除機のようなもののスイッチを入れる。 刹那、袋は一瞬にして圧縮され、内部の赤ゆも苦悶の表情を浮かべたまま動かなくなった。赤ゆの真空パック、である。 滝のように涙を流し、涎を撒き散らして、しーしーを所構わず噴射しながら、赤ゆたちは泣きに泣き叫んでいた。 誰も助けてくれないことを呪いながら。自分たちの置かれた境遇を呪いながら。 自分たちをこの世に産み落とした母親ゆっくりを呪いながら。 「さっき生まれたガキ共も、半分はここで死ぬんだよ」 「…………」 「ここで死ななかった連中も、大人になってから食べ物に加工される。……あぁ、さっき見せたな。あんよを焼かれてたゆっくりがそれだよ」 「…………なんなの?」 「ん?」 「にんげんさんたちにとって、れいむたちゆっくりは……なんなの?」 れいむが職員と目を合わせないようにしながら、恐る恐る言葉を紡いだ。台車の上のゆっくりたちは、完全に意気消沈してしまっており、無言のまま動く気配がない。 職員はれいむの問いかけに、「クク」と喉を鳴らして嗤った。 「さっきも言っただろ。勝手に生えてくるゴミだよ。お前らは」 「…………あんまりだよ…………」 「あんまり? 失礼なヤツだな、お前は。生きてるうちは何の役にも立たないお前らに俺たち加工所職員は価値を与えてやってるんだぜ?」 れいむの揉み上げがぴくん、と動いた。 悲しみを通り越して、沸々と怒りが湧き上がっていく。あまりにも理不尽な物言いに、れいむはこの人間が憎らしくてたまらなくなった。 「お前らゆっくりはな。死んでからやっと世の中の役に立てるんだ。路地裏で野垂れ死ぬ連中よりも、よっぽど生きた意味があると思わないか?」 「れいむたちが、いきるいみは、れいむたちがさがすよ……。にんげんさんたちにみつけてもらうものじゃないよ」 「そう言ってお前らゆっくりは何をする? せいぜい、ゴミを漁って街を汚し、死んでも誰も片づけないからやはりゴミが生まれるだけじゃないか」 「……ゆぐぅ……っ!!」 「さ、行くぞ。これから、お前らに生まれてきた意味を与えてやる」 そう言いながら職員は台車を押し始めた。台車は更に奥へとやってきたようだ。 職員が陽気な声で呟く。 「終点だよ」 部屋の中は真っ暗だった。れいむたちがアクリルケースの中で不安そうにきょろきょろと周囲の様子を伺う。 そして。 「うー☆ うー☆」 台車の上のゆっくりたちが一斉にしーしーをぶちまけた。 四、 職員が部屋の電気をつけるとそこには四匹のれみりゃがいた。どれも張り付いたような笑顔のまま、自由気ままに空を飛び回っている。 れみりゃたちは「うっうー☆」と言いながら、職員の下へと集まってきた。 その様子を見てれいむたちがアクリルケースの中で目を丸くする。 自分たちと同じようにれみりゃも人間が怖いはずだ。そう思っていた。 しかしどうだろうか。れみりゃは地面にあんよをつけて職員の足に頬を摺り寄せている。しゃがみ込んだ職員はれみりゃの頭を優しく撫でた。 ここはゆっくりの加工所。 この部屋に連れて来られるまで、ゴミ同然に弄ばれる数多の命を見てきた。どれ一匹、慈悲の言葉をかけられることなくただ淡々と潰されていた同胞たちの姿。 それなのになぜ。何故、目の前のれみりゃは人間を恐れず、また人間はれみりゃに対してこうも好意的なのだろうか。少しも理解が追い付かない。 「どうして、れみりゃも自分たちと同じゆっくりなのに、こんなにも扱いが違うのかっていうような顔をしてるな」 職員の言葉にれいむたちの表情が変わる。自分たちの考えていたことをピタリと言い当てられて戸惑っているようだった。 「体で教えてやるよ」 そう言ってアクリルケースの上に手を伸ばす職員。 ありすの金髪が乱暴に鷲掴みされて持ち上げられた。あんよをくねらせながら悲鳴を上げるありす。漏れ出たしーしーが滴のように床へポタポタと落ちていた。 「い、や……。と、とかいはじゃ……」 「そら、れみりゃども! 餌だぞ!」 ありすの言葉には一瞬たりとも耳を貸さずに右手に持っていたありすをれみりゃたちの中に放り込んだ。 顔面から床に叩きつけられたありすが、二度、三度とバウンドしてようやくその動きを止める。そして、ありすが泣きながら顔を上げようとしたその時だった。 「ゆ゛ぎゃあ゛ぁ゛!! い゛だい゛ぃぃい゛ぃ゛!!!」 四匹のれみりゃが一斉にありすに飛び掛かる。その鋭い牙がありすの皮に突き立てられて、あっという間に引き裂かれていく。カスタードが弾けるように宙を舞った。 ぶちぶちと引き千切られる髪の毛。カチューシャはとっくに毟り取られて近くに放り捨てられていた。 舌を絡めるような艶めかしいキス……ではなく、れみりゃがありすの舌に噛み付いてそれを引き抜きながら租借していく。 ありすは瞳孔を開き切ったまま、その目尻からカスタード混じりの涙をぼろぼろと流していた。 れみりゃがありすの唇を剥ぎ取る。そのまま、ありすの口を横に側頭部付近まで引き裂いた。 もはや、吐き出されているのか、漏れ出しているのか、それすらも分からないほどにありすの体内から流出していくカスタード。 「かひーーーっ、こひゅっ……ひっ、ひゅー、ひゅっ、……ッ!!!」 声は出せない。ありすの口は完全に破壊され、音を発することができなくなっていた。 目はずっと台車の上に載せられたアクリルケースに向けられている。助けを求めているのだろう。求めているつもりなのだろう。 ありすは、その二つの目玉をれみりゃに抉り出されて食べられるまで、アクリルケースを見つめていた。 それから激しい痙攣を起こし始めるありす。やがてその痙攣は止まり、今度はれみりゃがありすの体内を貪ることで残された皮が生き物のように蠢く。 「ゆげろぉぉぉッ!?? ゆ゛ぉ゛え゛ぇ゛ぇ゛ッ!!!」 「う、うわあぁぁぁ!!! あ゛でぃずがあ゛ぁ゛ぁ゛!!!!」 目の前で繰り広げられる残酷で凄惨な弱肉強食の現実に、アクリルケース内のゆっくりたちは嫌悪感から中身を吐き出したり、叫び声を上げたりした。 ありすの残骸の上で羽をぱたつかせるれみりゃが嬉しそうにアクリルケースを眺めている。 その中のゆっくりたちは歯をカチカチと鳴らして震えていた。 今、ありすがれみりゃに捕食されるまでどれくらいの時間があっただろうか。短い時間ではないということだけは、どのゆっくりにも理解できた。 痛いのか。熱いのか。苦しいのか。泣きたくなるのか。中身を吐くのか。動けなくなるのか。 わからない。 “死”の感覚はわからない。今際の際にならねばわからない“死”の感覚にゆっくりたちは怯えた。恐怖であんよを動かすことができない。 「にんげんさんのいう、れいむたちがうまれてきたいみをおしえてくれる、っていうのはこういうことなの……?」 れいむが呟いた。れいむは震えていなかった。“死”を覚悟して受け入れたのだろう。穏やかな表情でアクリルケースの中から職員を見上げていた。 「ああ、そうだよ」 職員が平然と答えながらアクリルケース内のゆっくりを次々とれみりゃたちの元へ放り投げた。 れいむは動かない。綺麗な放物線を描いて、床に叩きつけられ、それかられみりゃたちに食い散らかせる仲間を見ながら、なおも職員に質問を続けた。 「にんげんさんたちのごはんになるか、れみりゃたちのごはんになるか……。れいむたちは、そのどっちかにしかなれないの?」 「何かになれるだけマシだろう」 「じゃあ、どうして、れみりゃは……れいむたちとおなじゆっくりなのに、にんげんさんにごはんさんをたべさせてもらえるの?」 「れみりゃは、お前らみたいなゴミを無償で食べてくれるからな。例えるなら、お前らが害虫でれみりゃは益虫なんだよ。……ああ、わからないか」 ぐちゃぐちゃに引き千切られていく、かつてゆっくりだった物。 れいむはそれをぼんやりと眺めていた。 あんなぐちゃぐちゃの姿になるまでは、ゆっくりしようと一生懸命頑張っていたのだろう。 必死になって食糧を探してゴミを漁り、死に物狂いでおうちを作って街の景観を損なわせたのだ。 れいむは一つの答えにたどり着いた。 (れいむ、ゆっくりりかいしたよ……) れみりゃたちがアクリルケースの中のれいむに向けて「うー☆」と合唱を始める。れいむを食料として欲しているのだろう。 (れいむたちみたいなゆっくりがいきようとすることが……にんげんさんたちにめいわくをかけちゃうんだね……) れいむのあんよが宙に浮いた。片方の揉み上げを掴まれ宙釣りにされる。 (……だから、にんげんさんたちにとって、れいむたちはいきてちゃいけないんだ……) 放り投げられたれいむがれみりゃによって滅茶苦茶に食い荒らされていく。 生きる意味などなかった。この世界で自分たちが生きて行くことの価値は見出せない。どこに行っても疎まれる。 それをゆっくりと理解した。釈然としない気持ちはあったけれども、それを覆すような力も知識も何もない。 れいむの存在した証が……体が、少しずつ失われていく。 薄れゆく意識の中でれいむは静かに呟いた。 ――れいむ、うまれてきてごめんね La fin 『存在価値』をゆススメに登録する
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山桜がたおやかな春風にふかれて揺れている。樹冠の落とす木漏れ日もまたおなじ。空 の青さは指をかざせば染まってしまいそうなほどだ。蝶は舞い、花は咲き、梢にとまる小 鳥たちは盛んにさえずり愛を謳っている。 野山はさんざめいていた。 ついに、ゆっくりが待ち望んでやまない季節がやってきたのだ。 この季節、ありとあらゆるゆっくりが巣穴を飛びだして春をむさぼる。 そのため。 とあるゆっくりプレイスでは、惨劇が発生していた。 「うー。……うまいんだどー!」 「ゅ……ゆ……ゆっ」 「うー、うー。あまあまなんだどー」 「はなちぇー! はなちぇー!」 「むーしゃむーしゃするんだどー」 「やべでね! れいむに いたいこと しないでね! ……ゆぶべぇぇっ!」 午睡を誘う麗らかな春の日に、れみりゃ種による饗宴がくりひろげられていた。 胴体の有無を問わず、十数体のれみしゃ種がゆっくりの踊り食いにふけっている。 すでに、コロニーは壊滅状態にあった。 百頭を越えていたゆっくりプレイスの構成員は、捕食種の襲撃から一時間もへたずして 壊滅状態に追いこまれ、顔面の造作をまるごと失ったれいむや、内部の餡子をすすられて のっぺりとした皮と化したまりさといった、酸鼻をきわめた宴の残骸がそこかしこに散乱 しているという、まったくもって惨憺たる光景が呈せられるようになった。 生存しているゆっくりもいないわけではない。だが、そのほとんどはすでにれみりゃの 手中にあるか、さもなくば瀕死のまま放置されていた。 そしていま、れみりゃの毒牙から逃げのびつづけていた最後の家族が、食物連鎖の一端 に連なろうとしていた。 「ぶぎゃぁぁぁぁぁぁぁっっっ! ぎょわいっ、ぎょばいぃぃぃぃっっっ!」 「あっぢいげぇぇぇぇえぇっ! あっぢいげぇぇぇっっっ!」 「ゆぴぃぃぃぃぃぃぃぃっ! ゆぴぃぃぃぃぃぃぃぃぃっっ!」 「ごっぢごな゛い゛でね゛ぇぇぇぇぇぇっっ!」 「ぷきゅぅぅぅぅぅぅっっ! ぷ、ぷ、ぷ、ぷきゅぅぅぅぅぅぅっっ! ぶ……ぶぎゅぅぅぅぅぅっっ!」 胴付きれみりゃがうつ伏せになり、崖にうがたれた横穴に太った右手をつっこんでいる。 その穴からは、号泣と慟哭と怒声のいりまじった聞くに堪えない叫び声がだだ漏れになっ ていた。見てのとおり、れみりゃが「おうち」に逃げこんだゆっくりを引きずり出そうと しているのである。 「うー。とどかないんだどー」 しかし惜しくも奥にまで手がとどかなった。獲物は横穴の奥にぴったりと背中をつけて いて、かつ横穴にはかなりの距離があった。 いったん手を引っこめた。 それと同時に声をあげての泣きわめきはむせび泣きに転じた。 横穴の奥底では五頭のゆっくりがふるえている。 家族構成は成体のまりさとれいむ、それから赤ゆのまりさが一頭とれいむが二頭だった。 成体まりさの口がひらく。 「お、お、おぢびぢゃん、だ、だいじょ、だいじょうぶ、なん、なんだぜっ、 れみ、れみ、れみりゃ、おぢびぢゃん、おぢびっ、おぢびぢゃんば、 ば、ば、ば、ばりぢゃが、まも、まもるんだぜっ」 成体まりさの強がりなど、気休めにもならなかった。家族の恐怖は極限にたっしていた。 こんな状態でなぐさめの言葉を授けたところで、効果のほどはたかが知れている。 家族一同、おびえているどころではなかった。 だれもかれも、涙線は完全に崩壊している。しーしーもうんうんも垂れ流しだが、その 汚臭を気にするゆっくりは一頭もいない。五頭の足もとには、落涙ゆえか失禁ゆえか、あ るいはその両方ゆえか、砂糖水が溜まり池をつくっていた。成体まりさの血走った眼球は 前方にせりだし、いまにもこぼれおちそうだ。親子ともども、まりさ種は歯をかちかちと 噛みならし、れいむ種は下唇を痛いほどにかみしめている。そして全員、氷点下の青空に 放り出されてもこれほどでもあるまいと思えるほど激しくふるえている。 れみりゃの腕が再度侵入してきた。 「ゆぎぃぃやぁぁぁああぁぁぁっっ! ぐるな゛ぁぁぁぁぁああぁっっ!」 「ぎょばいぃぃぃぃぃっっっ! な゛んでぐるのぉぉぉぉぉぉぉっっ!」 「ま゛、ままままままままままままりじゃ、まりじゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃっ、 ぢゅよいっ、ぢゅぢゅぢゅぢゅぢゅぢゅぢゅよいんだじぇぇぇぷぎゃぁぁぁぁああぁぁっ!」 目と鼻のさきで捕食者の太った五指がわきわきと躍っているのだから、たまらない。 だが手は虚空をつかむばかり。 悪魔の触手が引っ込んだ。 泣き声がやむ。 さきほどから泣いてはやみ、やんでは泣くの繰りかえしだ。 「ゆ゛……ゅ゛……ゅ゛……ゅ゛……もう、ぐるんじゃ、ないん、だぜ、ぐるな、ぐるな、ぐるな、ぐるなぐるなぐるな……」 「ゅあ……ゅ゛……ゅ゛……ごないでね゛っ、ごないでね゛っ、ごないでね゛っ、ごないでね゛っ、ごないでね゛っ」 「ま、まりじゃ、まりじゃば、ぢゅよいんだじぇ、ぎ、ぎ、ぎ、ぎだら゛、ようじゃ、じな゛いんだ、じぇっ」 「ごべんなざい゛ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっっ! ごにゃいでぇぇぇぇぇっ! ごないでにぇぇぇぇぇっっ」 うねうねと、手がやってくる。 家族の声がそろった。 『ぎだぁぁぁぁあぁぁあぁぁぁあぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっ!』 だが何度やっても結果はおなじだった。 獲得するのは悲鳴ばかりで、かんじんかなめのあまあまは巣穴の奥底で無傷だった。 あと数センチばかりれみりゃの腕が長かったら、いまごろ家族は仲良くれみりゃの胃液 を泳いでいることだろう。現在の状況が永続するならば、いずれれみりゃも諦めてくれる かもしれない。 だが、眼前で死が躍っている状況で安堵できるほど、ゆっくりは豪胆ではなかった。 かれらは見知らぬものには無意味なほどに横暴になれるが、一度経験した危険に対して は病的なほど臆病になる。そして、れみりゃ種をふくむ捕食種への恐怖は、餡子脳の根底 に深々と刻みこまれている。知らないどころではなかった。 恐怖が臨界点を突破したのか、家族は目も当てられない愛憎劇を演じつつあった。 「いぐっ……ぃぐっ……ぎょばいよぉぉ、ぎょば……ぎょばいよぉぉぉぉおおおぉぉっっ! おどぉぉぉぉじゃぁぁぁぁぁんっ! だずげでよぉぉぉぉぉぉぉぉっっ!」 赤ゆのれいむの無我夢中の哀哭に接し、成体れいむの目に殺気のような希望がやどった。 「ぞ……ぞうだっ! ば、ばりざ! れみりゃをやっづげでねっ! いぐっ、 ゆっぐりじでないで れみりゃを やっづげでね! ざっざどじでねぇぇぇっ!」 成体まりさはツガイの命令に反抗した。 どれだけ理性を働かせて回答したかは分かったものではない。 「い……いや゛なんだぜ! ごろざれるん゛だぜ! でいぶが いぐんだぜぇぇ!」 いちおう、ゆっくりにも母性や父性がある。家族愛もあるし、保護欲もある。 が、薄っぺらな家族愛など圧倒的恐怖によって引っぺがされていた。いまやゆっくりを 支配しているのは、理性のすぐ下にうずくまっていた防衛本能だけだった。 「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!? な゛に いっでるのぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっ!? でいぶば がわ゛いーんだよぉぉぉぉ! ばりざが じんでねぇぇぇぇええぇっっ! がぞぐを、がぞぐを まもるんでじょぉぉぉぉぉぉぉっっ!」 「でいぶ なんだぜぇぇぇぇぇ! でいぶが じねぇぇぇぇえぇぇっっ!」 もはや夫婦喧嘩という水準にはなかった。敵意をむきだしにして、お前が死ねいいやお 前が死ぬべきだとやりあっている。家族をまもるはずの両親が見るにたえない悲喜劇をは じめてしまったから、赤ゆたちは困惑をきわめた。 「ゆぴゃぁぁぁぁああぁぁぁっっ! げんがじないでねぇぇぇぇええぇぇっっっ!」 「うるざいよぉぉぉぉぉぉっっ! げずの おぢびぢゃんば だまっででねぇぇぇぇぇ!」 「ぎゃばいぐっでごめん゛ね゛ぇぇぇぇぇぇぇ! ぎゃばいぐっでごめん゛ね゛ぇぇぇぇぇぇぇ!」 「ずーばーじーじーだいぶぅぅぅぅぅっ! ずーばーじーじーだいぶぅぅぅぅぅっっ!」 侃々諤々の議論の結果、つぎにやってきたれみりゃの腕を、まりさが迎え撃つことにな った。家長の役目を思い出したというよりも、押し切られただけであった。家族一同、ま りさの迎撃を固唾をのんで見守る。 はたして、触手のような腕がやってきた。 まりさは白蛇のような五本指に対して、 「ぷ……ぷ……ぷきゅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!」 威嚇した。 突撃するわけでも噛みつくわけでもない。あんよは一ミリたりとも前進していない。 ゆっくりの代表的威嚇行動である「ぷくー」を展開するばかりだった。 あまりにも情けない敗北主義をまのあたりにして、れいむは激昂した。 「まじめに゛やっでねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっ!」 首を絞められたように目をみひらき、ツガイのまりさを蹴りとばした。 まりさは回転しながら前方につんのめった。 起きあがったとき、横穴の入口に背を向けたかっこうになっていた。 後頭部に衝撃がはしり、総毛だった。 捕食者に後ろ髪をつかまれたのだ。 すかさずまりさは「ゆん」と叫び、あんよに力をこめた。 「ゆ゛ゆ゛ゆ゛ゆ゛ゆ゛ゆ゛ぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!」 火事場の馬鹿力というやつか。通常のゆっくりが胴つきれみりゃの膂力にかなうはずが ない。ないのだが、たしかにその場に踏ん張っている。それでも、種族のちがいに根差し た腕力の差は埋めがたく、すこしずつ外へとひっぱられてゆく。 「だ……だずげでぇぇぇぇ! でいぶぅぅぅぅぅぅぅ! おぢびぢゃぁぁぁぁぁぁんっ!」 まりさは死にものぐるいで助けをもとめた。しかし家族は立ちすくむばかりで動こうと さえしない。それどころか、ツガイのれいむは勝ち誇ったようなうすら笑いをたたえるの だった。赤ゆたちのほうがはるかに心配そうな目をしている。 「で……でいぶぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ! どぼじで わらっでるんだぜぇぇぇぇぇっ! だずげろぉぉぉぉぉぉぉっ!」 「ふんっ! ぷくーなんかで ごまかそとした げすへの『てんっばつっ』だね! ゆっくり りかいしてねぇぇ!」 一向に家族をまもろうとせず、あまつさえ自分の身代わりになれと吼えちらかし、よう やく父親の役割を再認識したかとおもったら、ぷくーなどで誤魔化そうとするまりさなど、 もはやツガイではなかった。かくしてれいむはツガイに三下り半を突きつけるにいたった。 だが、生死のはざまに立たされているまりさにとっては、そんなことはどうでもよい。 「な゛にいってるんだぜぇぇぇぇぇぇ! だずげろっでいっでるんだぜぇぇぇぇぇぇぇっ!」 恫喝のような救援をもとめるまりさを見て、れいむの目は哀憫の色を浮かべた。 その色を発見し、まりさは胸をなでおろすとまでは行かなくても、希望をつないだ。 「へ。そこまでいうなら……たすけてあげるねぇ!」 ずるり。と、まりさがいま一歩後退を余儀なくされた。成体は歯を食いしばってその場 にとどまる。れいむは今まさに奈落に引きずり込まれようとしているかつてのつがいに歩 み寄った。 そして、くるっと一回転した。 「きゃわいくってごめんねぇぇー!」 ウィンクして、ポーズを決めた。 まりさは絶望した。 というより、意味が分からなかった。 ところが赤ゆたちの目はかがやいた。 それは、れいむが常日頃から行っている挨拶のようなものだった。 降ってわいた日常に、かれらは恐怖を忘却した。 「れいみゅもやりゅー!」 「れいみゅもやりゅー!」 「まりしゃもやりゅー!」 赤ゆたちがれいむの隣にならんだ。 れいむはもみあげの先端で赤ゆたちを撫でた。家族揃ってまりさと向きあう。 「おちびちゃん、いくよ~~! いっせーの……」 『きゃわいくっちぇ ぎょめんにぇー!』 母と娘が同時にポーズを決めた。 一寸の乱れもなかった。 「だずげでねぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっ! ばがやっでないで だずげでねぇぇぇぇぇぇっっ! ゆ゛ぎぎぎぎぎ……!」 「みゅみゅっ!? しぇっきゃきゅの『きゃわいくっちぇごみぇんにぇ』だよ!?」 「どーちて りきゃい できにゃいにょ? ばかにゃにょ? ちぬの?」 「おとーしゃんは ゆっきゅり できにゃいよ! ちんでね!」 まりさは唾を飛ばして助けを呼んだ。 が、赤ゆは総じて不満をあらわにしていた。 自分たちの「かわいくってごめんね」が、かつてないほど綺麗に決まったのに、どうし て意味不明な救援を求めるのだろうと、赤ゆたちは心底疑問だった。その回答は父の発狂 に求められた。父はおかしくなったのだ、と。狂気を孕んだゆっくりなどもはやゆっくり ではなく、ましてや親なんかではなく、そのために赤ゆは親を罵倒しても、てんとして恥 じなかった。 ところが、れいむがまりさの眼前に進み出て言うのである。 「わかったよ! これなら どう!?」 まりさの黒瞳に、打ち砕かれるべき希望が宿った。れいむはつがいにあんよを、正確に いえば肛門を向けた。ちなみにゆっくりは肛門を「あにゃる」と呼称する。そのあにゃる から、ムリッと、黒いものがせりだしてきた。 「すーぱー! うんうん! たいむ!」 「ゆ゛……!?」 まりさの驚愕の声を聞くと、心躍った。肛門に力をこめた。うんうんは弾道軌道をえが いて助けをもとめるまりさの口に着地した。 「すっきりー!」 れいむは恍惚とした。ひとかけらのうんうん。それが差し出された助けだった。 まりさの眼光に怒気が差した。 その一方で、赤ゆたちは歓声をあげた。 うんうんがゆっくりのおくちに! ありえない現象を目撃しておもしろがった。 「まりしゃもー!」 「れいみゅもー!」 「れいみゅもー!」 赤子とは、面白いものを真似したがるものだ。 たちまち、死に瀕するまりさの眼下に三匹の赤ゆがならんだ。そして、一様にあんよを 親まりさに向ける。掛声一銭。うんうんを射出してみせた。だが、腹部の力が弱かったた めか、口には入らず顎に命中したのだった。 『しゅっきりー!』 「おちびちゃんたち! おじょーずだよー! ぺーろぺーろしてあげるね!」 「くすぐっちゃい~」 「ゆゆ~。おきゃーしゃんの ぺーりょぺーりょは とっちぇも ゆっきゅり できりゅんだじぇ~」 ひとしきり赤ゆを舐めあげると、れいむはまりさに向きなおった。 そろそろまりさの死力も枯渇する。 むしろ、いまの今までれみりゃの膂力に抗いつづけていられたことが奇跡にもひとしか った。歯ぎしりをして悔しがるまりさに対し、れいむは愉快げに言った。 「げすまりさは れいむの うんうんを いっぱい むーしゃむーちゃしていいよ!」 『いーよー!』 赤ゆの合唱が追従した。 まりさの口の端から、うんうん混じりの黒い唾液がしたたりおちる。 「……ゅ……ゆ゛……ゅ゛……」 「んん~? どうしたの? さっさとむーしゃむーしゃしてね!」 『しちぇにぇ~』 赤ゆの甲高い声がひびきわたった、そのときだった。 「ごろじでやるぅぅぅぅっっ! ごろじでやるんだぜぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっ!」 「ゆゆぅぅぅぅっっ!?」 まりさは絶叫した。 成体一頭と赤ゆ三匹、殺意におされて後ずさった。 「ごろじでやるぅぅぅ! でいぶもっっ! ちびどももっっ! ごろじでやるんだぜぇぇぇぇぇっ!」 「ゆ゛……ゆ゛……」 「ぎょばいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ! ぎょばいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!」 「ごっぢ ごないでねぇぇぇぇぇっ! あっぢ いっでねぇぇぇぇぇぇぇっっ!」 「ゆぴぃぃぃぃぃぃぃっっ! ゅぴぃぃぃぃぃぃっ!」 あろうことか、まりさは前進を始めていた。 後頭部を引っ張るれみりゃの腕力にあらがって、ひきさがるどころか、鬼神の殺意を目 もとにたたえつつ、家族のもとへと這ってゆく。まりさは変身していた。怒声、罵声、脅 し文句を思いつくかぎりならべたて、屑どもに接近する。赤ゆたちはさきほどまでの歓喜 はどこへやら、いまは力のかぎり泣きわめいている。 れいむは震える歯を噛みしめて、力いっぱいさけんだ。 「ゆっくりしていってね!!!」 赤ゆがほがらかにこたえた。 『ゆっきゅりしちぇいっちぇにぇ~』 まりさも言った。すばらしい笑顔を浮かべたまま。 「ゆっくりしていってね!!!」 ゆっくりたるもの、ゆっくりしていってねと言われれば、ゆっくりしていってねと答え るほかない。死のふちに瀕していようが、隠密行動の最中だろうが、もし十秒以内にゆっ くりしていってねと叫ぶと森羅万象が滅ぶと認めていたとしても関係ない。 本能のようなものである。 そしてこの言葉を発するとき、ゆっくりは力が抜ける。 「ぎょぼぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ! ゆごぉぉぉぉぉぉぉっっ!」 まりさの姿が急速に小さくなったいく。一瞬のうちに横穴の外にまで引きずり出された。 れみりゃはやっと獲得した一匹目を堪能すべく、身を起こし、あぐらをかいて、これをむ さぼりはじめた。おそらをとんでいるみたいとか、やめるんだぜまりさはおいしくないん だぜとか、色々聞こえてきたが家族にとってはどうでもよいことだった。 れいむはほっと安堵の吐息をもらした。 巣穴の入り口に背をむけて、赤ゆたちに声をかけた。 「すっきりしたね! おちびちゃん!」 「したにぇー!」 「したんだじぇー!」 れいむが赤ゆたちの視界を遮っていなかったなら、もう少しましなことを言っていたか もしれない。巣穴の外では悲鳴まじりに黒い雨が降っていた。れみりゃは、またたくまに 一匹目のゆっくりを食らいつくしてしまっていた。だが、まだ満腹には及ばない。そこで 身をかがめて巣穴をうかがった。 そこにれいむ種の背中を発見した。 覗くものは、覗きこまれるものである。 赤ゆたちの視界のはしには、れみりゃの赤い瞳が見えていた。 「……ゆぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっっっ!」 赤ゆは悲鳴をあげて後ずさった。が、れいむは背中で何が起こっているのか分からない。 分かったのは、巣穴に差しこんでいた日の光が、突然にさえぎられて家が暗くなったこと だけだった。 「え? ……ゆごぉっ!」 れみりゃの手が伸びてきて、無防備な後ろ姿をわしづかみにした。 れいむは踏ん張った。こちらも馬鹿力だった。まりさが引きずり出されるときと、ほと んど同じ光景が現出した。ちがいといえば、死に淵に立たされているのがまりさではなく れいむだということと、助けを求める相手に成体ゆっくりが含まれていない、という二点 だけといえた。 いや、もうひとつ。 まりさの時とは違って、後ろ髪ではなく皮膚をつかまれていたために、皮膚が後ろに引 っ張られ、あわせて顔面の造作が左右にのび、鬼面ができあがった。 「ふごぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっ! おちびちゃんだぢぃぃぃぃぃっっ! だずげでねぇぇぇぇっっ!」 「ゆ゛ぇええええぇぇぇ゛ぇぇぇ゛っっ!」 「ゆっぎゅりでぎないぃぃぃぃぃぃぃぃぃっっっ!」 「ごっぢごないでねぇぇぇぇぇぇぇっっっ!」 「たずげでっでいっでんでぢょぉぉぉぉぉぉぉっっ! ざっざどじろぉぉぉぉぉぉっっ!」 必死の形相で叫んだかいがあり、赤ゆは母が危険に陥っていると悟ることができた。 そこで赤ゆたちは審議をはじめた。 「ゆぅ……? おきゃーしゃん。ゆっきゅり してないね~。どーちて?」 「ゆぅ……。どうちよ……」 「ゆっくちー、ゆっくちー。ゆっくち しゅりぇば いいよ!」 「おきゃーしゃんは たすけて って……ゆ~。どーゆーこちょ?」 「たしゅけりゅんだよ!」 「ゆぅ……ゆぅ! しょっか! たしゅけりゅよ!」 「おきゃーしゃんを たしゅけりゅよ!」 まったりとした審議中、れいむは叫びまくっている。 が、シングルタスク脳である餡子脳にとってはそれはほとんど他人事、あるいは雑音、 風の音のようなものにしかならず、右から左へと抜けていた。 ともかく結論は出た。 赤ゆたちはれいむの前に横一列にならんだ。 そして、 『きゃわいくってぎょめんにぇー!』 ポーズを決めた。 びしっと。 一糸乱れぬポーズだった。 「ゆがぁぁぁぁぁあああぁぁぁぁっっ! ごろずっっ! ごろじでやるぅぅぅぅぅぅぅっっっ!」 赤ゆにとっては予想外の展開だった。親まりさが引きずり出されそうになったとき、親 れいむはこれでまりさを助けようとしたのだ。このあとは「すーぱーうんうんたいむ」で 完璧だ、とさえ思っていた。 「どぼじでおごるにょぉぉぉぉぉっっ! れいみゅは『たすけ』だのにぃぃぃぃぃっっ!」 「『たすけ』たのに まりしゃを おこりゅ げしゅな おきゃーしゃんは ちねっ! ゆっくりちねっ!」 赤ゆのまりさが宣戦を布告した。 たちまち姉妹も同調し、死相を浮かべる親れいむに突撃した。 「ちんでねっ!」 「ちね、ちねっ!」 「ちねっ、ちねっ、げしゅは……ちねっ!」 ぽんぽんと、ぶつかっては跳ね返されてゆく。 れいむは殺意にかられた。 「ゆぐぅぅぅぅぅぅぅぅ……ごろずぅぅぅぅぅぅ……ゆべぇっっ!」 突然、れいむは解放された。 唐突の出来事に力の制御がきかず、つんのめり、赤ゆをはじきとばした。 「はぁ! はぁ! ……おぢびぢゃんだぢ……よぐも……よぐも……」 ゆるゆると起きあがる。そこに赤ゆの悲鳴がきこえてきた。 「ゆぅぅぅぅぅ! ゆっぐりでぎにゃい ゆっぐりが いりゅぅぅぅぅぅっっ!」 れいむの頭部から、ゆっくりれいむの象徴たる赤いお飾りが紛失していた。 胴付きれみりゃがもぎとってしまったのだ。そのころれみりゃは、お飾りを見て「うー?」 と首をひねり、ぽいと放り投げてしまっていた。 視点を巣穴にもどす。 「ん? ……ああ? ぁ……ぁ……お……、お、おがざりがぁぁああぁぁあああぁぁ!? ずべでの ゆっぐりの あこがれがぁぁぁぁああぁぁぁぁぁっ! でいぶの がわいい おがざりがぁぁぁぁぁああぁぁっっ!! ゆ゛っぐりの しほうがぁぁぁぁぁぁっっっ!!!」 れいむは発狂していた。あたりを見まわしてもお飾りはない。子供たちはいきなり出現 した見知らぬゆっくりに、わなないている。二頭いる赤ゆのれいむの一頭にいたっては、 モリモリッと、あにゃるから糞を流していた。 緊張のあまり腹部が弛緩してしまったのだろう。 「……おちびぢゃんだちの ぜいだねぇぇぇ……ん? ふぎょわぁぁぁああぁぁぁぁっっ!」 お飾りを失くした原因を、赤ゆに求めた。 が、直後、巣のなかが暗くなった。 れいむは入口に見て、そこに巣穴をのぞいている捕食種を発見した。 殺される! と思うや、母親が赤ゆのれいむのお飾りを口にはさんだ。 「……ゆゆ?」 「ゆんっ!」 うなりを上げて赤ゆが出入口に吸い込まれてゆく。 投げたのだ。 「おしょりゃとんでりゅみちゃいぃぃぃぃぃ……ゆごっ!」 放り出された赤ゆのれいむを、れみりゃは見事にキャッチした。悲鳴をあげるまもなく、 母の身代わりとなった赤ゆはひとのみに飲みこまれた。胃液に溶かされながら苦しみ悶え て死ぬしかないので、なかなかに辛い死に際であろう。母が子を殺した一部始終は、のこ りの二頭の赤ゆにしっかりと見られていた。 「いもーちょをかえちぇぇぇぇ!」 「かえちてね!? まりしゃのいもーちょかえちてね!」 懲りずにはじまる親子喧嘩。 「ふんっ。おまえらなんか、こうだよ!」 れいむは赤ゆからお飾りと帽子を略奪し、それを巣穴の入り口へと投げすてた。 「ゆゆぅぅぅぅぅ! まりしゃのおぼーちがぁぁぁ!」 「れいみゅのおきゃざりぎゃぁぁぁ!」 「ふん! れみりゃがくるよ!」 「ゆゆぅ!」 赤ゆはようやく、外に捕食種がいることを思い出した。 さすがに命は惜しかった。帽子と飾りを潤んだ目つきで見つめるしかなかった。 その後、もう一度れみりゃの手がもぐりこんできて、また去っていった。 回廊に堕ちていた帽子とお飾りは消えさっていた。 引き下がる腕に巻きこまれたのだ。 胴つきれみりゃは地団太を踏んだ。 成体まりさと赤ゆのれいむは食べられたが、あと三頭も残っている。悔しい。 道具を使う、という発想はなかった。 そこに翼を生やしたれみりゃ、胴なしのれみりゃがやってきた。 「なにやってるんだどー?」 「このなかにあまあまがあるんだどー。はいれるんだどー?」 「とっでぐるんだどー!」 家が暗くなった。 「……ゆ?」 家族は入口を見やった。 れみりゃの顔が浮かんでいた。 「ぶぎょぉぉぉぉぉぉぉ!」 「ゆごぉぉぉぉぉ!」 「ゆぴぃぃぃぃぃ!」 「うー、うー」 胴なしれみりゃが巣穴に侵入をこころみていた。 ところが。 「う~~~~~!」 巣穴の大きさは、成体ゆっくりが一列縦隊で入れるほどの隙間しかなかった。 そのため、翼をもっているれみりゃは、翼の付け根がひっかかって入れなかった。 「うう~~~~~~!」 うす暗がりに、れみりゃの声が充満した。一家は抱き合いながらさんざんに泣きあって いたが、やがて、れみりゃがその大きさのために入ってこれないことに気付くと、一転し て勝ち誇り、侮蔑の笑みさえたたえた。一家は入口へと跳ねていく。そして、おもいおも いに、れみりゃをからかいはじめた。 「は……は……こっぢごれないよ! ざまぁー! ざまぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!」 「うー、うー」 「きゃわいくっちぇぎょめんにぇぇぇぇ!」 「うー、うー、うー」 「ゆゆーん。まりしゃは とっちぇも ゆっきゅりしちぇいりゅんだじぇ~~」 「うー、うー。……う~~~~っ!」 「どうしてこっちこないの? ばかなの? しぬの? ほーらほーら、れいむはここにいるよー」 「うー。どくんだどー」 「あれ?」 胴付きれみりゃが業を煮やして、胴無しのれみりゃをどかした。 そして、巣穴の中をのぞく。 「うー?」 手近にいたゆっくりを捕らえた。成体れいむである。おそらとんでいるみたいと、場を わきまえぬ戯言を繰りだす。直後に目をみひらくと、息が吹きかかりそうな近距離にれみ りゃの顔があったので絶叫した。れみりゃは両手で果実を持ち、不細工きわまる泣き顔を じっくりと観察した。 なお、子は成体れいむが引きずり出されたあいだに、奥に逃げ去ってしまっていた。 「う~?」 「ぁ……あ……は、はなしてね! れいむをはなしてね!」 「うー?」 「……な、なかにおちびちゃんがいるよ! あっちのほうがおいしいよ! 「うー!」 「……そ、そうだよ! れいむは おいしくないよ! おちびちゃんは おいしーよ!」 「うー……」 「やめてね! ……れいむを、ゆぇぇ、た、たべない、でね! れいむば、ゆぐっ、じにだくない……」 「うー……」 「やじゃぁぁぁぁぁぁっっっ! でいぶ じにだくないよぉぉぉぉぉぉ! じにだくないぃぃぃぃぃぃっっ!」 「うー!」 れみりゃは、れいむの肛門に指をつっこんで餡子をほじくりだした。ついで、あんよを 握りつぶしてその穴から餡子をすすった。さらに右目をえぐりだして口にふくみ、こりこ りとした食感をたのしんだ。まだれいむには意識があった。成体ゆっくりの大味は、満腹 になりかけた胴付き舌には不満だった。放り投げた。ぐしゃりと潰れた音を立てて墜落し た。みあげた生命力だった。瀕死ではあったが死んではいなかった。だが、そこに胴無し のれみりゃが飛んできて、おこぼれにあずかる。 胴付きは赤ゆを楽しもうと巣穴をのぞく。 甲高い声がもれてくる。 「し……しりゃにゃい ゆっきゅりが いりゅんだじぇ!」 「しりゃにゃい ゆっきゅりが いりゅぅぅぅ!」 赤ゆのまりさとれいむは、おたがいに目をやって同時に悲鳴をあげていた。 お飾りと帽子が失われているから、おたがいだれだか分からない。 そして同時に、お互いを排除すべき異物と認識した。 先手をとったのまりさだった。 「ちね!」 「ゆん!?」 体当たりをかました。 赤ゆのれいむが転がった。 「ゆゆ~。おぼうちのないゆっきゅりは、ちね!」 「ゆゅ!?」 こんどはれいむが反撃した。 まりさは転がったがさしたる打撃にはなっていない。 はた目には、じゃれあっているようにしか見えないだろう。 「ちね!」 「ちね! ちね!」 しかし、当人たちは本気の殺し合いを演じているつもりである。 赤ゆが死闘をくりひろがている間、外では決定的な異変が起こっていた。 胴付きと胴無しが話しあっている。 「うー、うー!」 「うー? どうしたんだどー?」 「うーにあやまらせるんだどー」 「なんでなんだどー?」 「れみりゃをからかったんだどー。あやまらせるんだどー。あやまるなら あいつら ゆるしてやるんだどー。たべちゃいけないんだどー」 「どーしてなんだどー?」 「おなかいっぱいなんだどー。それと、れみりゃを ばかにした ゆっくりは ひさしぶりなんだどー。ゆーきに めんじるんだどー」 「わかったんだどー。うーも おなかいっぱい なんだどー」 胴付きれみりゃが、巣穴をのぞく。 姉妹の決闘はつづいていた。 「ちね! ちね!」 「うー。おちびちゃーん。でてくるんだどー」 「ちねっ! ちねっ!」 「おちびちゃーん。うーに あやまるんだどー」 「ちねぃっ!」 「あやまるんだどー」 「ちね! ちね!」 「あやまれば たちさるんだどー?」 「ちねぃ! ちねぃ!」 「うー。あやまらないんだどー。ばかなんだどー。……こーなったら、こーするんだどー」 れみりゃは巣穴に尻を密着させた。 ばふっ。 と、濁った音を立てて、黄ばんだ煙がれみりゃの肛門から発射された。 胴付きれみりゃの屁は、あらゆるゆっくりに死をあたえる。 指向性のついた毒けむりが巣に広がってゆく。 「ゆぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!」 殺し合いどころではなくなった。 殺到する黄色い煙をまえにして、まりさはれいむの背中に移動した。 「か、かくれりゅんだじぇー!」 「ゆゅっ!? は、はなちてね! れいみゅを はなちてね!」 「ゆゅ~~。れいみゅばりあー!」 まりさはれいむにしがみ付いて離さない。 髪の毛に顔をうずめて、煙をやり過ごそうとする。 れいむは、もがいた。 「はなちてね! きゃわいい れいみゅを はなちてね! しゃっしゃと はなしゃないと おこりゅよ!」 「は、はなちてね! ゆゆ! ゆっきゅりできにゃいよ!? ぷっぷーさんがくりゅよ! は、はなち、はなちてね……ふごっ!」 ついに赤ゆのれいむは毒ガスを吸い込んだ。 「ゆ゛……ゅ゛……ゅ……ゅぐ……あ……」 臭気はたちまちれいむの全身にめぐり、体内餡子を汚染していく。 赤ゆのれいむは震えだし、白目をむき、電気を帯びたようにはげしく痙攣し、肛門がひ らいてうんうんが搾りだされ、まむまむから汁がひらいて汁がちょろちょろと垂れながさ れ、うめき声とともに口からべろりと舌が垂れ、その多目的器官は病的なまでに黄色く変 じていた。 「ぃぃぃぃぃぃ……ぎぎぎぎぎぎ………ゆごっっっ!」 赤ゆが大きくふくらみ、爆発するように大量の餡子を嘔吐した。 その背中に隠れていたまりさは、楯がいきなり薄っぺらになって防禦機能を喪失してし まったため、戦慄した。 「ぶぎゃぁぁぁぁぁああああぁぁぁっ! な、なにやっでりゅんだじぇぇぇぇぇぇぇっっ! じゃ、じゃっじゃど もどに もどっでねぇぇぇぇぇぇぇぇっっっ! べーりょべーりょしであげりゅねぇぇぇぇぇぇぇっ! ぺーりょぺーりょ……ゆべぇぇぇぇっ!」 赤ゆの死骸にはたっぷりと毒ガスが沁みこんでいた。まずいどころか危険である。 ぷっと餡子を吐きだした。 そこに死刑宣告にもひとしい声がとどろいた。 「もっとするんだどー!」 ばふっ、ばふっ、ばふっ! 放屁の三連射だ。 濃厚な煙が、赤ゆを抱こうと突進する。 卒倒しそうになった。 「ゆぎぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっっっ! ゆぴぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっっっ!」 なにか身を隠すものはないかと、血相をうかべてあたりにさぐった。 あった。 「しょ、しょーだ! おといれしゃんに にげりゅんだじぇー!」 この家にはトイレがあった。 それもゆっくりにしてはかなり本格的なものだ。 巣の一隅に高台が築かれていて、そこに小さな縦穴が掘られている。 ちなみに、高台にトイレがあるのは、赤ゆの落下をふせぐ措置である。高台にあれば 赤ゆは登れず、登れるような運動能力を獲得したときにはゆっくりの大きさは穴の直径 をこえている。 赤ゆのまりさも、いつもは直接にたれ流すのではなく、葉っぱに用を足していた。 その葉っぱを両親が回収し、トイレにすてるのだ。 だから赤ゆのまりさは直接にトイレにうんうんを放ったことはなかった。 だが構造は知っていた。 穴が開いていると知っている。 そこに入れば、れみりゃの放屁をやりすごせるだろう。 まりさはトイレに向かい、 「ゆぅっ!」 と、さけんで高台に乗った。 決死の自己保存本能が、赤ゆの運動性能をあげていた。 このときのまりさは、トイレの底がどうなっているかが想像できるほど知恵が発達し ていなかった。うんうんは、さながらブラックホールのように――むろん、そんな知識 などなかったが――どこへともなく消失するものと思っていた。 「ゆん!」 と、いきおいよく草の蓋をのけて、 「ゆんやっ!」 と、トイレの穴に身を投げた。 「おしょらっ!」 ぽちゃりと音がした。 直後。 「くちゃいぃぃぃぃぃぃぃぃぃっっっ! きちゃにゃいぃぃぃぃぃぃっっっ!」 縦穴から悲鳴がはっせられた。 まりさは混乱のきわみにあった。 れみりゃが絶対に手をだせないと思っていた安住の地には、鼻をねじ曲げるような熾 烈な臭気がみちみちていた。動けば動くほど、古餡子があんよにねっとりとからみつく。 それに暗い。いや暗いどころか一筋の光もない。また、狭かった。身動き一つできそう になかった。それでも、身をよじってなんとか天井をあおいだ。白い穴が開いていた。 その穴はたいへんに小さかった。 れみりゃはいぶかしがっていた。 放屁でいぶりだせるかと思ったが、どれだけたっても赤ゆは出てこない。 巣穴をのぞいてみても、どこにも赤ゆの姿はなかった。 「うー。あきらめるんだどー」 成体れいむの残骸をむさぼっていた翼のれみりゃとともにきびすを返し、群れにもどっ ていった。 日のたかいうちに、いなごの大群は次なるゆっくりプレイスを探しに旅立った。 夜が来た。 春の涼気が野山をひたし、おぼろな月が空に泳ぐ。 とてもとてもゆっくりできる夜が来た。 だが、たった一匹だけ、ゆっくりできないゆっくりがいた。 奈落の底に落ちたゆっくりが、汚物にまみれて泣いていた。 「たしゅけちぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっっ! ぴゃぴゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ! みゃみゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ! れいみゅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっっ! たしゅけちぇにぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっ! ゆ……ゆ……ゅ……ゆんやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ! どぼじでぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっっ! だずげで ぐれないのぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっ! ば……。 ば……。 ばりざは……。 ばりざは ここに いりゅよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっっ!!!」 月が大地に溶けこむまで、慟哭はつづいた。 泣き声は日を追うごとに小さくなっていき、数日後には永遠に聞こえなくなった。 (おわり)
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山桜がたおやかな春風にふかれて揺れている。樹冠の落とす木漏れ日もまたおなじ。空 の青さは指をかざせば染まってしまいそうなほどだ。蝶は舞い、花は咲き、梢にとまる小 鳥たちは盛んにさえずり愛を謳っている。 野山はさんざめいていた。 ついに、ゆっくりが待ち望んでやまない季節がやってきたのだ。 この季節、ありとあらゆるゆっくりが巣穴を飛びだして春をむさぼる。 そのため。 とあるゆっくりプレイスでは、惨劇が発生していた。 「うー。……うまいんだどー!」 「ゅ……ゆ……ゆっ」 「うー、うー。あまあまなんだどー」 「はなちぇー! はなちぇー!」 「むーしゃむーしゃするんだどー」 「やべでね! れいむに いたいこと しないでね! ……ゆぶべぇぇっ!」 午睡を誘う麗らかな春の日に、れみりゃ種による饗宴がくりひろげられていた。 胴体の有無を問わず、十数体のれみしゃ種がゆっくりの踊り食いにふけっている。 すでに、コロニーは壊滅状態にあった。 百頭を越えていたゆっくりプレイスの構成員は、捕食種の襲撃から一時間もへたずして 壊滅状態に追いこまれ、顔面の造作をまるごと失ったれいむや、内部の餡子をすすられて のっぺりとした皮と化したまりさといった、酸鼻をきわめた宴の残骸がそこかしこに散乱 しているという、まったくもって惨憺たる光景が呈せられるようになった。 生存しているゆっくりもいないわけではない。だが、そのほとんどはすでにれみりゃの 手中にあるか、さもなくば瀕死のまま放置されていた。 そしていま、れみりゃの毒牙から逃げのびつづけていた最後の家族が、食物連鎖の一端 に連なろうとしていた。 「ぶぎゃぁぁぁぁぁぁぁっっっ! ぎょわいっ、ぎょばいぃぃぃぃっっっ!」 「あっぢいげぇぇぇぇえぇっ! あっぢいげぇぇぇっっっ!」 「ゆぴぃぃぃぃぃぃぃぃっ! ゆぴぃぃぃぃぃぃぃぃぃっっ!」 「ごっぢごな゛い゛でね゛ぇぇぇぇぇぇっっ!」 「ぷきゅぅぅぅぅぅぅっっ! ぷ、ぷ、ぷ、ぷきゅぅぅぅぅぅぅっっ! ぶ……ぶぎゅぅぅぅぅぅっっ!」 胴付きれみりゃがうつ伏せになり、崖にうがたれた横穴に太った右手をつっこんでいる。 その穴からは、号泣と慟哭と怒声のいりまじった聞くに堪えない叫び声がだだ漏れになっ ていた。見てのとおり、れみりゃが「おうち」に逃げこんだゆっくりを引きずり出そうと しているのである。 「うー。とどかないんだどー」 しかし惜しくも奥にまで手がとどかなった。獲物は横穴の奥にぴったりと背中をつけて いて、かつ横穴にはかなりの距離があった。 いったん手を引っこめた。 それと同時に声をあげての泣きわめきはむせび泣きに転じた。 横穴の奥底では五頭のゆっくりがふるえている。 家族構成は成体のまりさとれいむ、それから赤ゆのまりさが一頭とれいむが二頭だった。 成体まりさの口がひらく。 「お、お、おぢびぢゃん、だ、だいじょ、だいじょうぶ、なん、なんだぜっ、 れみ、れみ、れみりゃ、おぢびぢゃん、おぢびっ、おぢびぢゃんば、 ば、ば、ば、ばりぢゃが、まも、まもるんだぜっ」 成体まりさの強がりなど、気休めにもならなかった。家族の恐怖は極限にたっしていた。 こんな状態でなぐさめの言葉を授けたところで、効果のほどはたかが知れている。 家族一同、おびえているどころではなかった。 だれもかれも、涙線は完全に崩壊している。しーしーもうんうんも垂れ流しだが、その 汚臭を気にするゆっくりは一頭もいない。五頭の足もとには、落涙ゆえか失禁ゆえか、あ るいはその両方ゆえか、砂糖水が溜まり池をつくっていた。成体まりさの血走った眼球は 前方にせりだし、いまにもこぼれおちそうだ。親子ともども、まりさ種は歯をかちかちと 噛みならし、れいむ種は下唇を痛いほどにかみしめている。そして全員、氷点下の青空に 放り出されてもこれほどでもあるまいと思えるほど激しくふるえている。 れみりゃの腕が再度侵入してきた。 「ゆぎぃぃやぁぁぁああぁぁぁっっ! ぐるな゛ぁぁぁぁぁああぁっっ!」 「ぎょばいぃぃぃぃぃっっっ! な゛んでぐるのぉぉぉぉぉぉぉっっ!」 「ま゛、ままままままままままままりじゃ、まりじゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃっ、 ぢゅよいっ、ぢゅぢゅぢゅぢゅぢゅぢゅぢゅよいんだじぇぇぇぷぎゃぁぁぁぁああぁぁっ!」 目と鼻のさきで捕食者の太った五指がわきわきと躍っているのだから、たまらない。 だが手は虚空をつかむばかり。 悪魔の触手が引っ込んだ。 泣き声がやむ。 さきほどから泣いてはやみ、やんでは泣くの繰りかえしだ。 「ゆ゛……ゅ゛……ゅ゛……ゅ゛……もう、ぐるんじゃ、ないん、だぜ、ぐるな、ぐるな、ぐるな、ぐるなぐるなぐるな……」 「ゅあ……ゅ゛……ゅ゛……ごないでね゛っ、ごないでね゛っ、ごないでね゛っ、ごないでね゛っ、ごないでね゛っ」 「ま、まりじゃ、まりじゃば、ぢゅよいんだじぇ、ぎ、ぎ、ぎ、ぎだら゛、ようじゃ、じな゛いんだ、じぇっ」 「ごべんなざい゛ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっっ! ごにゃいでぇぇぇぇぇっ! ごないでにぇぇぇぇぇっっ」 うねうねと、手がやってくる。 家族の声がそろった。 『ぎだぁぁぁぁあぁぁあぁぁぁあぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっ!』 だが何度やっても結果はおなじだった。 獲得するのは悲鳴ばかりで、かんじんかなめのあまあまは巣穴の奥底で無傷だった。 あと数センチばかりれみりゃの腕が長かったら、いまごろ家族は仲良くれみりゃの胃液 を泳いでいることだろう。現在の状況が永続するならば、いずれれみりゃも諦めてくれる かもしれない。 だが、眼前で死が躍っている状況で安堵できるほど、ゆっくりは豪胆ではなかった。 かれらは見知らぬものには無意味なほどに横暴になれるが、一度経験した危険に対して は病的なほど臆病になる。そして、れみりゃ種をふくむ捕食種への恐怖は、餡子脳の根底 に深々と刻みこまれている。知らないどころではなかった。 恐怖が臨界点を突破したのか、家族は目も当てられない愛憎劇を演じつつあった。 「いぐっ……ぃぐっ……ぎょばいよぉぉ、ぎょば……ぎょばいよぉぉぉぉおおおぉぉっっ! おどぉぉぉぉじゃぁぁぁぁぁんっ! だずげでよぉぉぉぉぉぉぉぉっっ!」 赤ゆのれいむの無我夢中の哀哭に接し、成体れいむの目に殺気のような希望がやどった。 「ぞ……ぞうだっ! ば、ばりざ! れみりゃをやっづげでねっ! いぐっ、 ゆっぐりじでないで れみりゃを やっづげでね! ざっざどじでねぇぇぇっ!」 成体まりさはツガイの命令に反抗した。 どれだけ理性を働かせて回答したかは分かったものではない。 「い……いや゛なんだぜ! ごろざれるん゛だぜ! でいぶが いぐんだぜぇぇ!」 いちおう、ゆっくりにも母性や父性がある。家族愛もあるし、保護欲もある。 が、薄っぺらな家族愛など圧倒的恐怖によって引っぺがされていた。いまやゆっくりを 支配しているのは、理性のすぐ下にうずくまっていた防衛本能だけだった。 「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!? な゛に いっでるのぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっ!? でいぶば がわ゛いーんだよぉぉぉぉ! ばりざが じんでねぇぇぇぇええぇっっ! がぞぐを、がぞぐを まもるんでじょぉぉぉぉぉぉぉっっ!」 「でいぶ なんだぜぇぇぇぇぇ! でいぶが じねぇぇぇぇえぇぇっっ!」 もはや夫婦喧嘩という水準にはなかった。敵意をむきだしにして、お前が死ねいいやお 前が死ぬべきだとやりあっている。家族をまもるはずの両親が見るにたえない悲喜劇をは じめてしまったから、赤ゆたちは困惑をきわめた。 「ゆぴゃぁぁぁぁああぁぁぁっっ! げんがじないでねぇぇぇぇええぇぇっっっ!」 「うるざいよぉぉぉぉぉぉっっ! げずの おぢびぢゃんば だまっででねぇぇぇぇぇ!」 「ぎゃばいぐっでごめん゛ね゛ぇぇぇぇぇぇぇ! ぎゃばいぐっでごめん゛ね゛ぇぇぇぇぇぇぇ!」 「ずーばーじーじーだいぶぅぅぅぅぅっ! ずーばーじーじーだいぶぅぅぅぅぅっっ!」 侃々諤々の議論の結果、つぎにやってきたれみりゃの腕を、まりさが迎え撃つことにな った。家長の役目を思い出したというよりも、押し切られただけであった。家族一同、ま りさの迎撃を固唾をのんで見守る。 はたして、触手のような腕がやってきた。 まりさは白蛇のような五本指に対して、 「ぷ……ぷ……ぷきゅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!」 威嚇した。 突撃するわけでも噛みつくわけでもない。あんよは一ミリたりとも前進していない。 ゆっくりの代表的威嚇行動である「ぷくー」を展開するばかりだった。 あまりにも情けない敗北主義をまのあたりにして、れいむは激昂した。 「まじめに゛やっでねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっ!」 首を絞められたように目をみひらき、ツガイのまりさを蹴りとばした。 まりさは回転しながら前方につんのめった。 起きあがったとき、横穴の入口に背を向けたかっこうになっていた。 後頭部に衝撃がはしり、総毛だった。 捕食者に後ろ髪をつかまれたのだ。 すかさずまりさは「ゆん」と叫び、あんよに力をこめた。 「ゆ゛ゆ゛ゆ゛ゆ゛ゆ゛ゆ゛ぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!」 火事場の馬鹿力というやつか。通常のゆっくりが胴つきれみりゃの膂力にかなうはずが ない。ないのだが、たしかにその場に踏ん張っている。それでも、種族のちがいに根差し た腕力の差は埋めがたく、すこしずつ外へとひっぱられてゆく。 「だ……だずげでぇぇぇぇ! でいぶぅぅぅぅぅぅぅ! おぢびぢゃぁぁぁぁぁぁんっ!」 まりさは死にものぐるいで助けをもとめた。しかし家族は立ちすくむばかりで動こうと さえしない。それどころか、ツガイのれいむは勝ち誇ったようなうすら笑いをたたえるの だった。赤ゆたちのほうがはるかに心配そうな目をしている。 「で……でいぶぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ! どぼじで わらっでるんだぜぇぇぇぇぇっ! だずげろぉぉぉぉぉぉぉっ!」 「ふんっ! ぷくーなんかで ごまかそとした げすへの『てんっばつっ』だね! ゆっくり りかいしてねぇぇ!」 一向に家族をまもろうとせず、あまつさえ自分の身代わりになれと吼えちらかし、よう やく父親の役割を再認識したかとおもったら、ぷくーなどで誤魔化そうとするまりさなど、 もはやツガイではなかった。かくしてれいむはツガイに三下り半を突きつけるにいたった。 だが、生死のはざまに立たされているまりさにとっては、そんなことはどうでもよい。 「な゛にいってるんだぜぇぇぇぇぇぇ! だずげろっでいっでるんだぜぇぇぇぇぇぇぇっ!」 恫喝のような救援をもとめるまりさを見て、れいむの目は哀憫の色を浮かべた。 その色を発見し、まりさは胸をなでおろすとまでは行かなくても、希望をつないだ。 「へ。そこまでいうなら……たすけてあげるねぇ!」 ずるり。と、まりさがいま一歩後退を余儀なくされた。成体は歯を食いしばってその場 にとどまる。れいむは今まさに奈落に引きずり込まれようとしているかつてのつがいに歩 み寄った。 そして、くるっと一回転した。 「きゃわいくってごめんねぇぇー!」 ウィンクして、ポーズを決めた。 まりさは絶望した。 というより、意味が分からなかった。 ところが赤ゆたちの目はかがやいた。 それは、れいむが常日頃から行っている挨拶のようなものだった。 降ってわいた日常に、かれらは恐怖を忘却した。 「れいみゅもやりゅー!」 「れいみゅもやりゅー!」 「まりしゃもやりゅー!」 赤ゆたちがれいむの隣にならんだ。 れいむはもみあげの先端で赤ゆたちを撫でた。家族揃ってまりさと向きあう。 「おちびちゃん、いくよ~~! いっせーの……」 『きゃわいくっちぇ ぎょめんにぇー!』 母と娘が同時にポーズを決めた。 一寸の乱れもなかった。 「だずげでねぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっ! ばがやっでないで だずげでねぇぇぇぇぇぇっっ! ゆ゛ぎぎぎぎぎ……!」 「みゅみゅっ!? しぇっきゃきゅの『きゃわいくっちぇごみぇんにぇ』だよ!?」 「どーちて りきゃい できにゃいにょ? ばかにゃにょ? ちぬの?」 「おとーしゃんは ゆっきゅり できにゃいよ! ちんでね!」 まりさは唾を飛ばして助けを呼んだ。 が、赤ゆは総じて不満をあらわにしていた。 自分たちの「かわいくってごめんね」が、かつてないほど綺麗に決まったのに、どうし て意味不明な救援を求めるのだろうと、赤ゆたちは心底疑問だった。その回答は父の発狂 に求められた。父はおかしくなったのだ、と。狂気を孕んだゆっくりなどもはやゆっくり ではなく、ましてや親なんかではなく、そのために赤ゆは親を罵倒しても、てんとして恥 じなかった。 ところが、れいむがまりさの眼前に進み出て言うのである。 「わかったよ! これなら どう!?」 まりさの黒瞳に、打ち砕かれるべき希望が宿った。れいむはつがいにあんよを、正確に いえば肛門を向けた。ちなみにゆっくりは肛門を「あにゃる」と呼称する。そのあにゃる から、ムリッと、黒いものがせりだしてきた。 「すーぱー! うんうん! たいむ!」 「ゆ゛……!?」 まりさの驚愕の声を聞くと、心躍った。肛門に力をこめた。うんうんは弾道軌道をえが いて助けをもとめるまりさの口に着地した。 「すっきりー!」 れいむは恍惚とした。ひとかけらのうんうん。それが差し出された助けだった。 まりさの眼光に怒気が差した。 その一方で、赤ゆたちは歓声をあげた。 うんうんがゆっくりのおくちに! ありえない現象を目撃しておもしろがった。 「まりしゃもー!」 「れいみゅもー!」 「れいみゅもー!」 赤子とは、面白いものを真似したがるものだ。 たちまち、死に瀕するまりさの眼下に三匹の赤ゆがならんだ。そして、一様にあんよを 親まりさに向ける。掛声一銭。うんうんを射出してみせた。だが、腹部の力が弱かったた めか、口には入らず顎に命中したのだった。 『しゅっきりー!』 「おちびちゃんたち! おじょーずだよー! ぺーろぺーろしてあげるね!」 「くすぐっちゃい~」 「ゆゆ~。おきゃーしゃんの ぺーりょぺーりょは とっちぇも ゆっきゅり できりゅんだじぇ~」 ひとしきり赤ゆを舐めあげると、れいむはまりさに向きなおった。 そろそろまりさの死力も枯渇する。 むしろ、いまの今までれみりゃの膂力に抗いつづけていられたことが奇跡にもひとしか った。歯ぎしりをして悔しがるまりさに対し、れいむは愉快げに言った。 「げすまりさは れいむの うんうんを いっぱい むーしゃむーちゃしていいよ!」 『いーよー!』 赤ゆの合唱が追従した。 まりさの口の端から、うんうん混じりの黒い唾液がしたたりおちる。 「……ゅ……ゆ゛……ゅ゛……」 「んん~? どうしたの? さっさとむーしゃむーしゃしてね!」 『しちぇにぇ~』 赤ゆの甲高い声がひびきわたった、そのときだった。 「ごろじでやるぅぅぅぅっっ! ごろじでやるんだぜぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっ!」 「ゆゆぅぅぅぅっっ!?」 まりさは絶叫した。 成体一頭と赤ゆ三匹、殺意におされて後ずさった。 「ごろじでやるぅぅぅ! でいぶもっっ! ちびどももっっ! ごろじでやるんだぜぇぇぇぇぇっ!」 「ゆ゛……ゆ゛……」 「ぎょばいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ! ぎょばいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!」 「ごっぢ ごないでねぇぇぇぇぇっ! あっぢ いっでねぇぇぇぇぇぇぇっっ!」 「ゆぴぃぃぃぃぃぃぃっっ! ゅぴぃぃぃぃぃぃっ!」 あろうことか、まりさは前進を始めていた。 後頭部を引っ張るれみりゃの腕力にあらがって、ひきさがるどころか、鬼神の殺意を目 もとにたたえつつ、家族のもとへと這ってゆく。まりさは変身していた。怒声、罵声、脅 し文句を思いつくかぎりならべたて、屑どもに接近する。赤ゆたちはさきほどまでの歓喜 はどこへやら、いまは力のかぎり泣きわめいている。 れいむは震える歯を噛みしめて、力いっぱいさけんだ。 「ゆっくりしていってね!!!」 赤ゆがほがらかにこたえた。 『ゆっきゅりしちぇいっちぇにぇ~』 まりさも言った。すばらしい笑顔を浮かべたまま。 「ゆっくりしていってね!!!」 ゆっくりたるもの、ゆっくりしていってねと言われれば、ゆっくりしていってねと答え るほかない。死のふちに瀕していようが、隠密行動の最中だろうが、もし十秒以内にゆっ くりしていってねと叫ぶと森羅万象が滅ぶと認めていたとしても関係ない。 本能のようなものである。 そしてこの言葉を発するとき、ゆっくりは力が抜ける。 「ぎょぼぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ! ゆごぉぉぉぉぉぉぉっっ!」 まりさの姿が急速に小さくなったいく。一瞬のうちに横穴の外にまで引きずり出された。 れみりゃはやっと獲得した一匹目を堪能すべく、身を起こし、あぐらをかいて、これをむ さぼりはじめた。おそらをとんでいるみたいとか、やめるんだぜまりさはおいしくないん だぜとか、色々聞こえてきたが家族にとってはどうでもよいことだった。 れいむはほっと安堵の吐息をもらした。 巣穴の入り口に背をむけて、赤ゆたちに声をかけた。 「すっきりしたね! おちびちゃん!」 「したにぇー!」 「したんだじぇー!」 れいむが赤ゆたちの視界を遮っていなかったなら、もう少しましなことを言っていたか もしれない。巣穴の外では悲鳴まじりに黒い雨が降っていた。れみりゃは、またたくまに 一匹目のゆっくりを食らいつくしてしまっていた。だが、まだ満腹には及ばない。そこで 身をかがめて巣穴をうかがった。 そこにれいむ種の背中を発見した。 覗くものは、覗きこまれるものである。 赤ゆたちの視界のはしには、れみりゃの赤い瞳が見えていた。 「……ゆぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっっっ!」 赤ゆは悲鳴をあげて後ずさった。が、れいむは背中で何が起こっているのか分からない。 分かったのは、巣穴に差しこんでいた日の光が、突然にさえぎられて家が暗くなったこと だけだった。 「え? ……ゆごぉっ!」 れみりゃの手が伸びてきて、無防備な後ろ姿をわしづかみにした。 れいむは踏ん張った。こちらも馬鹿力だった。まりさが引きずり出されるときと、ほと んど同じ光景が現出した。ちがいといえば、死に淵に立たされているのがまりさではなく れいむだということと、助けを求める相手に成体ゆっくりが含まれていない、という二点 だけといえた。 いや、もうひとつ。 まりさの時とは違って、後ろ髪ではなく皮膚をつかまれていたために、皮膚が後ろに引 っ張られ、あわせて顔面の造作が左右にのび、鬼面ができあがった。 「ふごぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっ! おちびちゃんだぢぃぃぃぃぃっっ! だずげでねぇぇぇぇっっ!」 「ゆ゛ぇええええぇぇぇ゛ぇぇぇ゛っっ!」 「ゆっぎゅりでぎないぃぃぃぃぃぃぃぃぃっっっ!」 「ごっぢごないでねぇぇぇぇぇぇぇっっっ!」 「たずげでっでいっでんでぢょぉぉぉぉぉぉぉっっ! ざっざどじろぉぉぉぉぉぉっっ!」 必死の形相で叫んだかいがあり、赤ゆは母が危険に陥っていると悟ることができた。 そこで赤ゆたちは審議をはじめた。 「ゆぅ……? おきゃーしゃん。ゆっきゅり してないね~。どーちて?」 「ゆぅ……。どうちよ……」 「ゆっくちー、ゆっくちー。ゆっくち しゅりぇば いいよ!」 「おきゃーしゃんは たすけて って……ゆ~。どーゆーこちょ?」 「たしゅけりゅんだよ!」 「ゆぅ……ゆぅ! しょっか! たしゅけりゅよ!」 「おきゃーしゃんを たしゅけりゅよ!」 まったりとした審議中、れいむは叫びまくっている。 が、シングルタスク脳である餡子脳にとってはそれはほとんど他人事、あるいは雑音、 風の音のようなものにしかならず、右から左へと抜けていた。 ともかく結論は出た。 赤ゆたちはれいむの前に横一列にならんだ。 そして、 『きゃわいくってぎょめんにぇー!』 ポーズを決めた。 びしっと。 一糸乱れぬポーズだった。 「ゆがぁぁぁぁぁあああぁぁぁぁっっ! ごろずっっ! ごろじでやるぅぅぅぅぅぅぅっっっ!」 赤ゆにとっては予想外の展開だった。親まりさが引きずり出されそうになったとき、親 れいむはこれでまりさを助けようとしたのだ。このあとは「すーぱーうんうんたいむ」で 完璧だ、とさえ思っていた。 「どぼじでおごるにょぉぉぉぉぉっっ! れいみゅは『たすけ』だのにぃぃぃぃぃっっ!」 「『たすけ』たのに まりしゃを おこりゅ げしゅな おきゃーしゃんは ちねっ! ゆっくりちねっ!」 赤ゆのまりさが宣戦を布告した。 たちまち姉妹も同調し、死相を浮かべる親れいむに突撃した。 「ちんでねっ!」 「ちね、ちねっ!」 「ちねっ、ちねっ、げしゅは……ちねっ!」 ぽんぽんと、ぶつかっては跳ね返されてゆく。 れいむは殺意にかられた。 「ゆぐぅぅぅぅぅぅぅぅ……ごろずぅぅぅぅぅぅ……ゆべぇっっ!」 突然、れいむは解放された。 唐突の出来事に力の制御がきかず、つんのめり、赤ゆをはじきとばした。 「はぁ! はぁ! ……おぢびぢゃんだぢ……よぐも……よぐも……」 ゆるゆると起きあがる。そこに赤ゆの悲鳴がきこえてきた。 「ゆぅぅぅぅぅ! ゆっぐりでぎにゃい ゆっぐりが いりゅぅぅぅぅぅっっ!」 れいむの頭部から、ゆっくりれいむの象徴たる赤いお飾りが紛失していた。 胴付きれみりゃがもぎとってしまったのだ。そのころれみりゃは、お飾りを見て「うー?」 と首をひねり、ぽいと放り投げてしまっていた。 視点を巣穴にもどす。 「ん? ……ああ? ぁ……ぁ……お……、お、おがざりがぁぁああぁぁあああぁぁ!? ずべでの ゆっぐりの あこがれがぁぁぁぁああぁぁぁぁぁっ! でいぶの がわいい おがざりがぁぁぁぁぁああぁぁっっ!! ゆ゛っぐりの しほうがぁぁぁぁぁぁっっっ!!!」 れいむは発狂していた。あたりを見まわしてもお飾りはない。子供たちはいきなり出現 した見知らぬゆっくりに、わなないている。二頭いる赤ゆのれいむの一頭にいたっては、 モリモリッと、あにゃるから糞を流していた。 緊張のあまり腹部が弛緩してしまったのだろう。 「……おちびぢゃんだちの ぜいだねぇぇぇ……ん? ふぎょわぁぁぁああぁぁぁぁっっ!」 お飾りを失くした原因を、赤ゆに求めた。 が、直後、巣のなかが暗くなった。 れいむは入口に見て、そこに巣穴をのぞいている捕食種を発見した。 殺される! と思うや、母親が赤ゆのれいむのお飾りを口にはさんだ。 「……ゆゆ?」 「ゆんっ!」 うなりを上げて赤ゆが出入口に吸い込まれてゆく。 投げたのだ。 「おしょりゃとんでりゅみちゃいぃぃぃぃぃ……ゆごっ!」 放り出された赤ゆのれいむを、れみりゃは見事にキャッチした。悲鳴をあげるまもなく、 母の身代わりとなった赤ゆはひとのみに飲みこまれた。胃液に溶かされながら苦しみ悶え て死ぬしかないので、なかなかに辛い死に際であろう。母が子を殺した一部始終は、のこ りの二頭の赤ゆにしっかりと見られていた。 「いもーちょをかえちぇぇぇぇ!」 「かえちてね!? まりしゃのいもーちょかえちてね!」 懲りずにはじまる親子喧嘩。 「ふんっ。おまえらなんか、こうだよ!」 れいむは赤ゆからお飾りと帽子を略奪し、それを巣穴の入り口へと投げすてた。 「ゆゆぅぅぅぅぅ! まりしゃのおぼーちがぁぁぁ!」 「れいみゅのおきゃざりぎゃぁぁぁ!」 「ふん! れみりゃがくるよ!」 「ゆゆぅ!」 赤ゆはようやく、外に捕食種がいることを思い出した。 さすがに命は惜しかった。帽子と飾りを潤んだ目つきで見つめるしかなかった。 その後、もう一度れみりゃの手がもぐりこんできて、また去っていった。 回廊に堕ちていた帽子とお飾りは消えさっていた。 引き下がる腕に巻きこまれたのだ。 胴つきれみりゃは地団太を踏んだ。 成体まりさと赤ゆのれいむは食べられたが、あと三頭も残っている。悔しい。 道具を使う、という発想はなかった。 そこに翼を生やしたれみりゃ、胴なしのれみりゃがやってきた。 「なにやってるんだどー?」 「このなかにあまあまがあるんだどー。はいれるんだどー?」 「とっでぐるんだどー!」 家が暗くなった。 「……ゆ?」 家族は入口を見やった。 れみりゃの顔が浮かんでいた。 「ぶぎょぉぉぉぉぉぉぉ!」 「ゆごぉぉぉぉぉ!」 「ゆぴぃぃぃぃぃ!」 「うー、うー」 胴なしれみりゃが巣穴に侵入をこころみていた。 ところが。 「う~~~~~!」 巣穴の大きさは、成体ゆっくりが一列縦隊で入れるほどの隙間しかなかった。 そのため、翼をもっているれみりゃは、翼の付け根がひっかかって入れなかった。 「うう~~~~~~!」 うす暗がりに、れみりゃの声が充満した。一家は抱き合いながらさんざんに泣きあって いたが、やがて、れみりゃがその大きさのために入ってこれないことに気付くと、一転し て勝ち誇り、侮蔑の笑みさえたたえた。一家は入口へと跳ねていく。そして、おもいおも いに、れみりゃをからかいはじめた。 「は……は……こっぢごれないよ! ざまぁー! ざまぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!」 「うー、うー」 「きゃわいくっちぇぎょめんにぇぇぇぇ!」 「うー、うー、うー」 「ゆゆーん。まりしゃは とっちぇも ゆっきゅりしちぇいりゅんだじぇ~~」 「うー、うー。……う~~~~っ!」 「どうしてこっちこないの? ばかなの? しぬの? ほーらほーら、れいむはここにいるよー」 「うー。どくんだどー」 「あれ?」 胴付きれみりゃが業を煮やして、胴無しのれみりゃをどかした。 そして、巣穴の中をのぞく。 「うー?」 手近にいたゆっくりを捕らえた。成体れいむである。おそらとんでいるみたいと、場を わきまえぬ戯言を繰りだす。直後に目をみひらくと、息が吹きかかりそうな近距離にれみ りゃの顔があったので絶叫した。れみりゃは両手で果実を持ち、不細工きわまる泣き顔を じっくりと観察した。 なお、子は成体れいむが引きずり出されたあいだに、奥に逃げ去ってしまっていた。 「う~?」 「ぁ……あ……は、はなしてね! れいむをはなしてね!」 「うー?」 「……な、なかにおちびちゃんがいるよ! あっちのほうがおいしいよ! 「うー!」 「……そ、そうだよ! れいむは おいしくないよ! おちびちゃんは おいしーよ!」 「うー……」 「やめてね! ……れいむを、ゆぇぇ、た、たべない、でね! れいむば、ゆぐっ、じにだくない……」 「うー……」 「やじゃぁぁぁぁぁぁっっっ! でいぶ じにだくないよぉぉぉぉぉぉ! じにだくないぃぃぃぃぃぃっっ!」 「うー!」 れみりゃは、れいむの肛門に指をつっこんで餡子をほじくりだした。ついで、あんよを 握りつぶしてその穴から餡子をすすった。さらに右目をえぐりだして口にふくみ、こりこ りとした食感をたのしんだ。まだれいむには意識があった。成体ゆっくりの大味は、満腹 になりかけた胴付き舌には不満だった。放り投げた。ぐしゃりと潰れた音を立てて墜落し た。みあげた生命力だった。瀕死ではあったが死んではいなかった。だが、そこに胴無し のれみりゃが飛んできて、おこぼれにあずかる。 胴付きは赤ゆを楽しもうと巣穴をのぞく。 甲高い声がもれてくる。 「し……しりゃにゃい ゆっきゅりが いりゅんだじぇ!」 「しりゃにゃい ゆっきゅりが いりゅぅぅぅ!」 赤ゆのまりさとれいむは、おたがいに目をやって同時に悲鳴をあげていた。 お飾りと帽子が失われているから、おたがいだれだか分からない。 そして同時に、お互いを排除すべき異物と認識した。 先手をとったのまりさだった。 「ちね!」 「ゆん!?」 体当たりをかました。 赤ゆのれいむが転がった。 「ゆゆ~。おぼうちのないゆっきゅりは、ちね!」 「ゆゅ!?」 こんどはれいむが反撃した。 まりさは転がったがさしたる打撃にはなっていない。 はた目には、じゃれあっているようにしか見えないだろう。 「ちね!」 「ちね! ちね!」 しかし、当人たちは本気の殺し合いを演じているつもりである。 赤ゆが死闘をくりひろがている間、外では決定的な異変が起こっていた。 胴付きと胴無しが話しあっている。 「うー、うー!」 「うー? どうしたんだどー?」 「うーにあやまらせるんだどー」 「なんでなんだどー?」 「れみりゃをからかったんだどー。あやまらせるんだどー。あやまるなら あいつら ゆるしてやるんだどー。たべちゃいけないんだどー」 「どーしてなんだどー?」 「おなかいっぱいなんだどー。それと、れみりゃを ばかにした ゆっくりは ひさしぶりなんだどー。ゆーきに めんじるんだどー」 「わかったんだどー。うーも おなかいっぱい なんだどー」 胴付きれみりゃが、巣穴をのぞく。 姉妹の決闘はつづいていた。 「ちね! ちね!」 「うー。おちびちゃーん。でてくるんだどー」 「ちねっ! ちねっ!」 「おちびちゃーん。うーに あやまるんだどー」 「ちねぃっ!」 「あやまるんだどー」 「ちね! ちね!」 「あやまれば たちさるんだどー?」 「ちねぃ! ちねぃ!」 「うー。あやまらないんだどー。ばかなんだどー。……こーなったら、こーするんだどー」 れみりゃは巣穴に尻を密着させた。 ばふっ。 と、濁った音を立てて、黄ばんだ煙がれみりゃの肛門から発射された。 胴付きれみりゃの屁は、あらゆるゆっくりに死をあたえる。 指向性のついた毒けむりが巣に広がってゆく。 「ゆぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!」 殺し合いどころではなくなった。 殺到する黄色い煙をまえにして、まりさはれいむの背中に移動した。 「か、かくれりゅんだじぇー!」 「ゆゅっ!? は、はなちてね! れいみゅを はなちてね!」 「ゆゅ~~。れいみゅばりあー!」 まりさはれいむにしがみ付いて離さない。 髪の毛に顔をうずめて、煙をやり過ごそうとする。 れいむは、もがいた。 「はなちてね! きゃわいい れいみゅを はなちてね! しゃっしゃと はなしゃないと おこりゅよ!」 「は、はなちてね! ゆゆ! ゆっきゅりできにゃいよ!? ぷっぷーさんがくりゅよ! は、はなち、はなちてね……ふごっ!」 ついに赤ゆのれいむは毒ガスを吸い込んだ。 「ゆ゛……ゅ゛……ゅ……ゅぐ……あ……」 臭気はたちまちれいむの全身にめぐり、体内餡子を汚染していく。 赤ゆのれいむは震えだし、白目をむき、電気を帯びたようにはげしく痙攣し、肛門がひ らいてうんうんが搾りだされ、まむまむから汁がひらいて汁がちょろちょろと垂れながさ れ、うめき声とともに口からべろりと舌が垂れ、その多目的器官は病的なまでに黄色く変 じていた。 「ぃぃぃぃぃぃ……ぎぎぎぎぎぎ………ゆごっっっ!」 赤ゆが大きくふくらみ、爆発するように大量の餡子を嘔吐した。 その背中に隠れていたまりさは、楯がいきなり薄っぺらになって防禦機能を喪失してし まったため、戦慄した。 「ぶぎゃぁぁぁぁぁああああぁぁぁっ! な、なにやっでりゅんだじぇぇぇぇぇぇぇっっ! じゃ、じゃっじゃど もどに もどっでねぇぇぇぇぇぇぇぇっっっ! べーりょべーりょしであげりゅねぇぇぇぇぇぇぇっ! ぺーりょぺーりょ……ゆべぇぇぇぇっ!」 赤ゆの死骸にはたっぷりと毒ガスが沁みこんでいた。まずいどころか危険である。 ぷっと餡子を吐きだした。 そこに死刑宣告にもひとしい声がとどろいた。 「もっとするんだどー!」 ばふっ、ばふっ、ばふっ! 放屁の三連射だ。 濃厚な煙が、赤ゆを抱こうと突進する。 卒倒しそうになった。 「ゆぎぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっっっ! ゆぴぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっっっ!」 なにか身を隠すものはないかと、血相をうかべてあたりにさぐった。 あった。 「しょ、しょーだ! おといれしゃんに にげりゅんだじぇー!」 この家にはトイレがあった。 それもゆっくりにしてはかなり本格的なものだ。 巣の一隅に高台が築かれていて、そこに小さな縦穴が掘られている。 ちなみに、高台にトイレがあるのは、赤ゆの落下をふせぐ措置である。高台にあれば 赤ゆは登れず、登れるような運動能力を獲得したときにはゆっくりの大きさは穴の直径 をこえている。 赤ゆのまりさも、いつもは直接にたれ流すのではなく、葉っぱに用を足していた。 その葉っぱを両親が回収し、トイレにすてるのだ。 だから赤ゆのまりさは直接にトイレにうんうんを放ったことはなかった。 だが構造は知っていた。 穴が開いていると知っている。 そこに入れば、れみりゃの放屁をやりすごせるだろう。 まりさはトイレに向かい、 「ゆぅっ!」 と、さけんで高台に乗った。 決死の自己保存本能が、赤ゆの運動性能をあげていた。 このときのまりさは、トイレの底がどうなっているかが想像できるほど知恵が発達し ていなかった。うんうんは、さながらブラックホールのように――むろん、そんな知識 などなかったが――どこへともなく消失するものと思っていた。 「ゆん!」 と、いきおいよく草の蓋をのけて、 「ゆんやっ!」 と、トイレの穴に身を投げた。 「おしょらっ!」 ぽちゃりと音がした。 直後。 「くちゃいぃぃぃぃぃぃぃぃぃっっっ! きちゃにゃいぃぃぃぃぃぃっっっ!」 縦穴から悲鳴がはっせられた。 まりさは混乱のきわみにあった。 れみりゃが絶対に手をだせないと思っていた安住の地には、鼻をねじ曲げるような熾 烈な臭気がみちみちていた。動けば動くほど、古餡子があんよにねっとりとからみつく。 それに暗い。いや暗いどころか一筋の光もない。また、狭かった。身動き一つできそう になかった。それでも、身をよじってなんとか天井をあおいだ。白い穴が開いていた。 その穴はたいへんに小さかった。 れみりゃはいぶかしがっていた。 放屁でいぶりだせるかと思ったが、どれだけたっても赤ゆは出てこない。 巣穴をのぞいてみても、どこにも赤ゆの姿はなかった。 「うー。あきらめるんだどー」 成体れいむの残骸をむさぼっていた翼のれみりゃとともにきびすを返し、群れにもどっ ていった。 日のたかいうちに、いなごの大群は次なるゆっくりプレイスを探しに旅立った。 夜が来た。 春の涼気が野山をひたし、おぼろな月が空に泳ぐ。 とてもとてもゆっくりできる夜が来た。 だが、たった一匹だけ、ゆっくりできないゆっくりがいた。 奈落の底に落ちたゆっくりが、汚物にまみれて泣いていた。 「たしゅけちぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっっ! ぴゃぴゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ! みゃみゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ! れいみゅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっっ! たしゅけちぇにぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっ! ゆ……ゆ……ゅ……ゆんやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ! どぼじでぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっっ! だずげで ぐれないのぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっ! ば……。 ば……。 ばりざは……。 ばりざは ここに いりゅよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっっ!!!」 月が大地に溶けこむまで、慟哭はつづいた。 泣き声は日を追うごとに小さくなっていき、数日後には永遠に聞こえなくなった。
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親代わりにできそうなゆっくりを探すこと1時間・・・ 山奥ならともかく、町でゆっくりを見つけるのは難しい そこらの家に勝手に侵入しておうち宣言をしてはすでに潰されているからだ。 探しがてら、スーパーに立ち寄る。 〔おいしい冷凍ゆっくり特売〕 この広告が目に入った。 6個いり398円が105円。これは安い。 昨晩、食べ損ねたため今度こそはと購入する。 店の外に出ると、さきほどまでいくら探しても見つからなかったゆっくりとあっさりと遭遇した。 「ゆっゆっゆっ?ん♪おちびちゃんたちゆっくりしたごはんたべようね! でも、にんげんさんに見つかったらゆっくりできないからこっそりたべるんだよ!」 「「「ゆっくりりかいしたよ!」」」 成体のゆっくりれいむと、子れいむが3匹だ。 茂みの中から出てきたゆっくりは歩道を縦一列に整列してなめくじのようにずーりずーりと進んでいる。 車にひかれないための知恵だろうか。 直線に目的地を目指しているため、どこへ行こうとしているのかが一目でわかった。 このスーパーのゴミ置き場だ。 「そろーり!そろーり!」 大声で擬音を口にする親れいむ 子れいむ3匹もそれに続く 「「「そろ?り♪そろーり♪」」」 人間に見つからないように歩くのになんで”そろーりそろーり!”と大声で言うんだろう。 子れいむ達も、この親れいむが子供のときもそういった疑問をもった時期があった。 でも、自分の親がやってる事だし、それに皆で”そろーり♪そろーり♪”と歌うとまるで合唱のようでとてもゆっくりできる。 ゆっくり出来るということは正義だ。 「そろーり!そろーり!」 「「「そろ?り♪そろ?り♪」」」 この、なめくじの行列はゴミ置き場のゴミへと一直線に進んでいく。 きっと中に野菜やいろいろな食べ物が入っていることを知っているんだろう。 ゴミといっても家庭用と違い商売でやっているものを腐臭がするまでとっておくことはありえない。 まだまだ普通に食べられるような野菜くずがたくさんつまっているのだ。 このれいむ一家はそれをよく知っていた。 買い物籠が積んである傍のゴミ箱をみると、大根の葉が捨てられていた。 それを買い物袋に1房つめて、入り口を行列の直線上に置く。 親れいむは、買い物袋内の大根の葉しか見えていない。 後ろの子れいむ3匹は前を行く親れいむや姉妹の背中しか見えていない。 「そろーりそろーり!ゆっ、ゆっくりできそうな草さんがあるよ!」 ガサゴソッ 「「「そろ?り♪そろ?り♪」」」 ガサガサガサッ 4匹とも仲良く買い物袋に入ったところで、手提げをもってグイッと持ち上げる。 ガサッ! 「はい、野良れいむ4匹捕獲完了!」 「ゆゆっ、ガサッ!はゆっくりできないよ!」 「そろ?り♪そろ?っ!ゆっ、おそらをとんでるみたい!」 「ゆゆゆ!うごけないよ!」 「ゆえ?ん、おねえちゃんおもいよ?!」 親ゆっくりは自分達が捕獲されたことに気づいて、なんとか買い物袋から逃げ出そうと もみあげをピコピコしながらあがく。 しかし、子ゆっくりがジャマで上の様子すらわからない。 逃げられる心配がないのを確認し、そのまま家までお持ち帰り。 買った特売冷凍ゆっくりタコ焼きも忘れずに回収した。 家に帰ると赤ゆどもが泣いていた。 妹思いの長女1番れいむ 典型的なまりさ種の2番まりさ 食いしん坊の3番れいむ 泣き虫の4番れいむ 寝てばかりの5番まりさ 頭がかわいそうな6番まりさ それぞれの額には油性マジックで番号を振ってある。 2「ゆぇぇええ?ん!おと?しゃ?んかえっちぇきちぇ?!」 3「ゆ?ん・・・おにゃかすいちゃよぉ・・・」 4「おと?しゃん・・・ゆっく」 5「おと?しゃんとすーりすーりしにゃいとゆっくちねむれにゃいよ・・・」 6「ゆぅ?ん、ゆゆぅ?ん・・・」 1「みんな、ゆっくちなきやんじぇね!さびちいのはおねーちゃんもいっしょだよ!」 1番の長女れいむが姉妹を元気付けようとしているが、自分も目に涙をいっぱいに溜めている。 泣き虫の4番れいむに舌を延ばして「ぺーろぺーろ」 「おう、ゆっくりども今帰ったぞ!」 ダンボールからこちらが見えるところまで行って声をかけると ようやく俺が帰ってきたことに気がつく赤ゆども。 2「おとーしゃん!おとーしゃんがかえっちぇきちゃよ!」 3「ゆゆん!れいみゅもうわるいこちょいわにゃいからごはんたべさせちぇね!」 4「ゆわぁぁあ?ん、おとーしゃんがかえっちゃきちゃ!」 5「おとーしゃん、まりしゃとすりすりちてね!」 6「ゆゆ?!ゆゆ?ん!」 1「おと?しゃん!れいみゅゆっくちみんにゃのめんどうみてちゃよ!ほめちぇね!」 「そーか、そーか、お前らのためにお土産もってきたぞ。 そら!お前らのおかーさんにおねーさんだ!」 買い物袋から乱暴に野良れいむと子れいむを引っ張り出す。 ダンボールの中からも見えるようにテーブルの上に置いた。 「「「「「「おかーしゃん!?」」」」」」 ゆっくりは思い込みが強いと言うからな、そこらの野良れいむでも これが母親だと言われればあっさりと信じてくれるはずだ。 父親だと勘違いしてる俺の言うことだから尚更だろう。 テーブルの上の野良れいむもダンボールの中の赤ゆどもがよく見える。 「ゆ?なにこの汚いおちびちゃん」 赤ゆどもを見て、汚いと言い放ったのは親れいむだった。 それに子れいむ達がつづく。 「なんだかこの赤ちゃんたちゆっくりできないよ!」 「それにくさいね!おーくさいくさい!」 「えんがっちょ!えんがっちょ!」 普通、野良にとって飼いゆっくりは美ゆっくりであり羨望とすっきりの対象なはずだ。 ところが、加工場産の食用ゆっくりは何か特別なマイナスの要因があるようで、むしろ醜ゆっくりに見えるらしい。 こいつらに子守と教育係を任せようと思っていたがこの調子じゃ無理っぽいな。 そんな事を考えていたら、野良れいむ達が勝手にテーブルの上にあったリンゴとミカンをむさぼりはじめた。 「こんなところにリンゴさんがあるよ!むーしゃむーしゃ、しあわせ?♪」 「なにこのきいろいの!にがくてぜんぜんゆっくりできないよ!ゆっくりできないコロコロはゆっくりしんでね!」 「ここは、れいむたちのおうちだよ!ばかなおちびとじじいはゆっくりしないででていってね!」 「きたいないちびどもにしーしーかけてきれいきれいにしてあげるね!ゆっくりかんしゃしていいよ!」 リンゴの汁を撒き散らしながら食べかすがテーブル下のカーペットにまで飛び散ったり ミカンに体当たりをして、なかなか潰れないとわかるとそれをテーブル下に押し出して捨てた。 こちらを見る目はまるで下等生物を見るかのように見下していて、下あごを突き出して「ゆっへん!」と鼻息を立てている。 もう1匹は、テーブルからダンボール内の赤ゆめがけて小便をしようとしているが、カーペットのシミとなって届かない。 冷静に入ってきたドアを閉めてから、チャッカマンを取り出す。 「えー、こいつらがおかーさん、おねーさんというのは嘘です。 こいつらは悪い見本だからこれから懲らしめます! 悪いことをするとこういう目に合うよというのをゆっくり見ていってね!」 いきなり「汚い赤ちゃん」とか「くさい」と言われた赤ゆども 戸惑いながらも、おとーさんの言うことだから 左手で、ひょいっと子れいむの髪をつまんで持ち上げる。 赤ゆ目掛けてしーしーをしていた奴だ。 溜まっていた水分を排出して気持ちよさそうに「しゅっきりー♪」と言おうとした「しゅっ♪」の時に阻止。 「ゆっ、れいむゆっくりおそらをとんでるみたい!」 右手に持っているチャカマンからはポッと火が灯っている。 それに気づいたテーブルの上に残っている親れいむ。 「ゆっ!おちびちゃんになにするの! そのはこのきたいないビチグソとちがってれいむのかわいいこだよ! ゆっくりりかいしたらはなしてね!」 ぷくーっと膨らんでこちらを威嚇している。 チャッカマンのスイッチをカチカチと火をつけたり消したりして親れいむとダンボールの中の赤ゆどもに見せ付ける。 それからゆっくりと左手にもっている子れいむの底部に火を当てた。 「ゆぴゃぶぴゅぴぃぃぃいい!」 ビクッとテーブルの上からみかんを転がり落として遊んでいた子れいむと偉そうに「ゆっへん!」としていた子れいむも気づく。 親れいむは 「やめでねぇぇえええ!れいむのかわいいかわいいこどもをたずげでねぇええ!」と叫んでこちらへ体当たりをしようと ぴょこんぴょこんとテーブルの端で跳んでいる。 「かわいい子を助けないでいいのか?」 じっくりと、ゆっくりと子れいむの足を炙る。 子れいむを摘んでいる左指を焼けどしてはかなわないので直火ではない。 それでもゆっくりと子れいむの底部は黒く変色していき1分もしないうちに炭化し二度と動くことができない体になった。 その子れいむをポイッとテーブルの上に捨てる。 「れいぶのがわいぃこどもがあぁぁああ!」 「れいむのおねーちゃんがぁああ!」 「なんでこんなこどするのぉぉお!」 はいはい、順番だよ。 お次はみかんをテーブルから落とした子れいむ。 狭いテーブルの上では逃げ場もなく簡単に摘み上げる。 「やめてね!はなしてね! れいむはまずいコロコロをすててただけだよ!ゆっくりりかいしてね!ばかなの!しぬの!」 「れいぶのごどもをはなぜぇぇええ!」 またテーブルの端でぴょんぴょんっと跳ぶだけの親れいむ。 2匹目はちょっと慣れたので火をさっきより近づけてスルメ焼き。 「ぐぴょぷぽぉぴょぶぉぉぉおおおおお!」 小麦が焼ける香ばしい香りが部屋の中いっぱいに広がる。 それからテーブルへポイッ。 ゆっへんと威張っていたれいむも立て続けに姉妹の足が焼かれるのを見てすっかり逃げ腰になっていた。 「そろーりそろーり!れいむはにげるよ!」 もみあげをじったんばったんしながら大慌てで、されど跳ばずになめくじのようにずーりずーりと逃げる。 人間からは「そろーりそろーり」と逃げる、そうやって教わったからだ。 テーブル上の子れいむをチャッカマンの火で追い立てる。 「やめでぇねぇ!こっぢごないでね!あぢゅいぃぃいい!」 わざと追いつかないようにチリチリとお尻を焼きながら追い立てる。 そこへ親れいむが割って入った。 「れいぶのごどもを・・・あぢぃぃぃいいいい!」 「よーし、お前がチャッカマンの火に耐えれば子供は焼かれないぞ。」 木製のテーブルに焦げ跡が残ってしまわないようにちょっとチャッカマンの先端を浮かせて水平に親れいむに火をあてる。 鼻先がジュッと焦げて親れいむは叫びながら大粒の涙を流す。 「あじゃじゃじゅじゅぃいい!」 「そろーりそろーり♪ゆっ、どぼぢでじめんさんがもうにゃいのぉおおお!」 子れいむは遠くまで逃げようとするがそこはテーブルの上。 一番端までたどり着けば後は崖があるだけだ。 その間にも親れいむは火を当てられている。 「あびゃびゃびゃびゃびゅぅうううう?!こんじゃのぶりにぎまってるでぢょぉおおお!」 結局、10秒ももたないで転がって逃げた。 髪飾りのおリボンが焼けて原型を留めていない。 「なんだ、もうお仕舞か?じゃあ子供を焼いていいってことだよな自分からどいたんだから。 ほ?れほれ、あつ?い火が子れいむちゃんに近づいてくるぞぉ」 わざとゆっくりと子れいむに火を近づける。 「たずげでぇおがあじゃぁあ?ん!」 「にげでねぇええ!ぞごからとびおりでねえぇええ!」 ゆっくりにしては良いアドバイスだった。 子ゆっくりにしてみればテーブルの高さは崖の様に見えるが、重量も少ないため痛い思いはしても死にはしない。 火に焼かれるよりはよっぽどマシだ。 「ごわぐでむりだよぉぉおお!」 しかし、子れいむはそれでも跳べない。 自分の背の数倍もの高さがあるテーブルは人間からすればビルの3?4階相当。それは本能的に恐怖を与えるのに十分であった。 「にげないでいいのかぁ?ほ?れ火がそこまできたぞぉ?」 とうとうチャッカマンの火が子れいむのほほを焦がすところまできた。 「あじゅいぃぃい!たじゅげでおがあじゃぁああん!おどぉじゃぁあ?ん!」 「おちびじゃんはれいぶとまりざのごどもだよぉお!とべるがらがんばってねぇええ!」 かつて、このれいむ達には一家の大黒柱であるまりさがいた。 人間に捕まって子まりさもろとも殺されてしまったが、生きていたころはそのまりさが一家を支えていた。 ゆっくり的には素敵なまりさ。その雄姿を思い出す子れいむ。 「おどぉおおじゃぁあ?ん!れいぶはとぶからゆっぐじゆうぎをちょうだいねぇええ!」 跳んだ。 精一杯の高さを跳んだ子れいむ。 わざわざ落下のダメージが増すような跳躍だが、恐怖で動けない体を奮い立たせるためには仕方がなかったのだろう。 「ゆぴゃ!」 ゲシッと地面に叩きつけられる。 餡子を吐き出してはいるが絶命には至らない。 「おちびちゃんやったよ!ばかなにんげんからにげのびたよ!ゆっへん、さすがれいむとまりさのこどもだよ!」 親れいむは、こちらを睨んで”ざまぁみろ”と言いたげな表情でふんぞり返った。 「やったよ・・・れいむはいたいけどとんでにげられたよ・・・ゆっ?」 地面に落ちた子れいむをヒョイッと掴みあげる。 「はいはい、ごくろうさん♪」 それからチャッカマンでチリチリチリ・・・。 「ゆぴゅぴゅぴゅぷぃぃいい!あじゅぃぃいい!なんじぇええええぇええ!れいぶとんじゃのぉにぃいい!」 他の姉妹よりも念入りに焼いて産道のあたりまで真っ黒こげ。 「れいぶのおちびじゃんがぁああああ!」 さっきまでふんぞり返っていた親れいむも両のおめめを見開いて大口を開けて固まっている。 足が焼かれて動けない子れいむ3匹を鼻先と髪飾りを焦がされた親れいむに返してやりお仕置きが終了した。 命まで取らないのは俺が愛でお兄さんだからさ! 乱暴に4匹の髪をひっつかんで庭先に捨てる。 「ゆべっ!」 「ゆぴっ!」「ゆぴゅ!」「ゆぎゅ!」 人間がまたげる程度の低いコンクリートブロックの塀も足が焼かれた子ゆっくりは越えることができない。 それが道路と庭とを遮っているので、もうどこへも行くことができないだろう。 親ゆっくりがこいつらを見捨てなければ、この庭の草でも食って雨が降るまでは生きられるかもね。ゆっくりゆっくり。 「おがあぁああちゃ?んれいぶのあんよがいちゃいよぉぉお!」 「ぴぎゃあぁあ!すーりすりしないでねえぇ!いちゃいよぉおお!」 「なんじぇれいむがこんなめにぃぃい!」 「おちびちゃんたちごめんね!ごめんね!ゆっぐりぢていっでね!」 動けない子れいむに寄り添う親れいむ。 ゆっくりしていってね! さて、赤ゆどもがやけにおとなしいけど このちょっぴり刺激の強い教育番組をちゃんと見ていてくれたかな。 悪いことをしたらゆっくりできなくなる。忘れっぽいゆっくりもトラウマとして餡子に刻まれれば効果はあるはずだ。 1「・・・ギュププププ」 2「・・・ゅうゅぅう」 3「・・・ぴゅぷぷぷぷ」 4「・・・ぴぃ・・・ぷぴぃぴぃ」 5「・・・zzz・・・zzz」 6「・・・ゆぅぅぅう」 残らず泡を吹いて気絶していた。 ちょっと薬が効きすぎたか。 しばらく、そっとしておいてやろう。 だけど5番まりさだけは帽子をとってダンボールの上のところへ乗せておいた。 目が覚めたら「まりしゃのおぼうしさんおりてきてねぇぇええ!」とか始まるだろう。 さて、一息ついて さっき買った特売の冷凍ゆっくりタコ焼きを取り出す。 昨日は食べそびれたから、こいつらが寝てる間に食べる。 ふんふんふん?♪っと鼻歌を歌いながら パッケージを開けると、中から6個のれいむとまりさの赤ゆっくりが出てくるはずが 頭が半分食べられている赤れいむと赤まりさが5匹と1匹の少しサイズの大きな別種のゆっくりが凍っている。 緑色に尻尾が2本。 「わかるよー」が口癖のゆっくりちぇんだ。 これから食べようと思っていたまりさとれいむがもう食べられてるじゃないか。 まさか、この子ちぇんがやったのか? この冷凍ゆっくりタコ焼き買ったときは値段ばかり見て気づかなかったがパッケージも微妙におかしいぞ。 普通のゆっくりタコ焼きはれいむとまりさの笑顔で「おいしいよ!」なんて絵が描かれているが このパッケージのれいむはふんぞりかえっていて「ゆっへん!ゆっくりタコ焼き!」なんて絵柄になっている。 おそるおそる裏面をみると、原産国がめーりんになっていた。 とりあえず、凍ってるちぇんをオーブンで加熱して起こしてみよう。 待つこと数分・・・。 チーン! 「わかるよー!・・・あじゅぃぃいいい!わからないよぉぉおお!」 オーブンの蓋を開けてちぇんを取り出す。 ・・・つづく。 過去の作品 ゆっくりいじめ系1222 ゆっくり繁殖させるよ! ゆっくりいじめ系1254 赤ちゃんを育てさせる ゆっくりいじめ系1261 水上まりさのゆでだこ風味 ゆっくりいじめ系1297 ゆっくり贅沢三昧・前編 ゆっくりいじめ系1466 ゆっくり贅沢三昧・後編 ゆっくりいじめ系1467 まりさの皮を被ったアリス ゆっくりいじめ系1468 肥料用まりさの一生 ゆっくりいじめ小ネタ222 ゆっくっきんぐ ドナーツ編 ゆっくりいじめ系1532 可愛そうな赤ちゃんにゆっくり恵んでね ゆっくりいじめ系1580 ゆっくりしなかった魔理沙と愛のないアリス ゆっくりいじめ系1673 ゆっくりクアリウム ゆっくりいじめ系1715 ゆっくりトイレ ゆっくりいじめ系1735 ゆっくりれいむと白いお部屋 ゆっくりいじめ系1743 プラチナまりさとフリーすっきり権 ゆっくりいじめ系1761 ちょっとしたイタズラ ゆっくりいじめ系1905 あったかいゆっくり ゆっくりいじめ系1935 しゃべらないゆっくり ゆっくりいじめ系1940 愛されまりさの一日 作者:まりさ大好きあき
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親代わりにできそうなゆっくりを探すこと1時間・・・ 山奥ならともかく、町でゆっくりを見つけるのは難しい そこらの家に勝手に侵入しておうち宣言をしてはすでに潰されているからだ。 探しがてら、スーパーに立ち寄る。 〔おいしい冷凍ゆっくり特売〕 この広告が目に入った。 6個いり398円が105円。これは安い。 昨晩、食べ損ねたため今度こそはと購入する。 店の外に出ると、さきほどまでいくら探しても見つからなかったゆっくりとあっさりと遭遇した。 「ゆっゆっゆっ〜ん♪おちびちゃんたちゆっくりしたごはんたべようね! でも、にんげんさんに見つかったらゆっくりできないからこっそりたべるんだよ!」 「「「ゆっくりりかいしたよ!」」」 成体のゆっくりれいむと、子れいむが3匹だ。 茂みの中から出てきたゆっくりは歩道を縦一列に整列してなめくじのようにずーりずーりと進んでいる。 車にひかれないための知恵だろうか。 直線に目的地を目指しているため、どこへ行こうとしているのかが一目でわかった。 このスーパーのゴミ置き場だ。 「そろーり!そろーり!」 大声で擬音を口にする親れいむ 子れいむ3匹もそれに続く 「「「そろ〜り♪そろーり♪」」」 人間に見つからないように歩くのになんで”そろーりそろーり!”と大声で言うんだろう。 子れいむ達も、この親れいむが子供のときもそういった疑問をもった時期があった。 でも、自分の親がやってる事だし、それに皆で”そろーり♪そろーり♪”と歌うとまるで合唱のようでとてもゆっくりできる。 ゆっくり出来るということは正義だ。 「そろーり!そろーり!」 「「「そろ〜り♪そろ〜り♪」」」 この、なめくじの行列はゴミ置き場のゴミへと一直線に進んでいく。 きっと中に野菜やいろいろな食べ物が入っていることを知っているんだろう。 ゴミといっても家庭用と違い商売でやっているものを腐臭がするまでとっておくことはありえない。 まだまだ普通に食べられるような野菜くずがたくさんつまっているのだ。 このれいむ一家はそれをよく知っていた。 買い物籠が積んである傍のゴミ箱をみると、大根の葉が捨てられていた。 それを買い物袋に1房つめて、入り口を行列の直線上に置く。 親れいむは、買い物袋内の大根の葉しか見えていない。 後ろの子れいむ3匹は前を行く親れいむや姉妹の背中しか見えていない。 「そろーりそろーり!ゆっ、ゆっくりできそうな草さんがあるよ!」 ガサゴソッ 「「「そろ〜り♪そろ〜り♪」」」 ガサガサガサッ 4匹とも仲良く買い物袋に入ったところで、手提げをもってグイッと持ち上げる。 ガサッ! 「はい、野良れいむ4匹捕獲完了!」 「ゆゆっ、ガサッ!はゆっくりできないよ!」 「そろ〜り♪そろ〜っ!ゆっ、おそらをとんでるみたい!」 「ゆゆゆ!うごけないよ!」 「ゆえ〜ん、おねえちゃんおもいよ〜!」 親ゆっくりは自分達が捕獲されたことに気づいて、なんとか買い物袋から逃げ出そうと もみあげをピコピコしながらあがく。 しかし、子ゆっくりがジャマで上の様子すらわからない。 逃げられる心配がないのを確認し、そのまま家までお持ち帰り。 買った特売冷凍ゆっくりタコ焼きも忘れずに回収した。 家に帰ると赤ゆどもが泣いていた。 妹思いの長女1番れいむ 典型的なまりさ種の2番まりさ 食いしん坊の3番れいむ 泣き虫の4番れいむ 寝てばかりの5番まりさ 頭がかわいそうな6番まりさ それぞれの額には油性マジックで番号を振ってある。 2「ゆぇぇええ〜ん!おと〜しゃ〜んかえっちぇきちぇ〜!」 3「ゆ〜ん・・・おにゃかすいちゃよぉ・・・」 4「おと〜しゃん・・・ゆっく」 5「おと〜しゃんとすーりすーりしにゃいとゆっくちねむれにゃいよ・・・」 6「ゆぅ〜ん、ゆゆぅ〜ん・・・」 1「みんな、ゆっくちなきやんじぇね!さびちいのはおねーちゃんもいっしょだよ!」 1番の長女れいむが姉妹を元気付けようとしているが、自分も目に涙をいっぱいに溜めている。 泣き虫の4番れいむに舌を延ばして「ぺーろぺーろ」 「おう、ゆっくりども今帰ったぞ!」 ダンボールからこちらが見えるところまで行って声をかけると ようやく俺が帰ってきたことに気がつく赤ゆども。 2「おとーしゃん!おとーしゃんがかえっちぇきちゃよ!」 3「ゆゆん!れいみゅもうわるいこちょいわにゃいからごはんたべさせちぇね!」 4「ゆわぁぁあ〜ん、おとーしゃんがかえっちゃきちゃ!」 5「おとーしゃん、まりしゃとすりすりちてね!」 6「ゆゆ〜!ゆゆ〜ん!」 1「おと〜しゃん!れいみゅゆっくちみんにゃのめんどうみてちゃよ!ほめちぇね!」 「そーか、そーか、お前らのためにお土産もってきたぞ。 そら!お前らのおかーさんにおねーさんだ!」 買い物袋から乱暴に野良れいむと子れいむを引っ張り出す。 ダンボールの中からも見えるようにテーブルの上に置いた。 「「「「「「おかーしゃん!?」」」」」」 ゆっくりは思い込みが強いと言うからな、そこらの野良れいむでも これが母親だと言われればあっさりと信じてくれるはずだ。 父親だと勘違いしてる俺の言うことだから尚更だろう。 テーブルの上の野良れいむもダンボールの中の赤ゆどもがよく見える。 「ゆ?なにこの汚いおちびちゃん」 赤ゆどもを見て、汚いと言い放ったのは親れいむだった。 それに子れいむ達がつづく。 「なんだかこの赤ちゃんたちゆっくりできないよ!」 「それにくさいね!おーくさいくさい!」 「えんがっちょ!えんがっちょ!」 普通、野良にとって飼いゆっくりは美ゆっくりであり羨望とすっきりの対象なはずだ。 ところが、加工場産の食用ゆっくりは何か特別なマイナスの要因があるようで、むしろ醜ゆっくりに見えるらしい。 こいつらに子守と教育係を任せようと思っていたがこの調子じゃ無理っぽいな。 そんな事を考えていたら、野良れいむ達が勝手にテーブルの上にあったリンゴとミカンをむさぼりはじめた。 「こんなところにリンゴさんがあるよ!むーしゃむーしゃ、しあわせ〜♪」 「なにこのきいろいの!にがくてぜんぜんゆっくりできないよ!ゆっくりできないコロコロはゆっくりしんでね!」 「ここは、れいむたちのおうちだよ!ばかなおちびとじじいはゆっくりしないででていってね!」 「きたいないちびどもにしーしーかけてきれいきれいにしてあげるね!ゆっくりかんしゃしていいよ!」 リンゴの汁を撒き散らしながら食べかすがテーブル下のカーペットにまで飛び散ったり ミカンに体当たりをして、なかなか潰れないとわかるとそれをテーブル下に押し出して捨てた。 こちらを見る目はまるで下等生物を見るかのように見下していて、下あごを突き出して「ゆっへん!」と鼻息を立てている。 もう1匹は、テーブルからダンボール内の赤ゆめがけて小便をしようとしているが、カーペットのシミとなって届かない。 冷静に入ってきたドアを閉めてから、チャッカマンを取り出す。 「えー、こいつらがおかーさん、おねーさんというのは嘘です。 こいつらは悪い見本だからこれから懲らしめます! 悪いことをするとこういう目に合うよというのをゆっくり見ていってね!」 いきなり「汚い赤ちゃん」とか「くさい」と言われた赤ゆども 戸惑いながらも、おとーさんの言うことだから 左手で、ひょいっと子れいむの髪をつまんで持ち上げる。 赤ゆ目掛けてしーしーをしていた奴だ。 溜まっていた水分を排出して気持ちよさそうに「しゅっきりー♪」と言おうとした「しゅっ♪」の時に阻止。 「ゆっ、れいむゆっくりおそらをとんでるみたい!」 右手に持っているチャカマンからはポッと火が灯っている。 それに気づいたテーブルの上に残っている親れいむ。 「ゆっ!おちびちゃんになにするの! そのはこのきたいないビチグソとちがってれいむのかわいいこだよ! ゆっくりりかいしたらはなしてね!」 ぷくーっと膨らんでこちらを威嚇している。 チャッカマンのスイッチをカチカチと火をつけたり消したりして親れいむとダンボールの中の赤ゆどもに見せ付ける。 それからゆっくりと左手にもっている子れいむの底部に火を当てた。 「ゆぴゃぶぴゅぴぃぃぃいい!」 ビクッとテーブルの上からみかんを転がり落として遊んでいた子れいむと偉そうに「ゆっへん!」としていた子れいむも気づく。 親れいむは 「やめでねぇぇえええ!れいむのかわいいかわいいこどもをたずげでねぇええ!」と叫んでこちらへ体当たりをしようと ぴょこんぴょこんとテーブルの端で跳んでいる。 「かわいい子を助けないでいいのか?」 じっくりと、ゆっくりと子れいむの足を炙る。 子れいむを摘んでいる左指を焼けどしてはかなわないので直火ではない。 それでもゆっくりと子れいむの底部は黒く変色していき1分もしないうちに炭化し二度と動くことができない体になった。 その子れいむをポイッとテーブルの上に捨てる。 「れいぶのがわいぃこどもがあぁぁああ!」 「れいむのおねーちゃんがぁああ!」 「なんでこんなこどするのぉぉお!」 はいはい、順番だよ。 お次はみかんをテーブルから落とした子れいむ。 狭いテーブルの上では逃げ場もなく簡単に摘み上げる。 「やめてね!はなしてね! れいむはまずいコロコロをすててただけだよ!ゆっくりりかいしてね!ばかなの!しぬの!」 「れいぶのごどもをはなぜぇぇええ!」 またテーブルの端でぴょんぴょんっと跳ぶだけの親れいむ。 2匹目はちょっと慣れたので火をさっきより近づけてスルメ焼き。 「ぐぴょぷぽぉぴょぶぉぉぉおおおおお!」 小麦が焼ける香ばしい香りが部屋の中いっぱいに広がる。 それからテーブルへポイッ。 ゆっへんと威張っていたれいむも立て続けに姉妹の足が焼かれるのを見てすっかり逃げ腰になっていた。 「そろーりそろーり!れいむはにげるよ!」 もみあげをじったんばったんしながら大慌てで、されど跳ばずになめくじのようにずーりずーりと逃げる。 人間からは「そろーりそろーり」と逃げる、そうやって教わったからだ。 テーブル上の子れいむをチャッカマンの火で追い立てる。 「やめでぇねぇ!こっぢごないでね!あぢゅいぃぃいい!」 わざと追いつかないようにチリチリとお尻を焼きながら追い立てる。 そこへ親れいむが割って入った。 「れいぶのごどもを・・・あぢぃぃぃいいいい!」 「よーし、お前がチャッカマンの火に耐えれば子供は焼かれないぞ。」 木製のテーブルに焦げ跡が残ってしまわないようにちょっとチャッカマンの先端を浮かせて水平に親れいむに火をあてる。 鼻先がジュッと焦げて親れいむは叫びながら大粒の涙を流す。 「あじゃじゃじゅじゅぃいい!」 「そろーりそろーり♪ゆっ、どぼぢでじめんさんがもうにゃいのぉおおお!」 子れいむは遠くまで逃げようとするがそこはテーブルの上。 一番端までたどり着けば後は崖があるだけだ。 その間にも親れいむは火を当てられている。 「あびゃびゃびゃびゃびゅぅうううう〜!こんじゃのぶりにぎまってるでぢょぉおおお!」 結局、10秒ももたないで転がって逃げた。 髪飾りのおリボンが焼けて原型を留めていない。 「なんだ、もうお仕舞か?じゃあ子供を焼いていいってことだよな自分からどいたんだから。 ほ〜れほれ、あつ〜い火が子れいむちゃんに近づいてくるぞぉ」 わざとゆっくりと子れいむに火を近づける。 「たずげでぇおがあじゃぁあ〜ん!」 「にげでねぇええ!ぞごからとびおりでねえぇええ!」 ゆっくりにしては良いアドバイスだった。 子ゆっくりにしてみればテーブルの高さは崖の様に見えるが、重量も少ないため痛い思いはしても死にはしない。 火に焼かれるよりはよっぽどマシだ。 「ごわぐでむりだよぉぉおお!」 しかし、子れいむはそれでも跳べない。 自分の背の数倍もの高さがあるテーブルは人間からすればビルの3〜4階相当。それは本能的に恐怖を与えるのに十分であった。 「にげないでいいのかぁ?ほ〜れ火がそこまできたぞぉ〜」 とうとうチャッカマンの火が子れいむのほほを焦がすところまできた。 「あじゅいぃぃい!たじゅげでおがあじゃぁああん!おどぉじゃぁあ〜ん!」 「おちびじゃんはれいぶとまりざのごどもだよぉお!とべるがらがんばってねぇええ!」 かつて、このれいむ達には一家の大黒柱であるまりさがいた。 人間に捕まって子まりさもろとも殺されてしまったが、生きていたころはそのまりさが一家を支えていた。 ゆっくり的には素敵なまりさ。その雄姿を思い出す子れいむ。 「おどぉおおじゃぁあ〜ん!れいぶはとぶからゆっぐじゆうぎをちょうだいねぇええ!」 跳んだ。 精一杯の高さを跳んだ子れいむ。 わざわざ落下のダメージが増すような跳躍だが、恐怖で動けない体を奮い立たせるためには仕方がなかったのだろう。 「ゆぴゃ!」 ゲシッと地面に叩きつけられる。 餡子を吐き出してはいるが絶命には至らない。 「おちびちゃんやったよ!ばかなにんげんからにげのびたよ!ゆっへん、さすがれいむとまりさのこどもだよ!」 親れいむは、こちらを睨んで”ざまぁみろ”と言いたげな表情でふんぞり返った。 「やったよ・・・れいむはいたいけどとんでにげられたよ・・・ゆっ?」 地面に落ちた子れいむをヒョイッと掴みあげる。 「はいはい、ごくろうさん♪」 それからチャッカマンでチリチリチリ・・・。 「ゆぴゅぴゅぴゅぷぃぃいい!あじゅぃぃいい!なんじぇええええぇええ!れいぶとんじゃのぉにぃいい!」 他の姉妹よりも念入りに焼いて産道のあたりまで真っ黒こげ。 「れいぶのおちびじゃんがぁああああ!」 さっきまでふんぞり返っていた親れいむも両のおめめを見開いて大口を開けて固まっている。 足が焼かれて動けない子れいむ3匹を鼻先と髪飾りを焦がされた親れいむに返してやりお仕置きが終了した。 命まで取らないのは俺が愛でお兄さんだからさ! 乱暴に4匹の髪をひっつかんで庭先に捨てる。 「ゆべっ!」 「ゆぴっ!」「ゆぴゅ!」「ゆぎゅ!」 人間がまたげる程度の低いコンクリートブロックの塀も足が焼かれた子ゆっくりは越えることができない。 それが道路と庭とを遮っているので、もうどこへも行くことができないだろう。 親ゆっくりがこいつらを見捨てなければ、この庭の草でも食って雨が降るまでは生きられるかもね。ゆっくりゆっくり。 「おがあぁああちゃ〜んれいぶのあんよがいちゃいよぉぉお!」 「ぴぎゃあぁあ!すーりすりしないでねえぇ!いちゃいよぉおお!」 「なんじぇれいむがこんなめにぃぃい!」 「おちびちゃんたちごめんね!ごめんね!ゆっぐりぢていっでね!」 動けない子れいむに寄り添う親れいむ。 ゆっくりしていってね! さて、赤ゆどもがやけにおとなしいけど このちょっぴり刺激の強い教育番組をちゃんと見ていてくれたかな。 悪いことをしたらゆっくりできなくなる。忘れっぽいゆっくりもトラウマとして餡子に刻まれれば効果はあるはずだ。 1「・・・ギュププププ」 2「・・・ゅうゅぅう」 3「・・・ぴゅぷぷぷぷ」 4「・・・ぴぃ・・・ぷぴぃぴぃ」 5「・・・zzz・・・zzz」 6「・・・ゆぅぅぅう」 残らず泡を吹いて気絶していた。 ちょっと薬が効きすぎたか。 しばらく、そっとしておいてやろう。 だけど5番まりさだけは帽子をとってダンボールの上のところへ乗せておいた。 目が覚めたら「まりしゃのおぼうしさんおりてきてねぇぇええ!」とか始まるだろう。 さて、一息ついて さっき買った特売の冷凍ゆっくりタコ焼きを取り出す。 昨日は食べそびれたから、こいつらが寝てる間に食べる。 ふんふんふん〜♪っと鼻歌を歌いながら パッケージを開けると、中から6個のれいむとまりさの赤ゆっくりが出てくるはずが 頭が半分食べられている赤れいむと赤まりさが5匹と1匹の少しサイズの大きな別種のゆっくりが凍っている。 緑色に尻尾が2本。 「わかるよー」が口癖のゆっくりちぇんだ。 これから食べようと思っていたまりさとれいむがもう食べられてるじゃないか。 まさか、この子ちぇんがやったのか? この冷凍ゆっくりタコ焼き買ったときは値段ばかり見て気づかなかったがパッケージも微妙におかしいぞ。 普通のゆっくりタコ焼きはれいむとまりさの笑顔で「おいしいよ!」なんて絵が描かれているが このパッケージのれいむはふんぞりかえっていて「ゆっへん!ゆっくりタコ焼き!」なんて絵柄になっている。 おそるおそる裏面をみると、原産国がめーりんになっていた。 とりあえず、凍ってるちぇんをオーブンで加熱して起こしてみよう。 待つこと数分・・・。 チーン! 「わかるよー!・・・あじゅぃぃいいい!わからないよぉぉおお!」 オーブンの蓋を開けてちぇんを取り出す。 ・・・つづく。 過去の作品 ゆっくりいじめ系1222 ゆっくり繁殖させるよ! ゆっくりいじめ系1254 赤ちゃんを育てさせる ゆっくりいじめ系1261 水上まりさのゆでだこ風味 ゆっくりいじめ系1297 ゆっくり贅沢三昧・前編 ゆっくりいじめ系1466 ゆっくり贅沢三昧・後編 ゆっくりいじめ系1467 まりさの皮を被ったアリス ゆっくりいじめ系1468 肥料用まりさの一生 ゆっくりいじめ小ネタ222 ゆっくっきんぐ ドナーツ編 ゆっくりいじめ系1532 可愛そうな赤ちゃんにゆっくり恵んでね ゆっくりいじめ系1580 ゆっくりしなかった魔理沙と愛のないアリス ゆっくりいじめ系1673 ゆっくりクアリウム ゆっくりいじめ系1715 ゆっくりトイレ ゆっくりいじめ系1735 ゆっくりれいむと白いお部屋 ゆっくりいじめ系1743 プラチナまりさとフリーすっきり権 ゆっくりいじめ系1761 ちょっとしたイタズラ ゆっくりいじめ系1905 あったかいゆっくり ゆっくりいじめ系1935 しゃべらないゆっくり ゆっくりいじめ系1940 愛されまりさの一日 作者:まりさ大好きあき
https://w.atwiki.jp/yukkuri_gyakutai/pages/3312.html
親代わりにできそうなゆっくりを探すこと1時間・・・ 山奥ならともかく、町でゆっくりを見つけるのは難しい そこらの家に勝手に侵入しておうち宣言をしてはすでに潰されているからだ。 探しがてら、スーパーに立ち寄る。 〔おいしい冷凍ゆっくり特売〕 この広告が目に入った。 6個いり398円が105円。これは安い。 昨晩、食べ損ねたため今度こそはと購入する。 店の外に出ると、さきほどまでいくら探しても見つからなかったゆっくりとあっさりと遭遇した。 「ゆっゆっゆっ〜ん♪おちびちゃんたちゆっくりしたごはんたべようね! でも、にんげんさんに見つかったらゆっくりできないからこっそりたべるんだよ!」 「「「ゆっくりりかいしたよ!」」」 成体のゆっくりれいむと、子れいむが3匹だ。 茂みの中から出てきたゆっくりは歩道を縦一列に整列してなめくじのようにずーりずーりと進んでいる。 車にひかれないための知恵だろうか。 直線に目的地を目指しているため、どこへ行こうとしているのかが一目でわかった。 このスーパーのゴミ置き場だ。 「そろーり!そろーり!」 大声で擬音を口にする親れいむ 子れいむ3匹もそれに続く 「「「そろ〜り♪そろーり♪」」」 人間に見つからないように歩くのになんで”そろーりそろーり!”と大声で言うんだろう。 子れいむ達も、この親れいむが子供のときもそういった疑問をもった時期があった。 でも、自分の親がやってる事だし、それに皆で”そろーり♪そろーり♪”と歌うとまるで合唱のようでとてもゆっくりできる。 ゆっくり出来るということは正義だ。 「そろーり!そろーり!」 「「「そろ〜り♪そろ〜り♪」」」 この、なめくじの行列はゴミ置き場のゴミへと一直線に進んでいく。 きっと中に野菜やいろいろな食べ物が入っていることを知っているんだろう。 ゴミといっても家庭用と違い商売でやっているものを腐臭がするまでとっておくことはありえない。 まだまだ普通に食べられるような野菜くずがたくさんつまっているのだ。 このれいむ一家はそれをよく知っていた。 買い物籠が積んである傍のゴミ箱をみると、大根の葉が捨てられていた。 それを買い物袋に1房つめて、入り口を行列の直線上に置く。 親れいむは、買い物袋内の大根の葉しか見えていない。 後ろの子れいむ3匹は前を行く親れいむや姉妹の背中しか見えていない。 「そろーりそろーり!ゆっ、ゆっくりできそうな草さんがあるよ!」 ガサゴソッ 「「「そろ〜り♪そろ〜り♪」」」 ガサガサガサッ 4匹とも仲良く買い物袋に入ったところで、手提げをもってグイッと持ち上げる。 ガサッ! 「はい、野良れいむ4匹捕獲完了!」 「ゆゆっ、ガサッ!はゆっくりできないよ!」 「そろ〜り♪そろ〜っ!ゆっ、おそらをとんでるみたい!」 「ゆゆゆ!うごけないよ!」 「ゆえ〜ん、おねえちゃんおもいよ〜!」 親ゆっくりは自分達が捕獲されたことに気づいて、なんとか買い物袋から逃げ出そうと もみあげをピコピコしながらあがく。 しかし、子ゆっくりがジャマで上の様子すらわからない。 逃げられる心配がないのを確認し、そのまま家までお持ち帰り。 買った特売冷凍ゆっくりタコ焼きも忘れずに回収した。 家に帰ると赤ゆどもが泣いていた。 妹思いの長女1番れいむ 典型的なまりさ種の2番まりさ 食いしん坊の3番れいむ 泣き虫の4番れいむ 寝てばかりの5番まりさ 頭がかわいそうな6番まりさ それぞれの額には油性マジックで番号を振ってある。 2「ゆぇぇええ〜ん!おと〜しゃ〜んかえっちぇきちぇ〜!」 3「ゆ〜ん・・・おにゃかすいちゃよぉ・・・」 4「おと〜しゃん・・・ゆっく」 5「おと〜しゃんとすーりすーりしにゃいとゆっくちねむれにゃいよ・・・」 6「ゆぅ〜ん、ゆゆぅ〜ん・・・」 1「みんな、ゆっくちなきやんじぇね!さびちいのはおねーちゃんもいっしょだよ!」 1番の長女れいむが姉妹を元気付けようとしているが、自分も目に涙をいっぱいに溜めている。 泣き虫の4番れいむに舌を延ばして「ぺーろぺーろ」 「おう、ゆっくりども今帰ったぞ!」 ダンボールからこちらが見えるところまで行って声をかけると ようやく俺が帰ってきたことに気がつく赤ゆども。 2「おとーしゃん!おとーしゃんがかえっちぇきちゃよ!」 3「ゆゆん!れいみゅもうわるいこちょいわにゃいからごはんたべさせちぇね!」 4「ゆわぁぁあ〜ん、おとーしゃんがかえっちゃきちゃ!」 5「おとーしゃん、まりしゃとすりすりちてね!」 6「ゆゆ〜!ゆゆ〜ん!」 1「おと〜しゃん!れいみゅゆっくちみんにゃのめんどうみてちゃよ!ほめちぇね!」 「そーか、そーか、お前らのためにお土産もってきたぞ。 そら!お前らのおかーさんにおねーさんだ!」 買い物袋から乱暴に野良れいむと子れいむを引っ張り出す。 ダンボールの中からも見えるようにテーブルの上に置いた。 「「「「「「おかーしゃん!?」」」」」」 ゆっくりは思い込みが強いと言うからな、そこらの野良れいむでも これが母親だと言われればあっさりと信じてくれるはずだ。 父親だと勘違いしてる俺の言うことだから尚更だろう。 テーブルの上の野良れいむもダンボールの中の赤ゆどもがよく見える。 「ゆ?なにこの汚いおちびちゃん」 赤ゆどもを見て、汚いと言い放ったのは親れいむだった。 それに子れいむ達がつづく。 「なんだかこの赤ちゃんたちゆっくりできないよ!」 「それにくさいね!おーくさいくさい!」 「えんがっちょ!えんがっちょ!」 普通、野良にとって飼いゆっくりは美ゆっくりであり羨望とすっきりの対象なはずだ。 ところが、加工場産の食用ゆっくりは何か特別なマイナスの要因があるようで、むしろ醜ゆっくりに見えるらしい。 こいつらに子守と教育係を任せようと思っていたがこの調子じゃ無理っぽいな。 そんな事を考えていたら、野良れいむ達が勝手にテーブルの上にあったリンゴとミカンをむさぼりはじめた。 「こんなところにリンゴさんがあるよ!むーしゃむーしゃ、しあわせ〜♪」 「なにこのきいろいの!にがくてぜんぜんゆっくりできないよ!ゆっくりできないコロコロはゆっくりしんでね!」 「ここは、れいむたちのおうちだよ!ばかなおちびとじじいはゆっくりしないででていってね!」 「きたいないちびどもにしーしーかけてきれいきれいにしてあげるね!ゆっくりかんしゃしていいよ!」 リンゴの汁を撒き散らしながら食べかすがテーブル下のカーペットにまで飛び散ったり ミカンに体当たりをして、なかなか潰れないとわかるとそれをテーブル下に押し出して捨てた。 こちらを見る目はまるで下等生物を見るかのように見下していて、下あごを突き出して「ゆっへん!」と鼻息を立てている。 もう1匹は、テーブルからダンボール内の赤ゆめがけて小便をしようとしているが、カーペットのシミとなって届かない。 冷静に入ってきたドアを閉めてから、チャッカマンを取り出す。 「えー、こいつらがおかーさん、おねーさんというのは嘘です。 こいつらは悪い見本だからこれから懲らしめます! 悪いことをするとこういう目に合うよというのをゆっくり見ていってね!」 いきなり「汚い赤ちゃん」とか「くさい」と言われた赤ゆども 戸惑いながらも、おとーさんの言うことだから 左手で、ひょいっと子れいむの髪をつまんで持ち上げる。 赤ゆ目掛けてしーしーをしていた奴だ。 溜まっていた水分を排出して気持ちよさそうに「しゅっきりー♪」と言おうとした「しゅっ♪」の時に阻止。 「ゆっ、れいむゆっくりおそらをとんでるみたい!」 右手に持っているチャカマンからはポッと火が灯っている。 それに気づいたテーブルの上に残っている親れいむ。 「ゆっ!おちびちゃんになにするの! そのはこのきたいないビチグソとちがってれいむのかわいいこだよ! ゆっくりりかいしたらはなしてね!」 ぷくーっと膨らんでこちらを威嚇している。 チャッカマンのスイッチをカチカチと火をつけたり消したりして親れいむとダンボールの中の赤ゆどもに見せ付ける。 それからゆっくりと左手にもっている子れいむの底部に火を当てた。 「ゆぴゃぶぴゅぴぃぃぃいい!」 ビクッとテーブルの上からみかんを転がり落として遊んでいた子れいむと偉そうに「ゆっへん!」としていた子れいむも気づく。 親れいむは 「やめでねぇぇえええ!れいむのかわいいかわいいこどもをたずげでねぇええ!」と叫んでこちらへ体当たりをしようと ぴょこんぴょこんとテーブルの端で跳んでいる。 「かわいい子を助けないでいいのか?」 じっくりと、ゆっくりと子れいむの足を炙る。 子れいむを摘んでいる左指を焼けどしてはかなわないので直火ではない。 それでもゆっくりと子れいむの底部は黒く変色していき1分もしないうちに炭化し二度と動くことができない体になった。 その子れいむをポイッとテーブルの上に捨てる。 「れいぶのがわいぃこどもがあぁぁああ!」 「れいむのおねーちゃんがぁああ!」 「なんでこんなこどするのぉぉお!」 はいはい、順番だよ。 お次はみかんをテーブルから落とした子れいむ。 狭いテーブルの上では逃げ場もなく簡単に摘み上げる。 「やめてね!はなしてね! れいむはまずいコロコロをすててただけだよ!ゆっくりりかいしてね!ばかなの!しぬの!」 「れいぶのごどもをはなぜぇぇええ!」 またテーブルの端でぴょんぴょんっと跳ぶだけの親れいむ。 2匹目はちょっと慣れたので火をさっきより近づけてスルメ焼き。 「ぐぴょぷぽぉぴょぶぉぉぉおおおおお!」 小麦が焼ける香ばしい香りが部屋の中いっぱいに広がる。 それからテーブルへポイッ。 ゆっへんと威張っていたれいむも立て続けに姉妹の足が焼かれるのを見てすっかり逃げ腰になっていた。 「そろーりそろーり!れいむはにげるよ!」 もみあげをじったんばったんしながら大慌てで、されど跳ばずになめくじのようにずーりずーりと逃げる。 人間からは「そろーりそろーり」と逃げる、そうやって教わったからだ。 テーブル上の子れいむをチャッカマンの火で追い立てる。 「やめでぇねぇ!こっぢごないでね!あぢゅいぃぃいい!」 わざと追いつかないようにチリチリとお尻を焼きながら追い立てる。 そこへ親れいむが割って入った。 「れいぶのごどもを・・・あぢぃぃぃいいいい!」 「よーし、お前がチャッカマンの火に耐えれば子供は焼かれないぞ。」 木製のテーブルに焦げ跡が残ってしまわないようにちょっとチャッカマンの先端を浮かせて水平に親れいむに火をあてる。 鼻先がジュッと焦げて親れいむは叫びながら大粒の涙を流す。 「あじゃじゃじゅじゅぃいい!」 「そろーりそろーり♪ゆっ、どぼぢでじめんさんがもうにゃいのぉおおお!」 子れいむは遠くまで逃げようとするがそこはテーブルの上。 一番端までたどり着けば後は崖があるだけだ。 その間にも親れいむは火を当てられている。 「あびゃびゃびゃびゃびゅぅうううう〜!こんじゃのぶりにぎまってるでぢょぉおおお!」 結局、10秒ももたないで転がって逃げた。 髪飾りのおリボンが焼けて原型を留めていない。 「なんだ、もうお仕舞か?じゃあ子供を焼いていいってことだよな自分からどいたんだから。 ほ〜れほれ、あつ〜い火が子れいむちゃんに近づいてくるぞぉ」 わざとゆっくりと子れいむに火を近づける。 「たずげでぇおがあじゃぁあ〜ん!」 「にげでねぇええ!ぞごからとびおりでねえぇええ!」 ゆっくりにしては良いアドバイスだった。 子ゆっくりにしてみればテーブルの高さは崖の様に見えるが、重量も少ないため痛い思いはしても死にはしない。 火に焼かれるよりはよっぽどマシだ。 「ごわぐでむりだよぉぉおお!」 しかし、子れいむはそれでも跳べない。 自分の背の数倍もの高さがあるテーブルは人間からすればビルの3〜4階相当。それは本能的に恐怖を与えるのに十分であった。 「にげないでいいのかぁ?ほ〜れ火がそこまできたぞぉ〜」 とうとうチャッカマンの火が子れいむのほほを焦がすところまできた。 「あじゅいぃぃい!たじゅげでおがあじゃぁああん!おどぉじゃぁあ〜ん!」 「おちびじゃんはれいぶとまりざのごどもだよぉお!とべるがらがんばってねぇええ!」 かつて、このれいむ達には一家の大黒柱であるまりさがいた。 人間に捕まって子まりさもろとも殺されてしまったが、生きていたころはそのまりさが一家を支えていた。 ゆっくり的には素敵なまりさ。その雄姿を思い出す子れいむ。 「おどぉおおじゃぁあ〜ん!れいぶはとぶからゆっぐじゆうぎをちょうだいねぇええ!」 跳んだ。 精一杯の高さを跳んだ子れいむ。 わざわざ落下のダメージが増すような跳躍だが、恐怖で動けない体を奮い立たせるためには仕方がなかったのだろう。 「ゆぴゃ!」 ゲシッと地面に叩きつけられる。 餡子を吐き出してはいるが絶命には至らない。 「おちびちゃんやったよ!ばかなにんげんからにげのびたよ!ゆっへん、さすがれいむとまりさのこどもだよ!」 親れいむは、こちらを睨んで”ざまぁみろ”と言いたげな表情でふんぞり返った。 「やったよ・・・れいむはいたいけどとんでにげられたよ・・・ゆっ?」 地面に落ちた子れいむをヒョイッと掴みあげる。 「はいはい、ごくろうさん♪」 それからチャッカマンでチリチリチリ・・・。 「ゆぴゅぴゅぴゅぷぃぃいい!あじゅぃぃいい!なんじぇええええぇええ!れいぶとんじゃのぉにぃいい!」 他の姉妹よりも念入りに焼いて産道のあたりまで真っ黒こげ。 「れいぶのおちびじゃんがぁああああ!」 さっきまでふんぞり返っていた親れいむも両のおめめを見開いて大口を開けて固まっている。 足が焼かれて動けない子れいむ3匹を鼻先と髪飾りを焦がされた親れいむに返してやりお仕置きが終了した。 命まで取らないのは俺が愛でお兄さんだからさ! 乱暴に4匹の髪をひっつかんで庭先に捨てる。 「ゆべっ!」 「ゆぴっ!」「ゆぴゅ!」「ゆぎゅ!」 人間がまたげる程度の低いコンクリートブロックの塀も足が焼かれた子ゆっくりは越えることができない。 それが道路と庭とを遮っているので、もうどこへも行くことができないだろう。 親ゆっくりがこいつらを見捨てなければ、この庭の草でも食って雨が降るまでは生きられるかもね。ゆっくりゆっくり。 「おがあぁああちゃ〜んれいぶのあんよがいちゃいよぉぉお!」 「ぴぎゃあぁあ!すーりすりしないでねえぇ!いちゃいよぉおお!」 「なんじぇれいむがこんなめにぃぃい!」 「おちびちゃんたちごめんね!ごめんね!ゆっぐりぢていっでね!」 動けない子れいむに寄り添う親れいむ。 ゆっくりしていってね! さて、赤ゆどもがやけにおとなしいけど このちょっぴり刺激の強い教育番組をちゃんと見ていてくれたかな。 悪いことをしたらゆっくりできなくなる。忘れっぽいゆっくりもトラウマとして餡子に刻まれれば効果はあるはずだ。 1「・・・ギュププププ」 2「・・・ゅうゅぅう」 3「・・・ぴゅぷぷぷぷ」 4「・・・ぴぃ・・・ぷぴぃぴぃ」 5「・・・zzz・・・zzz」 6「・・・ゆぅぅぅう」 残らず泡を吹いて気絶していた。 ちょっと薬が効きすぎたか。 しばらく、そっとしておいてやろう。 だけど5番まりさだけは帽子をとってダンボールの上のところへ乗せておいた。 目が覚めたら「まりしゃのおぼうしさんおりてきてねぇぇええ!」とか始まるだろう。 さて、一息ついて さっき買った特売の冷凍ゆっくりタコ焼きを取り出す。 昨日は食べそびれたから、こいつらが寝てる間に食べる。 ふんふんふん〜♪っと鼻歌を歌いながら パッケージを開けると、中から6個のれいむとまりさの赤ゆっくりが出てくるはずが 頭が半分食べられている赤れいむと赤まりさが5匹と1匹の少しサイズの大きな別種のゆっくりが凍っている。 緑色に尻尾が2本。 「わかるよー」が口癖のゆっくりちぇんだ。 これから食べようと思っていたまりさとれいむがもう食べられてるじゃないか。 まさか、この子ちぇんがやったのか? この冷凍ゆっくりタコ焼き買ったときは値段ばかり見て気づかなかったがパッケージも微妙におかしいぞ。 普通のゆっくりタコ焼きはれいむとまりさの笑顔で「おいしいよ!」なんて絵が描かれているが このパッケージのれいむはふんぞりかえっていて「ゆっへん!ゆっくりタコ焼き!」なんて絵柄になっている。 おそるおそる裏面をみると、原産国がめーりんになっていた。 とりあえず、凍ってるちぇんをオーブンで加熱して起こしてみよう。 待つこと数分・・・。 チーン! 「わかるよー!・・・あじゅぃぃいいい!わからないよぉぉおお!」 オーブンの蓋を開けてちぇんを取り出す。 ・・・つづく。 過去の作品 ゆっくりいじめ系1222 ゆっくり繁殖させるよ! ゆっくりいじめ系1254 赤ちゃんを育てさせる ゆっくりいじめ系1261 水上まりさのゆでだこ風味 ゆっくりいじめ系1297 ゆっくり贅沢三昧・前編 ゆっくりいじめ系1466 ゆっくり贅沢三昧・後編 ゆっくりいじめ系1467 まりさの皮を被ったアリス ゆっくりいじめ系1468 肥料用まりさの一生 ゆっくりいじめ小ネタ222 ゆっくっきんぐ ドナーツ編 ゆっくりいじめ系1532 可愛そうな赤ちゃんにゆっくり恵んでね ゆっくりいじめ系1580 ゆっくりしなかった魔理沙と愛のないアリス ゆっくりいじめ系1673 ゆっくりクアリウム ゆっくりいじめ系1715 ゆっくりトイレ ゆっくりいじめ系1735 ゆっくりれいむと白いお部屋 ゆっくりいじめ系1743 プラチナまりさとフリーすっきり権 ゆっくりいじめ系1761 ちょっとしたイタズラ ゆっくりいじめ系1905 あったかいゆっくり ゆっくりいじめ系1935 しゃべらないゆっくり ゆっくりいじめ系1940 愛されまりさの一日 作者:まりさ大好きあき